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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第16章 数字は嘘をつかない

[アークシステムズ・仮設ミーティングルーム]



静かな部屋だった。



ホワイトボードには、金額、日付、ログID、権限階層。



一見すると、ただの数字の羅列だ。


だが――


灯(あかり)は、その前に立ち、ゆっくりと全体を見渡していた。


「……やっぱりね」


ぽつりと、灯(あかり)が言う。


「どこか、決定的に“整いすぎてる”」


環(たまき)が、首を傾げる。


「整いすぎている……ですか?」


「ええ」


灯(あかり)は、穏やかに微笑みながらも、視線は鋭かった。


「人が触ってる数字ってね、 必ず“揺らぎ”が出るの」


「入力ミスとか、ズレとか……?」


凪(なぎ)が口を挟む。


「そう。それも含めて」


灯(あかり)は頷く。


「でもこれは違う。 流れが、きれいすぎる」


柊(しゅう)が腕を組む。


「……不正が、丁寧すぎる?」


「ええ」


灯(あかり)は、指でログの一部を示した。


「ここ。 金額が動くタイミングが、 “人の確認のあと”じゃなく、“システム処理の直後”なの」


環(たまき)の胸が、少しだけざわつく。


(……人じゃなくて……)


「つまり」


灯(あかり)は続ける。


「人が数字をいじったんじゃない。 人の代わりに、システムが動いてる」


凪(なぎ)の目が、きらりと光った。


「……自動処理に見せかけた、 意図的な分岐ですね」


「ええ」


灯(あかり)は、ゆっくり頷く。


「しかもね」


灯(あかり)は、もう一段、踏み込んだ。


「この人、癖(クセ)がある」


「癖(クセ)……?」


凪(なぎ)が身を乗り出す。


「“完全に消さない”」


灯(あかり)は言った。


「痕跡を。 きれいに消せるのに、 必ず、どこかに“名残”を残す」


柊(しゅう)が、ふっと息を吐く。


「……自己顕示か」


「たぶんね」


灯(あかり)は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「自分の腕に、 自信がある人ほど、 そうなる」


凪(なぎ)は、キーボードに手を置いた。


「……灯(あかり)さん。 じゃあ、その癖(クセ)を」


「ええ」


灯(あかり)は、はっきりと言った。


「使いましょう」


環(たまき)が、思わず声を出す。


「……使う?」


「そう」


灯(あかり)は、環(たまき)を見る。


「相手が残す痕跡と、 “同じ形”で」


柊(しゅう)が、ゆっくり頷く。


「……罠を張る」


「ええ。 でも、責めるためじゃない」


灯(あかり)は、静かに言った。


「事実を、 “逃げ場のない形”で 浮かび上がらせるため」


凪(なぎ)の指が、軽やかに動き出す。


「了解です。癖(クセ)、コピーします」


「……凪(なぎ)くん、すごいです」


環(たまき)が、素直に言う。


凪(なぎ)は、にこっと笑った。


「こういうの、 パズルみたいで楽しいんです」


柊(しゅう)が、苦笑する。


「……楽しそうだな」


「はい! でもちゃんと、慎重にやりますよ」


灯(あかり)は、その様子を見て、少しだけ目を細めた。


(いいチームね)


灯(あかり)は、再びホワイトボードを見る。


「これで、 金の流れ、操作経路、 全部が一本につながる」


「相手は?」


柊(しゅう)が聞く。


「まだ、気づかない」


灯(あかり)は、はっきりと言った。


「気づいたときには、 もう“選択肢”がなくなってる」


室内に、静かな確信が落ちる。



数字は、嘘をつかない。

嘘をつくのは、いつでも人間。



そして今――


その嘘を支えていた“余白”が、音もなく、埋められていった。


まだ、疋田(ひきた)は知らない。


自分の癖(クセ)が、そのまま“証拠”になることを。


嵐は、もう組み上がっている。


次に動くのは――

追い詰められた側だ。

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