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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第17章 焦りの一手 ―バックドアが鳴いた日―

[アスペクト・進行管理課/深夜]



静まり返ったオフィス。


モニターの光だけが、疋田(ひきた)大輝(だいき)の顔を照らしていた。


(……やっぱり、気のせいじゃない)


キーを打つ指が、わずかに止まる。



ログの流れ。処理速度。分岐の挙動。



――どれも、表向きは正常。


だが。


(……この間隔)


疋田(ひきた)は、自分が残した“名残”を辿る。


完全には消さない。

自分だけがわかる、わずかな癖(クセ)。


(……誰か、触ったか?)


背中に、冷たいものが走る。


慎重に、作業手順を変える。


いつもより、一段階遅らせる。


(様子を見る)


画面を見つめた、そのとき。



――微細な揺れ。



ログが、ほんの一瞬、跳ねた。


(……!)


疋田(ひきた)の心臓が、強く打つ。



侵入。



だが、派手な動きはない。


データも、動かない。


(……何も、してこない?)


相手は、こちらを探っているのか。


それとも――


見ているだけか。


(クソ……)


疋田(ひきた)は、一度、深く息を吐いた。


(焦るな。ここで動いたら、負けだ)


指を離す。処理を中断。


痕跡を、いつもより丁寧に消す。


それでも、完全には消さない。



――癖(クセ)だ。



席を立つ前、もう一度だけ画面を見る。


「……クソっ」


小さく、吐き捨てる。


「誰だったんだ」


(気づかないように操作されたのか……それとも、俺が焦ってただけか……)


結論は、出さない。


「……今日は、やめだ」


疋田(ひきた)は、何事もなかったように、電源を落とした。


その夜は、静かに終わった。


――そう、思っていた。



◇◇◇



3日後。



[アークシステム・仮設ミーティングルーム]



「……来るね」


凪(なぎ)が、静かに言った。


モニターには、待ち続けた“癖(クセ)”が映る。


柊(しゅう)は、何も言わず、頷く。


「……予定通りだ」


凪(なぎ)の指が、ゆっくりと動く。


「トリガー、準備完了です」



◇◇◇



[アスペクト・進行管理課/深夜]



疋田(ひきた)は、慎重にログインした。


(3日、空けた。これで、様子見は十分だ)



いつも通りの処理。

いつも通りの手順。


――の、はずだった。



(……?)


接続が、通らない。


バックドアが――塞がれている。


「……は?」


一瞬、思考が止まる。


慌てて、別ルートを叩く。


(残してある……はずだ)


だが。どこにも、“入口”がない。


(……消された?)


次の瞬間。


画面に、見覚えのあるデータ群が表示された。


(……ある)



金の流れ。操作ログ。


積み上げてきた、すべての履歴。



(よかった……)


そう思ったのも、束の間。


疋田(ひきた)は、気づく。


(……違う)


これは――



コピーだ。



動かない。書き換えられない。


中身は、自分がやってきた作業の“完璧な再現”。


「……ダミー……?」


喉が、ひくりと鳴る。


その瞬間。


画面の隅で、小さな通知が点灯した。



――トリガー、実行。



「……っ!」


疋田(ひきた)の背中に、はっきりと汗が滲(にじ)む。


(3日間……3日間で、全部、吸い上げられた……?)


自分が、作業を止めていた時間。


その間に――


すべてが、奪われていた。


(……しまった)


それは、初めて浮かんだ、明確な後悔だった。


だが、もう遅い。


疋田(ひきた)は、ようやく理解する。


――自分は、“待たされていた”のだと。


バックドアが鳴ったのは、侵入の音ではない。



終わりの合図だった。



静かだった夜が、音を立てて、崩れ始めていた。

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