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ep8 キャットエンジェル

ep8

「ニャーんだ!ミリュエルんとこのガキやったんか〜!」

「はい。ご挨拶が遅くなり、すみません」

クソ猫は俺の頭の上に乗ってミリュエルと話をしている。

振り落とそうと頭を振るが、その度に爪がこめかみに刺さって痛いので止めた。


「いやいや、いーのよいーのよ!ミリュエルも忙しいやろし!こんなガキのお守りなんて押し付けられてにゃ〜」

ニャニャエルは肉球を俺のつむじにバンバンと押し当てる。

(この猫ァ、ひき肉にしたろかな……)

「これはこれで、楽しくやれてますよ」

「そーかそーか!にゃら良いけどにゃ〜。まだ肌野市は慣れにゃいだろ?オレサマが今度案内してやるにゃ」

「それはありがたいですね。ぜひ、太郎に肌野の悪魔について教えていただけると助かります」

「ハァ〜?このガキは嫌にゃ〜。目上の者への礼儀がにゃっとらんし〜」


(下界料理のねこまんまって、コイツの出汁からでも作れるんかな)


「ぜひニャニャエル様の下で鍛えてもらえると、太郎も喜びます」

「え゙っ!?そんな勝手な……」

「ニャッハハハ!ミリュエルにそこまで言われちゃ困るにゃ〜。けど仕方にゃいか〜」

「いやまて、勝手に話を進めんなよ!」

「ニャンだよさっきからピーチクパーチクと……発情期かにゃ?」

(このクソ猫……!)

「あのにゃ〜。上の天使の会話に、最下層の下っ端が割り込んでくんにゃよ。それだから礼儀知らずって言われるにゃ」

ニャニャエルは俺の頭皮で爪研ぎをし始める。

額から流れる血で、視界が赤く霞む。


「……な、なぁミリュエル!ゆーてもコイツは所詮、一等天使なんだろ?大天使のミリュエルが、ペコペコする必要ねえだろ?」


場の空気が一瞬、凍りつく。

「ハァ〜?」

「……すみませんニャニャエル様。彼は天使学校での成績が下の下の阿呆者でして」

「ハァ。よくそれで天使学校卒業できたニャ〜」

「んだよ!関係ねえだろ――」

「まだ、卒業しておりません」

「は?」

俺はミリュエルを見つめる。

ミリュエルは俺とは目を合わせず、真っ直ぐとニャニャエルを見つめ繰り返す。

「太郎は、天使学校を卒業できてませんので……随分と世間知らずなのです」

「ニャッハハハ!!!ニャンだお前、天使の見習いですらにゃいのかよ!!こりゃ傑作ニャ!!」


ニャニャエルが腹を抱えて笑うのを尻目に、俺は唖然として聞き返す。

「ちょ、ちょっミリュエル!どういうことだよ!」

「どういうことも何も……。卒業できる成績じゃなかったでしょうに」

「いや、え、だって俺、下界に行けって言われたし……」

「誰も卒業させるだなんて言っていません。一年以内に悪魔を一体でも祓えたら、現場配属してあげると言っただけです」

「え、じゃあ俺って今は……」

「ただの留年不登校天使学生が、神様の気まぐれで下界に旅行に来ているだけという立場です」

「ニャーーーヒャヒャヒャヒャ!ニャンだお前、傑作にゃ!新任かと思ったら、ただの天界不適合者かよ!」

「う、嘘だろ……」

俺は膝から崩れ落ちる。

「まぁ強いて言うなら、天界機構には実習という形で届け出は出していますが」

「観光なら案内してやるにゃ!オススメの食い物もにゃ!プップーw」


「成績は卒業要項を満たしていませんし。そんな中、奇跡的に神様大学への推薦を貰えたんだから……留年したくないのなら、進学するしかないのですが?」

「そ、それだけは嫌だ!」

「それで敬語も使えねぇのか!納得したにゃ!なんだかキツく言っちまって悪かったにゃ〜♪」


「く……クソ猫がぁ……」

「本気で天使になりたいのなら、前線でバリバリに天使をやっているニャニャエル様に教えてもらうのが一番だと思いますが?」

「だ、だけどよ……」

歪みきった笑顔で真上から顔を覗き込んでくるニャニャエル。

「教えてくださいって頭を下げるなら、考えてやるニャ……!」

(この、口も態度も悪いクソ猫に……?)

「熾天使になるって言うのは結局、生半可な覚悟だったのですかね〜」

「ち、ちげぇ……」

「オレサマに師事するなら、ぐっちゃぐちゃにいじめ抜いてやるにゃ〜」

(でも、神様にはなりたくねえ……)


俺は――頭を、下げた。

「よろしく……お願いします」

ニャニャエルは俺の頭から高く飛び上がる。


そして……もう一度俺の頭の上に、勢いをつけて乗ってきた。

「地面に頭つけろにゃ」

ガンッ!

「ぐっ……!?」


意図せず、DO★GE★ZAの姿勢になる。

「しょーがねーにゃ!オレサマも鬼じゃねーし、天使らしく導いてやるかにゃ〜」


猫は、毛づくろいをしながら言い捨てた。

目も、合わせずに。


「そんじゃ、早速行くにゃ!」

「は?行くってどこに……」

「ちょうど目星をつけてた奴がいるニャ〜」

そう言うと、ニャニャエルは家から飛び出して行った。

「えぇ」

「ほら太郎。一度、天使の最前線というものを見ておきなさい」

「ミリュエル……」

「明日も学校ですから、朝までには帰ってくるのですよ」



「ただいま〜。聞いてよミリュエルちゃん。儂、今日一件契約とれたのよ〜」

「へぇ。それは良かったですね。もしかして……」

「いやいや、神力は使ってないわいな!そんなの使わなくても出来るのよ〜儂、神やし」

「ふーん」

「あれ?そういや太郎は?」

「あぁ。ニャニャエル様がお見えになって、その後連れて行かれました」

「え゙、なんで?」

「なんでって……彼女なら、太郎さんを成長させられるでしょう」

「成長させちゃ駄目じゃろ!!やっとアティナを落ち着かせられたのに、万が一でも悪魔を祓ったらどーすんのよ!!」

「あー、イッケネー」

「ちょっとちょっと……!万が一でも太郎が悪魔を祓うようなことになれば、本当に天使として認めないといけなくなるのじゃぞ!」

「いやー、なんだか太郎をみていると本当の弟のように思えてきて……つい応援しちゃいたくなりますよね」

「いやそういう問題じゃなくて!アティナに何て報告すれば……」

「ま、大丈夫でしょ。ニャニャエル様は"力天使"の系譜ですから。太郎が力をつけることは、最終的にはアティナ様にとって悪い話じゃないですよ」

それに――

「太郎が悪魔を祓うなんてこと、絶対にありませんよ。そのために"私もついてるんですから"」

「大丈夫なの〜?」

トホホ。と神様は項垂れる。そこへ、銀色の缶を差し出すミリュエル。

「まあまぁ。契約、おめでとうございます。ほら、乾杯」

「……上手く誤魔化しおって〜」

そう言いつつ、グイッと飲み切る神様。

「良い飲みっぷりですね神様。よっ」

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