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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第4章 灯りが照らすもの

[アークシステムズ・ミーティングルーム/午後]



会議室のドアが閉まると、外の雑音がふっと遠ざかった。


テーブルの上には、ノートPCが3台。


柊(しゅう)、凪(なぎ)、環(たまき)が並んで座っている。


「……現時点でわかっているのは、“システム上は正常”ということだな」


柊(しゅう)が画面を見ながら言う。


「はい。ログも、権限も、不自然な点は……表面上は、ありません」


凪(なぎ)が少しだけ言葉を選びながら答える。


環(たまき)は、メモを取りながら小さく首を傾げていた。


「……でも、数字は動いていますよね」


「動いてるな」


柊(しゅう)は、環(たまき)の言葉を否定しない。


「だからこそ、“誰かが操作した”と断定もできない」


「でも、“何かが起きている”のは確かです」


凪(なぎ)が続ける。


「……ねぇ」


環(たまき)が、そっと手を挙げる。


「はは……灯(あかり)さんに、相談するのはどうでしょうか」


柊(しゅう)と凪(なぎ)が、同時に環(たまき)を見る。


「……灯(あかり)さん、か」


「数字の違和感に気づくの、灯(あかり)さん……すごく早いと思うんです」


環(たまき)の言葉は、いつも通りやわらかい。

けれど、その芯はぶれていなかった。


柊(しゅう)は一瞬考え、頷いた。


「……そうだな。呼ぼう」



◇



[同/数十分後]



ノックの音がして、ドアが開く。


「お待たせしました」


杖をつきながら、樫乃(かしの)灯(あかり)がゆっくりと入ってくる。


「灯(あかり)さん」

「灯(あかり)さん、こんにちは」


「こんにちは。……ふふ、3人そろってるの、久しぶりね」


灯(あかり)はそう言って、穏やかに微笑んだ。


席に着くと、灯(あかり)は環(たまき)の顔をじっと見てから、少し首を傾げる。


「……環(たまき)、なんか、チクッとしてる?」


環(たまき)は一瞬驚き、それから小さく笑った。


「……はい。ちょっとだけ」


「やっぱりね」


灯(あかり)は、ゆっくり頷く。


「じゃあ、その“ちょっと”を聞かせて」


柊(しゅう)が、これまでの経緯を簡潔に説明する。



経理システムの違和感。数字のズレ。誰も触っていないはずの修正。



灯(あかり)は、途中で遮らず、ただ静かに聞いていた。


「……なるほど」


説明が終わると、灯(あかり)は画面に映る帳票を見つめた。


「ねぇ、凪(なぎ)くん」


「はい」


「この数字、“おかしい”というより――

 “意図的に揺らされている”感じがする」


凪(なぎ)が、息を吸う。


「……やっぱり、そう見えますか」


灯(あかり)は、環(たまき)を見る。


「環(たまき)。数字はね、嘘をつかないの」


そして、静かに続けた。


「嘘をつくのは、いつでも人間よ」


その言葉に、会議室の空気が、すっと引き締まる。


「でもね」


灯(あかり)は、少しだけ表情を和らげた。


「これ、雑じゃない。やってる人、かなり慎重」


「……ということは」


柊(しゅう)が言葉を継ぐ。


「内部の人間で、システムの“仕組み”を理解している」


「ええ」


灯(あかり)は、はっきりとうなずいた。


「そしてもう一つ」


灯(あかり)は、環(たまき)に視線を戻す。


「“一気に盗らない”」


「……?」


環(たまき)が小さく首を傾げる。


「少しずつ、動かしてる。だから気づきにくい」


灯(あかり)は、やさしく言った。


「環(たまき)がチクッとしたのは、その“少しずつ”に、ちゃんと気づいたから」


環(たまき)の胸の奥が、ぽわっとあたたかくなる。


「……あリがとうございます」


灯(あかり)は微笑んだ。


「いいえ。気づける人がいるって、それだけで、守りになるの」


凪(なぎ)が、少しだけ笑う。


「……なんか、空気が軽くなりました」


「そう?」


灯(あかり)は肩をすくめる。


「重たい話だからこそ、ちゃんと呼吸しないとね」


柊(しゅう)は、静かに言った。


「灯(あかり)さん。引き続き、調査をお願いしたい」


「ええ」


灯(あかり)は、迷いなく答えた。


「これはね、“誰かを捕まえる話”じゃない」


杖を手に、ゆっくり立ち上がる。


「“何が起きているか”を、ちゃんと明るみに出す話よ」


会議室に、小さな安心が落ちた。


事件はまだ、終わらない。


けれど――


光は、もう灯(とも)っている。

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