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天使くんは神様になんかなりたくない  作者: 土ノ子 ウナム
【第一章】天使くん、下界に行く
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第二10話 暴食と暴食②

第二10話


ミートロフの口が、舌が、迫る。 オレの腕ごと、食材へ変えて丸呑みにしようと視界を埋め尽くす。


だが――


奴の権能より、一瞬早く。


オレの権能が発動した。

「ギッ………ヤァァァアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!??」

オレの手へ触れた、その瞬間。

ミートロフの舌先が音もなく崩れた。


ぐしゃり。

肉が腐り落ちるように砕け、どろどろと溶け、黒い泥となって床へ滴り落ちる。


「な、にを!?何が起きた!?」

ベタつきながら溶けていく舌を慌てて引き戻し、ミートロフが飛び退く。

「見たままだ。」

オレは奴が距離を取った隙に、新たな魔法陣を展開した。

「お前の権能は、あらゆるものを食材へ変える力」


「ならば、オレは?」


オレは再度、展開した魔法陣をミートロフへ向け掌を正面へ置く。


「既に、お前は喰われている。」

「……なに?」


屍肉漁り(スカベンジャー)。

暴食として生まれた、オレの罪であり権能。


「食われた食材の行く末は――」


「……なにを」


「消化され」

「分解される」


ミートロフの舌先から広がる、黒く腐食した筋は波のように広がっていく。

「な、なんだ……やめろ……」

分解は、止まらない。


ぼろり。


頬の肉が音もなく崩れ落ちた。

ぼた、ぼた、と黒い粘液が床へ滴る。

骨の表面さえ白く泡立ち、酸で削られるように輪郭を失っていく。


「ギッ……ギャ……ァ……」

ミートロフは慌てて舌を切り捨てようと自ら牙を立てる。 しかし、遅い。

崩壊は顎へ。顎から首へ。首から胸へと、腐肉を貪る獣のような速度で這い上がっていく。


肋骨の隙間から黒い泥が溢れ、腹は力なく崩れ落ち、腕は指先から海に攫われる砂の城のように形を失っていく。


「や、やめろ……ッ!吾輩を……喰うなァァァァァ!!」

絶叫と共に身体を掻き毟る。 爪が皮膚を裂き、肉を抉っても、その下から現れるのは新しい肉ではない。

「だから、もう既に喰ったと言っているだろう」


「ァ……アッ………ァァ」


全身は音もなく崩れ続ける。


ぼろり。

ぼろり。


やがて膝が砕け、胴が崩れ、頭部すら輪郭を保てなくなる。


かつてミートロフだった黒い粘液は、生き物のように床を這い、ゆっくりとオレの魔法陣へ吸い寄せられていく。


それは抵抗するように震えながらも、決して逆らえない。

肉も。

骨も。

魔力も。


心さえも。


「お前の全てが、オレの糧となる」



ミートロフの叫びは止み。

"片割れの反応"も、残すは呆然とする37人の眷属のみ。


彼らも、主を失ったからか機能を停止したように固まっている。

(被魔人とはいえ、彼らも元は無関係の人間。神も悪いようにはしないだろう)


後は神に任せよう。

そう考え、オレは教室を後にしようと背を向ける。

拳を握る。

大悪魔を食ったというのに、思ったよりも魔力は滾らない。


(神に削がれたせいで、奴はそもそも虫の息だったのかもな)


そう納得して、教室の扉に手をかける。

瞬間、小さな悪寒が背を走った。


(待て……)


奴は、何故オレが来ることを分かっていながら、待ち構えた?

(自分の力を、過信していたのか)

――神に力を削がれていたのに。


何故、37人もの眷属は誰一人として奴に助太刀しなかった?

(所詮は眷属だからか)

――先ず、オレのチカラを確認するための人身御供くらいにはなれたはずだ。


何故、扉に化けて捕食した時点で、オレを食材に変えなかった?

(化けるチカラと、食材に変えるチカラは同時発動できないのか)

――いや、奴はそもそも体全体を口に変えながら権能を使っていた。


37人もの生徒。

特進クラスと銘打って増産した眷属。

捕食に適した姿へと化け、物や心さえ食材に変え、自らの細胞を増やす複数残機持ちの大悪魔。


そんな悪魔が、能力も未知の相手に正々堂々と戦いに挑むなど……!


『惜しい♪気づかれちゃったか!』

背後で声がして、オレは咄嗟に振り返る。

視点の先には、先ほど案内してくれた女子生徒。


確か名前は、武井……

『もう、遅いよ♪』

女子生徒の顔が、ぐにゃりと歪む。

首から上がグルグルと伸びたかと思えば、即座に螺旋状にほどけ、ざらりとした巨大な舌へと変貌した。


(しまっ――)

ブクブクブクッ

その瞬間、オレの四肢は膨れあがり、弾ける。


弾けた体はそれぞれが香ばしい香りを放つ。


下界の知識でいうところの――


(これは、ポップコー………)

オレの意識は、そこで途切れた。



『ハァ。ミートロフは死んだ。とだけ報告してくれれば、アナタも喰われることは無かったのに』


ポリポリ


軽快な音を立てながら、少し塩気の強いポップコーンをつまむ武井――もとい、ミートロフ。


『そうすれば、吾輩は哀れな被害者の一人として保護され、病院食でも食べられたのに……』


さて。どうするか。

もうここは使えない。

どうせ逃げたところで、次の暴食が吾輩の場所を探り当てるだけだろう。


うーーーーん。


どうせ消されるのなら、最後に腹いっぱい食いたい。

満腹なんて、生まれて今までなったことはないけれど。


『……全能の神とは』


ポリ。


『どんな味がするのだろうな』


じゅるり。

気づけば口元には、涎が溢れていた。


どうせ消されるのだし、この学校の絶望も、希望も、命さえも。


喰って。

喰って。

喰い漁って。


そして最後は一齧りだけでも――


『神に、喰らいついてみるのも悪くないな』


グゥ〜


『おっと、とにもかくにも。まずは腹を満たそう。一体減ったし、残りの心が37体しか無いのは心許ない』

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