↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
PR
21/22

第20章 名前を呼ばれる時

[アスペクト社・会議室]



静まり返った室内で、紙がめくられる音だけが響いていた。



誰も、急かさない。

誰も、責め立てない。



それでも――



空気は、重かった。



佐原(さはら)秀樹(ひでき)は、最後の一枚を閉じる。



「……疋田(ひきた)大輝(だいき)」



その名前が、淡々と呼ばれた。


疋田(ひきた)は、反射的に顔を上げたが、すぐに視線を落とした。


言葉は、出てこない。


言い訳も、反論も、もう形にならなかった。



数字は、すべて示している。

経路も、意図も、結果も。



「……本件については」


佐原(さはら)は、静かに続ける。


「社として、 正式な処分を行う」


それだけだった。

誰かが怒鳴ることもない。


問い詰める声もない。


その“静けさ”が、何よりも重く、疋田(ひきた)の肩にのしかかった。


「……以上だ」


会議は、それで終わった。



◇◇◇



廊下に出ると、日常の音が戻ってきた。


コピー機の音。キーボードの打鍵音。誰かの笑い声。


――世界は、何事もなかったように続いている。


疋田(ひきた)は、それを遠く感じながら、自分の席に戻った。


もう、やるべき仕事はなかった。



◇◇◇



[デザイン部/夕方]



坂辻(さかつじ)陸斗(りくと)は、自分のデスクに座ったまま、ぼんやりと画面を見つめていた。


そこに、一枚のスケッチが置かれる。


「……これ」


顔を上げると、八木尾(やぎお)航(わたる)が立っていた。


「前に言ってた、 “余白を残した構図”、 ちょっと描いてみました」


坂辻(さかつじ)は、スケッチを見る。


確かに、見覚えのある線。


だが――どこか、違う。


「……いいな」


ぽつりと、本音がこぼれる。


八木尾(やぎお)は、少し照れたように視線を逸らした。


「……一人で考えるより、 誰かと話したほうが、 見えてくることもありますから」


坂辻(さかつじ)は、しばらく黙ってから言った。


「……俺さ」


「はい」


「ずっと、 結果だけを見てた」


八木尾(やぎお)は、何も言わずに聞いている。


「でも……」


坂辻(さかつじ)は、ゆっくり続けた。


「これからは、 一緒に考えてもいいか」


八木尾(やぎお)は、少し驚いた顔をしてから、小さく頷いた。


「……はい」


それだけで、十分だった。


2人の間に、もう、奪う必要はない。


競う必要も、隠す必要もない。


デザインは、ここからまた、違う形で生まれていく。



◇◇◇



[アークシステムズ・仮設ミーティングルーム]



「……終わったね」


環(たまき)が、小さく息を吐いた。


柊(しゅう)は、環(たまき)の肩にそっと手を置く。


「一区切りだな」


凪(なぎ)は、椅子に背中を預けて言った。


「でも、 壊れたものばかりじゃない」


「ええ」


灯(あかり)が、やさしく微笑む。


「ちゃんと、 次につながる終わりよ」


環(たまき)は、胸の奥が、少しぽかぽかするのを感じた。


(……終わりは、 始まりでもあるんですね)


名前が呼ばれ、ひとつの物語は終わった。


けれど。


誰かが誰かを信じ直し、誰かが誰かと並んで歩き始める。


そんな静かな始まりも、確かに、そこにあった。


――それが、この事件が残した、もう一つの答えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。