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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第13章 守られていること

[アスペクト・デザイン部/夕方]



坂辻(さかつじ)陸斗(りくと)は、自分が呼び止められた理由がわからなかった。


「……何だ?」


声をかけてきたのは、八木尾(やぎお)航(わたる)だった。


相変わらず地味な服装。控えめな声。


けれど今日は、どこか決意のようなものが滲(にじ)んでいる。


「……少し、話せますか」


坂辻(さかつじ)は一瞬、周囲を見渡した。


誰かに見られている気がして、それだけで、胸の奥がざわつく。


「……ああ」


2人は、フロアの端にある小さな打ち合わせスペースに腰を下ろした。


沈黙が、数秒流れる。


先に口を開いたのは、八木尾(やぎお)だった。


「……坂辻(さかつじ)さん」


呼び方が、いつもより少しだけ柔らかい。


「……坂辻(さかつじ)さんも、被害者だと思っています」


坂辻(さかつじ)の眉が、わずかに動いた。


「……は?」


思わず、声が低くなる。


「何を言ってる」


八木尾(やぎお)は、すぐには答えなかった。


言葉を選ぶように、視線を落とす。


「……僕は」


ぽつりと、続けた。


「坂辻(さかつじ)さんを、訴えるつもりはありません」


坂辻(さかつじ)は、思わず笑いそうになった。


「……今さら、何を」


「確かに」


八木尾(やぎお)は、淡々と頷いた。


「僕のデザインを使ったことについては、最初は……正直、怒りもありました」


そのひと言で、坂辻(さかつじ)の胸が、わずかに締まる。


「でも」


八木尾(やぎお)は、顔を上げた。


「冷静になって考えたら……僕が、あんな派手なデザインを、この会社で通せると思いますか?」


坂辻(さかつじ)は、言葉に詰まった。


八木尾(やぎお)は続ける。


「……正直、無理です。誰も、僕にああいう役割を期待していない。でも、あれはほとんど僕のデザインでした」


坂辻(さかつじ)は、無意識に拳を握っていた。


「坂辻(さかつじ)さんが、それを“生きたデザイン”にしてくれた。世の中に出してくれた」


八木尾(やぎお)の声は、静かだったが、確かだった。


「広告って……見る人にとっては、誰が作ったかなんて関係ないんです」


坂辻(さかつじ)は、顔を上げる。


「……」


「ただ、そのデザインを見て、何かを感じる。それだけ」


八木尾(やぎお)は、小さく笑った。


「僕は……それで、満足していました」


その言葉に、坂辻(さかつじ)は、完全に言葉を失った。


「……じゃあ、なんで……」


やっと、それだけを絞り出す。


「なんで、こんなことを調べてる。なんで、俺を訴えずに……」


八木尾(やぎお)は、少しだけ間を置いた。


「……報酬額です」


「坂辻(さかつじ)さんが、もらっているって言っていた金額。会社の規定より、明らかに少なかった」


坂辻《さかつじ》の喉が、鳴る。


「……」


「それが、どうしても引っかかった。だから、調べていました」


坂辻(さかつじ)は、背もたれに深く身体を預けた。


「……八木尾(やぎお)」


声が、かすれる。


「……なんで、そこまで」


八木尾(やぎお)は、少し困ったように笑った。


「……坂辻(さかつじ)さん。坂辻(さかつじ)さんは、金のこと、気にしてないでしょう」


そのひと言が、胸に刺さった。


「でも」


八木尾(やぎお)は、はっきりと言った。


「それを利用して、誰かが坂辻(さかつじ)さんを“悪者”にしようとしている」


坂辻(さかつじ)の視界が、一瞬、揺れた。


「……協力者がいます」


八木尾(やぎお)は、声を落とす。


「今、社内システムを構築している、アークシステムズの人たちです」


「……彼らが、調べてくれています」


坂辻(さかつじ)は、しばらく何も言えなかった。


訴えられると思っていた。

責められると思っていた。

なのに。


「……俺は」


ぽつりと、こぼす。


「……何も、知らなかった」


八木尾(やぎお)は、頷いた。


「だから、被害者だと思っています」


坂辻(さかつじ)は、ぎゅっと目を閉じた。


胸の奥で、張りつめていた何かが、少しだけ、緩む。


(……守られている)


それが、今まで感じたことのない感覚だった。


「……八木尾(やぎお)」


声が、低く震える。


「……すまなかった」


八木尾(やぎお)は、首を振った。


「……今は、それよりも。事実を、一緒に見届けましょう」


2人の間に、静かな時間が流れた。


外では、夕暮れの光が、ガラス越しに差し込んでいる。


その光は、坂辻(さかつじ)の足元を、そっと照らしていた。


――彼はまだ知らない。


この“守り”が、どれほど強く、どれほど静かなものかを。

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