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ep6 映画デート

ep6


土曜日の駅前はいつにも増して人が多い。

前回戌亥と一緒に来たストバの前で待っていると、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

「天使〜」

声の主は手を振り、こちらへ駆けてくる。

「ごめん、待った?」

「あぁ、待ったな」

「オイ、そこは今来たとこ。だろ」

そう言って笑う彼女は、イメージよりもだいぶ落ち着いた服装だった。

全体的にモノトーンでまとめており、レザー調のジャケットを羽織る彼女。


どちらかと言えばカッコいい系だ。

……正直、派手な髪色や長いネイルの戌亥には似合ってない。

似合ってはいないのだが、何故か変ではない。


「なに?綺麗だねくらい言えよ」

「あ、あぁ……きれ、い。ではあるのか?」

「コノっ!」

殴られた。これがバイオレンスラブって奴か。


「猿渡はまだか」

「さすがにデートの邪魔をするほど野暮じゃないんじゃない?」

「そういうもんか」

「とりあえずチケットはネットで事前に買ってるから、飲み物とか買っとこ!」

「あ、お金」

「いいよいいよ。今回もウチが誘ったし」

「前回もそう言って払ってもらってるからな……さすがに」

「あ、それじゃあ飲み物奢ってよ」

「それでいいのか」


そう言って映画館に入っていく。


『シネ魔666肌野ステーション館』

自動ドアが開く。

館内は冷房が効いていてひんやりと涼しい。

ポスターが壁一面に並び、受付前には映画を待つ人たちの列が出来ていた。

甘い匂いと香ばしい匂いが、それぞれ混ざり合って漂っている。


「じゃあウチはアイスコーヒーで。天使は?」

「なら前と同じ魔茶ラテにしようかな。美味かったし」

「あはは!アレはストバのメニューだから映画館には無いよ〜」

「あ、そう。なら同じので良いや」

「じゃあアイスコーヒー二つでお願いします」

店員は慣れた手つきでレジを打つ。

「ご一緒にボッブコーンはいかがですか?」

「なんだそれは」

「映画を見るならボッブコーンとご一緒がオススメですよ!カップルサイズもありますし」

「ふーん。なら、それも」

「……カップルだってさ」

戌亥の顔が赤くなっているように見える。

「熱でもあるのか?」

と、聞こうとしたがやめた。

館内は薄暗かったので、ハッキリと見えなかったからだ。



迫りくる――恐怖。

『イヤァァァア!!!』

そこに現れる、謎の外国人。

『ワタシ、ニホンノ文化、ダイスキデース』

『アナタは……?』

『ワターシですか?』

『え、えっと……ふーあーゆー?』


『マイネーム イズ マイケル!』

〜荘厳な音楽〜

『私、アナタのことが好き!』

『Oh……ミートゥー』


真犯人は……誰だ――?


『マイケルぅう!!!』

『ソーリー。実はワタシ……嘘、ツイテマシタ』

『え?』

『ワタシノ本当ノ名前ハ……しげ……』

『イヤァァァア!』


明かされる真実とは……!?

そして、迫りくる恐怖ッッ!


ドンッ


『SHIGEYUKI』

来年春 ロードショー


………なんだこれ。

俺は小声で隣の席に座る戌亥に聞いた。

「なぁ、物語が全然分からないんだが、こういうもんか?」

「え?これ予告だから、分からなくて当然だよ」

「予告?」

「そうそう。気になったら、次見に来ようってなるんだよ」

「ほ〜う」


そうこう言ってるうちに、次の予告が始まった。


ドンッ

〜悲しげな歌が流れる〜

『なんでやねん!なんでやねん!』

『まだまだぁ!!あと百回!』

『はい師匠!なんでやねん!なんでやねん!』

――世界1のコメディアンになるために……

『なんでやねん!なんでやねん!』

――少年は、努力を重ねる。

『オイ、それ以上やったら死んでしまうぞ!』

『良いんです師匠!僕は、どうしても世界1のコメディアンに!』

『ばかやろぉ!ここはなんでやねんだろうが!!』

『ハッ……そうだったのか!』


迫りくる、恐怖――

(どんだけ恐怖迫りくるんだよ……)


『お、おいおい嘘だろ……!?うわぁぁぁ!!!』

最愛の師匠の、死。

『師匠ォォォオ!!』

悲痛の叫びが、空へ響く。

『師匠……なんでやねぇぇえん!!!!』


コメディアンになるために……少年は悪魔を倒す。

(ん、悪魔……!?)


『エクソシスター』

今年冬 ロードショー


「つまんなそ……」

「これ、気になるな」

「え゙?これが……マジで?」

「?あぁ」

(下界の悪魔観の勉強になるかもしれない)

「じゃあ……また冬になったら見に来よっか」

「そうだな」

「えへへ」



戌亥と一緒に映画館を出たあと、俺はストバで魔茶ラテを飲んでいた。


初めての珈琲は、苦くて飲めなかった。

それよりも一週間ぶりの魔茶ラテの甘さが身体に染み渡る。


「おもしろかったね!」

「あぁ。まさか殴ることが愛情表現とは、知らなかった」

「本当は駄目だからね!アレはフィクションだから良いケド」

「だが、最後にタケシが爆発したのはどういうことだったんだ」

「あれは比喩だよ。溢れ出る愛情に、身体が耐えられなかった、みたいな」

「そういうことか」

「戌亥は爆発しないのか?」

「えっ……な、何言ってんの!///」

バシッ

「ゥ゙ッ」

腹を殴られた。

(痛い。が不思議と悪くない。なるほど、これがバイオレンスラブってやつか)

「ねぇ……このあと、どうする?」

「このあと?」

映画を見る約束なのだから、もう帰るものとばっかり思っていた。

そのとき、店の前で見覚えのある制服を着た三人組の姿が目に入る。

彼らはクラスメイトだったような……

「なぁ、アレって――」

「……」

「戌亥?」


「今日は帰ろっか」

突然、戌亥が立ち上がる。

「え?」

「ワタシ、用事を思い出しちゃった」

「用事って……」

戌亥の顔を見る。

「え」

さっきまで笑っていたはずなのに。

そこには、何の感情もなかった。


目は深い深い穴。

久しぶりに、穴目になっていた。


「戌亥……?」

「また、月曜日。学校で。じゃあね」


そう言うと、戌亥は店から出ていく。

まだ半分以上残った、飲みかけの魔茶ラテを残したまま。

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