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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第19章 逃げ場のない場所

[アークシステムズ・仮設ミーティングルーム]



資料は、すでに整っていた。



ログの一覧。金の流れ。権限操作の履歴。



そして――一本につながる、因果関係。


柊(しゅう)は、最後のページを閉じる。


「……これで、揃ったな」


凪(なぎ)が、小さく息を吐いた。


「疋田(ひきた)さんが触らなかった3日間。 あの“空白”が、決定的でした」


灯(あかり)は、静かに頷く。


「自分が動かない時間は、 相手も動かないと思い込んだ。 でも、違った」


環(たまき)は、資料を見つめながら言う。


「……動いていたのは、 疋田(ひきた)さんじゃなくて……」


「真実、だね」


灯(あかり)が、やさしく受け取る。



◇◇◇



[アスペクト社・会議室]



最初に呼ばれたのは、経理部・経理課。


上之原(うえのはら)颯太(そうた)は、資料をめくる手が、途中で止まった。


「……これは……」


「経理システムの不具合ではありません」


柊(しゅう)が、静かに言う。


「意図的な操作です」


凪(なぎ)が補足する。


「帳簿のズレも、 数字の消失も、 すべて同じルートから起きています」


上之原(うえのはら)は、深く息を吸った。


「……では……」


「はい。 内部の人間によるものです」


次に呼ばれたのは、システム部。


胡桃沢(くるみざわ)康平(こうへい)は、食い入るようにログを見る。


「……この処理……俺は、やっていません」


「分かっています」


柊(しゅう)は、すぐに否定した。


「だからこそ、 今日ここに来ていただきました」


胡桃沢(くるみざわ)は、ゆっくりと背もたれに身を預けた。


「……名前を、散らしていたんですね」


「ええ」


灯(あかり)が、穏やかに答える。


「疑いが一点に集中しないように」



◇◇◇



[デザイン部・会議室]



八木尾(やぎお)航(わたる)は、資料を見る手が、震えていた。


坂辻(さかつじ)陸斗(りくと)は、言葉を失っていた。


「……これが……」


坂辻(さかつじ)の声は、かすれていた。


「俺の知らないところで……」


八木尾(やぎお)は、静かに言った。


「だから、言ったんです。 ちゃんと確かめましょうって」 


坂辻(さかつじ)は、目を伏せる。


「……俺は……」


「あなたも、被害者です」


柊(しゅう)の声は、はっきりしていた。


「利用された。 それだけです」


八木尾(やぎお)は、小さく頷いた。


「……僕は、 もう怒ってません」


坂辻(さかつじ)が、顔を上げる。


「……どうして」


「広告は、 誰が作ったかじゃない」


八木尾(やぎお)は、ぽつりと言った。


「見た人が、 何かを感じるかどうかです」


坂辻(さかつじ)は、何も言えなかった。



◇◇◇



[代表取締役社長室]



佐原(さはら)秀樹(ひでき)は、最後まで無言で資料を読んだ。


そして、静かに閉じる。


「……重大な案件だ」


「はい」


柊(しゅう)は、短く答えた。


「社として、 正式な対応が必要になります」


佐原(さはら)は、しばらく考え込んだ後、言った。


「疋田(ひきた)は……もう、動けません」


凪(なぎ)が、淡々と告げる。


「システム上、 逃げ道はありません」


佐原(さはら)は、ゆっくりと頷いた。


「……わかった。社として、 責任をもって対応する」



◇◇◇



その頃。


疋田(ひきた)大輝(だいき)は、自分の席に座っていた。



いつもと同じオフィス。

いつもと同じ景色。



だが――



どこにも、出口がなかった。


システムは閉じている。


データは、もう自分のものではない。


周囲の視線が、少しずつ変わっていることにも、気づいていた。


(……囲まれている)


そう思ったときには、もう遅かった。


逃げ場は、最初から、存在しなかったのだ。


――数字が、すべてを示していたのだから。

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