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ep7 あれやこれや

ep7


悪魔は、欲望を糧にする。

悪魔は、七罪を司る。


悪魔は、人が創り出す。

悪魔は、心と結び合う。


「さぁ、次はお前の番だ」

「ゴンス」


悪魔は、自由を探求する。

悪魔は、契約を重んじる。


悪魔は、多様性を嫌悪する。

悪魔は、個性を敬愛する。


「次でゴンス」

「……」


悪魔は、背中を向けない。

悪魔は、羽を広げない。


悪魔は、嘘を吐かない。

悪魔は、真実を述べない。


『良いぞ。お前たちの"青春"は、悪魔によって担保される』

「はい」

「ゴンス」

「……」


薄暗闇の教室で。

儀式陣を囲む37人の影。


『おぉ……我々に、青春アオハルを与え給え』


儀式陣は妖しく光る。

時計の針は、真上を向いて眠っている。



「おはよ」

「おはよう……」

月曜日は、どことなくクラスの雰囲気が重い。

天界の教科書で読んだことがある。

これは「サ◯エさんシンドローム」というやつだ。


日曜日に流れる魔のアニメーション。

見たものの活力を根こそぎ奪うという呪われた光線。


"堕天"しないよう、下界へ初めて配属される天使は視聴が禁止されている。


(やれやれ……下界はどこもかしこも呪われているな)

「おはよう。アマちゃん」

「……」

「おーい、アマちゃん?無視はひでえや」

「……」

「おい!?」

突然視界にサルの顔が飛び込んでくる。

「おお、ビックリした!猿渡か」

「ビックリしたじゃねーよ。なんだ朝からぼーっとして。サザ◯さん症候群か?」

「いや、そもそもアマちゃんって俺のこと?俺を呼んでると思わんかった」

「へ?」

「え?アマちゃんって呼んでたよな?」

「え?アマちゃんはアマちゃんだろ?」


「……天使あまつかだから、あまちゃん?」

「おぉ。お前のニックネーム」

「そーだったのか」


「おはよ!アマちゃん!」

「おぉ、戌亥。おはよう」

「おい戌亥。オレには?」

「は?なんで猿渡に?」

「ひでぇな!挨拶は人として普通にしろよ!」

「ハヨー」

「んだその腑抜けた声は」

バキッ!

「イッテ!!」

「挨拶返せや!人として普通にしろよ!」

「ぐっ……おはよう……」

(おぉ。この暴力も戌亥なりの愛情表現だな。なんだかんだ、仲良くなってきたなこの二人も)


「そういや猿渡、お前土曜日来るって言ってたのに何で来なかったんだ?」

「へ?何のこと?」

「何のことって……映画――」

「オイ君たち!もうすぐ授業の時間だゾ!」

突然、大声で注意された。

声の主は2-Zの学級委員長、根津ねづ 新八しんぱち

ピシッと分けた七三分けで、丸眼鏡の男子学生。


「ほら、授業が始まるまでに机の上に教科書とノート、筆記用具を出しておくんだ!」

「そんな言っても、ノートなんてとらねーじゃん」

「何を言っているんだ、君は!」

根津は勝手に俺の机の中を漁り、ノートを引っ張り出した。

「今までは転入したてだったから多めに見てきたが、この禍津高校の名に泥を塗るような態度は僕が許さないゾ!」

(んだ、コイツァ……)

ふと視線を戻すと、戌亥と猿渡はそそくさと自分の机に戻っていた。


戌亥は目を閉じながら両手を合わせて、俺を拝んでいた。

(逃げやがったな)

「聞いているのかアマちゃん!筆記用具を出したまえ!」

「はいはいよ」

恨みがましく戌亥を睨むと、戌亥は片目を閉じて『ドンマイっ』と口パクしてきた。


「……ここ禍津高校は、伝統ある文武両道の高校として〜云々カンヌン」

根津は一人でずっと話している。

いい加減うざいなコイツ。

「君は転入生だから、まだ分からないかもしれないが、僕は学級委員として〜」

『オーイ、根津』

「えっ!先生!」

『もう予鈴鳴ってるぞ。学級委員なら皆の手本になれよ〜』

「あっ……すみません!」

いつの間にか教壇に立っていた佐藤に促され、根津は席に戻っていく。

めんどくさそうな奴に目をつけられたな……と俺は頬杖をついた。



「オイっ、アマちゃん!黒板が汚れているゾ!」

「アマちゃん!そんなモップじゃ、床を濡らしてるだけじゃないか!」

「アマちゃん!ペットボトルのラベルは剝がしたまえ!分別しろと書いてあるだろ!」

「アマちゃん!机は引きずるな!」

「アマちゃん!窓は閉めたまえ!」

「アマちゃん!礼はきちんと頭を下げるんだ!」

「アマちゃん!」

「アマちゃん!」

「アマちゃん………



「アァアァァァア!!根津の野郎、るっせええ……!これじゃ夢に出てくるわ!」

家への帰り道。戌亥と二人。

堪らなくなった俺は心の内を吐き出す。

「あはは。根津は一度スイッチ入ったらしつこいからね」

「何なんだアイツは。俺に何の恨みがあるんだ!」

「恨みとかじゃなくて、内申の為だと思うよ」

「内申?」

「そうそう。アイツ、大学推薦狙ってるからね。評価上げたいんでしょ」

「俺を目の敵にすることと推薦に、何のつながりがあるってんだ」

「多分だけど……誰かに言われたんじゃないかな?アマちゃんの"更生"……とか?」

「更生って……俺は別に何もしてねえだろ」

「さぁ……。そこらへんのことウチには分かんないけど。"決められたこと"やってれば何も言われないと思うよ」

「決められたことって……」

「あ、そうだ。ウチ今日早く帰らないといけないんだった!走って帰るから、アマちゃん、また明日ね!」


そう言って去っていく戌亥。

つーか、アマちゃんって呼び方。マジ何なんだよ!


「…気にくわねえな」

そう呟いて、道端に転がる小石を思いっきり蹴り飛ばす。

石は草むらに飛んでいき、何かにぶつかって跳ね返る。

「イニャッ!」

「あん?」

草むらから声がした。

「あー、誰かぶつけちった?すまんね」

そう言うと、一匹の白猫が飛び出してきた。

「にゃんだその生意気な謝罪は!猫だからってニャめてんじゃねえぞ!」

(なんだ、猫か)

別に珍しくもない。

天界じゃ動物が話すのは当たり前だった。

……いや、下界もだっけ?


そんな俺に向かって、白猫は毛を逆立たせてギャーギャー喚いている。

喚く内容は「ぶち✕すぞ!」とか「慰謝料寄越せ!」とか……聞いてられない。


通り過ぎていく女子高生は、「かわい〜」と笑っていた。

(あー、コイツの声って下界の人間には理解出来てないみたいだな。ってことはやっぱり……)

「まぁまぁ、ホントゴメンナサイ。それじゃ」

「ふっっざけるにゃ!!見ろ!オレサマの美しい毛並みに跡が付いた!」

特に何も付いてない。

「……ごめんって。そんじゃ、ボク急イデルカラ」

足早に立ち去ろうと振り返る俺を逃がすまいと、白猫は飛びかかってきた。

「にゃんだテメェは!……ん?オレサマと話せる?」

「あー……」

(バレた)


「ニャンだテメェ。もしかして一時的に配属されたってゆー天使見習いか?」

「ハァ。やっぱり、お前も天使かよ」

「テメェ……先輩に対する口の利き方がニャってねえな……!オレサマはこの肌野地区管轄の一等天使ニャニャエル様だぞ!敬語使えタコスケ!」

「ふーん、今後ともよろしく。じゃ」

「待てこらボケェ!」

ニャニャエルは爪を制服に引っ掛けて離れない。

「テメェ上司だれにゃコラァ!そもそも、一方的に通達だけ寄越して、挨拶にも来ねえでよ!会ったらギタギタにしてやろうと思ってたニャ!」

背中に張り付いて、ちょうどよかったにゃ!と息巻いている。

「上司誰って……」

「お前の拠点に案ニャイしろや!直接文句言ってやる!」


制服、破れそうなんだけど。

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