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天使くんは神様になんかなりたくない  作者: 土ノ子 ウナム
【第一章】天使くん、下界に行く
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第二7話 暴食の悪魔

第二7話


悪魔は、欲望を糧にする。

悪魔は、七罪を司る。


悪魔は、人が創り出す。

悪魔は、心と結び合う。


悪魔は、自由を探求する。

悪魔は、契約を重んじる。


悪魔は、多様性を嫌悪する。

悪魔は、個性を敬愛する。


悪魔は、背中を向けない。

悪魔は、羽を広げない。


悪魔は、嘘を吐かない。

悪魔は、真実を述べない。


「さぁ神との契約に備えよ。暴食に塗れた心を糧とせよ。そして生まれ堕ちよ。お前の名は……」

ソウエンの手のひらから、インクのように滴る魔力。


それらはポタポタと、地面に刻まれた儀式陣へと吸い込まれていく。


「はぁ〜やだやだ。僕らはこうやって生まれたせいで、神との"お約束"を守らないといけないんだよね〜」

アスモデスマスは軽口を叩く。


ソウエンは無視して、口上を続ける。

「暴食の――ベルズバブル」


魔法陣が煌めく。獄炎に包まれたと思えば、瞬く間に炎は人の形を模して、やがて男が現れた。


「あぁ……僕が貰うはずだった心が……」

「黙っていろ」


ソウエンは生まれた男――ベルズバブルへと問いかける。

「意識は、はっきりとしているか?」


「……」


「オイ、気をしっかり持て」


「……」

ベルズバブルは無言のまま、辺りを見渡す。


「あれ、これ失敗じゃない?失敗だったら、コイツの心は僕が貰ってもいい?」

「失敗作、乙」


薄暗闇の地獄界で。

儀式陣を囲む6人の影。

それらを一通り見つめたあと、ベルズバブルは漸く口を開いた。


「……オカシイ」


「飢餓が溢れている。オレの兄弟が、まだどこかで生きている」

儀式陣は妖しく光る。

ソウエンは一瞬驚いたあと、微かに笑った。


「……ほう。失敗作の前回と違って、今回は期待が出来そうだ」

「ちぇー。成功か〜」


「"暴食"は、二人も要らない。そうだろう?」

「その通りだ。ソイツは神の許しなく下界へ侵入した厄介者だ」

「喰って……いいんだよな?」


ソウエンはすぐに下界への門を開いた。

「今すぐにでも。神の許しは、既に得ている」



「おはよー」

「おはよ」


月曜日は、どことなくクラスの雰囲気が重い。


天界の教科書で読んだことがある。

これは「サ◯エさんシンドローム」というやつだ。


戌亥さんは、机に伏している。

それでも僕が席に座ると、体を無理やりに起こしてこっちを見てきた。

「おはよ。アマツカ」

「あ、おはよう。戌亥さん」

「ふぁー、眠いな」

眠そうに目を擦る戌亥さん。

ヘアゴムを咥えて、乱れた髪を手際よくまとめる。


「……」

視界の端で、猿渡くんの視線を感じる。

それでも、何か言ってくることは無かった。


(もう、終わったのかな)


あの日。

僕が左手を叩き潰された日から、猿渡くんも、シンパチくんたちも声をかけてくることは無かった。

ときどき、不気味そうに僕を見つめてくるだけ。


「そういえばさ、映画、見た?」

「そうそう!その話をしたかったんだ!」



それから、僕は映画の感想を夢中になって語った。

戌亥さんは優しく微笑みながら、僕の話をずっと聞いてくれた。


時折。

ほんの一瞬だけ寂しそうな顔を浮かべたような気がするけれど、僕の思い過ごしだと思う。


「おーい、ホームルームはじまるぞー!」

気づけば、佐藤先生が黒板の前に立っていた。


「先に伝えておかないといけないことがあってな。突然だが、今日から新しい先生が赴任してくることになった」


「でさ、俺が近づいたら、ビビってよ」

「あ、昨日の魔ージックステーション見た?」


佐藤先生の話に興味がないのか、誰もまともに聞いちゃいない。


「このクラスに来ることは多分ないと思うが、校舎を見て回るらしい。会ったら挨拶くらいはしてやってくれ」


佐藤先生はいつも通り、返事ひとつ無いクラスに向かって、元気よく話し続けていた。



帰り道。


「……そろそろ左手が治ってもおかしくない頃だし、新しい手に変えてもらおうかな」

一人呟く僕。だけどすぐに、朝のことを思い出した。


■■■■■


「今日は私も神様も天界に呼ばれているので、帰れないと思います」

「あ、そうなの?大変だね……」

「さみしい思いをさせてしまってごめんなさい。せめて夜はこれで好きなものを買って食べてください」

「えぇ!こんなにいらないよ!」

「そう言わずに。お姉ちゃんからのお小遣いです」


■■■■■


「そうだ。今日は神様もお姉ちゃんも、いないんだった」


「……オイ」


「初めて一人だな……。ご飯、どうしようかな」


「オイ」


「そういえば、戌亥さんからストバってお店の話聞いてたな。そこに行ってみようかな……」


「オイッ」


「え!?」


突然、声がした。

「誰!?」

慌てて辺りを見回すが、誰も居ない。

「え……」


背筋が、ゾクリと粟立つ。


「こっち……に」

また。確かな声だけが聞こえてくる。

「もしかして、下界に生息すると言われる人間の怨念……幽……霊」


「こっちにゃ!!」

「うわぁ!?」

「先輩を化け猫扱いするにゃ!」


真っ白な毛並みの猫が、塀の上からふわりと飛び降りる。


首には小さなロザリオ。 オッドアイを得意げに輝かせ、軽やかに僕の頭へ飛び乗った。

「え、猫?」


「……うわぁ!下界なのに、猫が喋っている!」

「いちいち五月蝿いニャ!」


下界の猫は、喋らない。

というより、下界では魂の言語が共有されていないので、人間の体を使っている僕には伝わらないはず。


それなのに、頭の上の猫はフフンと鼻を鳴らしながら話している。


つまり――


「やっぱり、幽霊――」

「アホか!先輩天使 ニャニャエルにゃ!!」

「ニャニャエルニャ……さん」

「ニャニャエル!にゃ!」


そう言うと、ニャニャエルは背中に薄い翼を広げてパタパタと僕の眼前に飛んだ。

「わ!天使の羽!?」

「やれやれ。いくら新人とはいえ、見識が浅すぎるにゃぁ〜」


「凄い!下界で羽を広げられるなんて!」

僕はついつい興奮して、目の前に浮遊するニャニャエルさんを抱きかかえて羽を撫でた。

「ニャァ〜ン////


……って、勝手に触るなバカタレ!!」

ゴッ!


予備動作の無い右ストレート。

リーチは短いが、確かな威力を備えた猫パンチが、顔面にめり込む。

「ぐっはぁ……」

「貴様、いきなり体を触るなど天界でも立派なセクハラにゃぞ!!」

「ご、ごめんなさい。つい……」

「つい……で済んだら浄化も天罰もいらんのにゃ!」


プンプンと憤慨しながら、僕の周りを飛び回るニャニャエル。

「まったく……すぐに分かったにゃ。お前がこの地区の新人天使ってやつだにゃ?」

「あ、そうです。一応外界での名前は太郎って言います」

「ふん。いかにも下界に興味のない神が適当に付けそうな仮名だにゃ」

「えっと……あなたは」

「二度言わすな!」

ボコッ

「痛っ!」

「オレサマはわざわざお前の為に応援に来てやった。力天使系譜一等天使 ニャニャエル様にゃ!!」


そう言うとニャニャエルは、また僕の頭に乗っかる。

「せいぜい敬うんだぞ!」

「は、はい……」

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