第二3話 初めてのトモダチ
第二3話
禍津高校2-Aに転入して一週間が経った。
どうやらこのクラスにはいくつかカーストがあるみたいだ。
大まかに分けて三つ。
【傍観者層】
クラスの半数以上がこれ。
我関せずといった態度で、周りにも興味を持ってないように見える。
授業中は寝てるか、ゲームしてるか……
あと部活とかに精を出している子たちもいる。
【トップ層】
根津くん、若林くん、春日くんの不良組。
腕っぷしが強くて、見るからに悪そうな人たちだ。
基本的に彼らの意見がこのクラスの意見になる。
体育祭の出し物も、彼らが殆ど勝手に決めていた。
そして彼らはクラスの仲間たちを"役割"で定めていた。
提出物係。テスト係。集金係……
そして僕はパシリ……いわゆる下僕係になっているらしい。
そして最後。
【最下層】
トップ層の顔色を伺いながら、自分が下僕係のターゲットにならないように必死でご機嫌をとっている。
各々に"係"という役割が決められていて、中にはお金を取られている人もいる。
猿渡くんも、実は"風紀係"ここに含まれているようだ。
そして――
「ちょっとアマツカ。邪魔なんだけど」
「あ、ごめん……」
「別に謝るほどのことじゃないだろ。あんまりオドオドしてると、アイツラに目をつけられるよ」
「う、うん。ありがとう」
隣の席のクールな女子生徒。
ショートカットの黒髪で、切れ長な目が特徴的ないわゆる"カッコいい系"の少女。
戌亥 香さん。
ツンケンとした態度だけど、僕に普通に接してくれる唯一の存在だ。
彼女は2年生で女子バスケ部のエース。
いわゆるスポーツ推薦で、さっきのカーストで言うところの「傍観者層」に位置づけている。
彼女のように、スポーツや勉強に集中したいといってクラスには興味を示さない人たちも居る。
そんな人たちには、シンパチくんたちも絡まないらしい。
「それでさ、オレが通ってたバッティングセンターからバットをパクってきてさあ」
「え、それって、大丈夫、なの?」
「大丈夫だよ。お前を殴るのに、いちいち手で殴ってたら俺も痛えからよ」
「え……?」
「……放課後が、楽しみだな?」
「……」
猿渡くんはニヤニヤと笑っている。
でも、僕はこの1週間で理解したんだ。
笑いながらも、猿渡くんはチラチラとシンパチくんたちの様子を伺っている。
(きっと彼も……自分が言われた役割をこなすことに必死なんだ)
僕さえ我慢すれば、猿渡くんが下僕になることはない。
僕が、我慢さえすれば。
「ねえちょっと」
声をかけられて、横を向くと戌亥さんが立っていた。
「あ、戌亥……さん」
「なんだよ戌亥。いま俺達が話して――」
「そこ、私の席だから。どけよ猿」
ガンッ
そう言って戌亥さんは猿渡くんが座っている椅子を軽く蹴った。
「あ、え、あ?」
「あ?じゃねーし。自分の席戻れよ。私部活があるから、寝れるときに寝たいんだよ」
「そ、そんなの……!」
「サルだから日本語わかんねえのか。私は戻れって言ってんだけど?」
「〜〜ッ!」
猿渡くんは顔を真っ赤にして唇を噛みしめる。
クスクス
何かを言い返そうとしたが、周囲の傍観者層たちが薄く笑うのに気づいてた猿渡くんは舌打ちだけして席に戻っていった。
「めんどくさいならハッキリそう言ったほうが良いよ」
「え?あ、うん。ありがとう……」
「……どういたしまして」
そんな僕らを、猿渡くんは自分の席から睨みつけていた。
(クソアマツカ……覚えてろよ)
〜
そして放課後、旧校舎。
バキィッ!バキッ!
「調子にのりやがって!!」
猿渡くんはバットを振り回す。
「ぅ゙ッ……ぐっぅうう」
後頭部だけを庇ってうずくまる僕の背中を、腰を、バットで殴り続ける猿渡くん。
「戌亥の!野郎も!!推薦だかなんだか知らねえけどよ!!」
バキッ!ガンッ!!
(いたい……いたいよ)
「きまぐれで!口出ししやがって!!」
ガンッ!!
(でも、猿渡くんも、きっと苦しんでるんだ……)
「ふざけやがって!ふざけやがって!!」
「おいサル。何昂ぶってんのか知らねえけど、ほどほどにしとけよ」
「そうだぞサル!ププッ」
「くそくそくそくそ!!!舐めやがってあの女!!」
(僕が……僕さえ我慢すれば……僕は、僕は天使なんだから)
猿渡くんは金属バットを大きく振り上げた。
その眼はもう、僕のことさえ見ていなかった。
「ちくしょぉ!ちくしょうが!!」
「お、おい猿渡!やりすぎん――」
若林くんの言葉が終わる前に。
(え……)
振り下ろされる金属バットは、後頭部を守る僕の手の甲を強く打ち付けた。
ボキィ゙ッ!!
骨の砕ける、軽い音が鼓膜の奥に響いた。
その音は旧校舎へ乾いた余韻を残して、すぐに静寂が後を追った。
◆
「はい、あーん」
「ちょ、お姉ちゃん。大丈夫だよ!折れたのは左手だから……」
「いえ、駄目です。弟が怪我をしたら姉が看病をする。これは法律で義務付けられています」
「そーなんだ……」
「はい。だから口を開けてください。あーん」
「なんだか恥ずかしいな……」
「しかし儂の学校首席ともあろう天使が転んで骨を折るとは。情けないのう……」
「ハハハ……すみません、神様」
「……はい?」
ミリュエルの眉毛がピクリと動いた。
そして眼鏡をガっと上げ、神様をレンズ越しに睨みつけた。
「……太郎はまだ下界の生活に慣れてないのですから、仕方がありません。怪我をした子に対して何を言うかと思えば……。そもそも!それを言えば神様だって、この前側溝に足を突っ込んでましたよね?」
聞いたこともないような早口で捲し立てられ、神様も驚いた表情を浮かべる。
「バ、ババババカなことを!儂、神様よ!?側溝に足突っ込むなんてバババ」
「しかもこの前は家電量販店の扇風機に髪の毛巻き込まれてました。その長ったらしい髪が邪魔なんです!」
「な、ナナナ何言ってんの!?そんなわけないじゃん!人違いじゃん!?」
「怪我だってたくさんしてるの、知ってますから。その度にコッソリ神力で治してますよね!」
「神様ともあろうお方が!情けないですね!」
「は、はぁ?ハァ!?治してねーし!ハ!?今だって寝違えた首が痛えの、ずっと我慢してるし!儂!」
神様は顔が真っ赤だ。
「やばいわー!言いがかりやばー!」
「どちらにせよ情けないです!」
「………ぐぬぬ」
ミリュエルはふいっとこちらを向いて、すぐに優しいいつもの笑顔に戻る。
「あんなジジイの言うことなんて気にしなくて良いですからね太郎。さ、あーん」
「……あ、あーん」
(神様って、こんなに情けなかったっけ……)




