ep18 ゴリエダという男。
ep18
國枝 毅はボンボンである。
出身は夜魔梨県の山間部。
村の大地主である國枝家の三男として生まれた。
親、兄弟は皆容姿端麗、頭脳明晰。
村の有力者であり、人望も厚かった一族。
しかし、ツヨシだけがブサイクだった。
別にブサイクだからといって親から愛情を受けなかったわけではない。
兄弟から蔑まれていたわけではない。
むしろブサイクすらも個性として受け入れてもらっていた。
だが、家族の優しさはツヨシのコンプレックスを更に肥大化させていくことになる。
見た目だけじゃなく、家族と比べて心まで醜い自分への嫌悪。
陰で自分のことをバカにしてるのではないかという被害妄想。
そして、兄たちが余裕で合格していた大学への受験失敗で、遂にツヨシの心の闇は溢れ出した。
〜
気づけば、僕は家を飛び出していた。
山を駆け、谷を抜け、川を飛び越える。
涙を拭うハンカチも持たず、飛び散る鼻水は虹の橋を架ける。
腹が減れば山菜を食べた。
喉が渇けば川の水を飲んだ。
夜になれば木にもたれ掛かり、数刻だけ目を瞑った。
そしてまた走った。
一日。
二日。
三日。
走るのだ。
絶望から逃げるために走るのだ。
なんとかなる、ならぬは問題ではないのだ。
自分の未来も問題ではないのだ。
なんだかもっと不明瞭で不確定な結末に向かって走っているのだ。
〜
そして気づけば"俺"は都会に出ていた。
神無川県。見たこともない群衆の中心。
巨大な建物のガラスに映る自分。
そこにいたのは、家を飛び出した頃の陰湿で気弱な少年ではなかった。
俺の体は筋肉の鎧に包まれ、骨格すら肥大化していたのだ。
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「――そして綿堂理事長に拾ってもらった。こんな俺を拾ってくれた綿堂理事長の掲げる理想の為に、この身を捧げると決めているんだよ」
ゴリエダは長々と語っている。
「あ…………はい………」
俺は何も言うことが出来ず、ただ相槌をうつしかない。
(なんだこの話……)
「綿堂理事長が定めたルールは、決して学校の為にあるんじゃない。むしろお前たち生徒を守るためにあるのであって――」
(エグい。めちゃくちゃ長い。もはや殴り飛ばして逃げたほうが良いのか?)
そう思ってゴリエダを見上げる。
(いや無理だ。推定身長3m、推定体重200kgはあるコイツを殴り飛ばすなんて、普通の人間には不可能だろ……)
「そもそもお前、学年とクラスはどこだ?」
「あ〜、2-Zで……」
「なにぃ!?」
ゴリエダが前かがみになり、顔を近づけてくる。
(顔でけぇぇ!こえぇえ!俺の肩幅よりでかいんじゃねえか!?)
「ならなおさら戻れ!ここから先は立ち入り禁止だろうが!」
「いや、そんなことよりクラスがおかしくなっていて……」
必死に説明をしよう口を開いたそのとき。
パリィイン!
突然渡り廊下の窓ガラスが砕け散った。
「えっ!?」
「なんだっ!!?」
ゴリエダと俺が同時に振り向く。
「よっ……と。やっと見つけたで〜」
「グリコ様!やっぱりここに居ましたね!賭けはオイラの勝ちですね!」
割られた窓から入ってきたのは、ツインテールの幼い少女……とその頭の上に乗った薄汚いネズミ。
何やらこちらを見て、ニヤリと笑っている。
ゴリエダは割れた窓ガラスを指さして怒声をあげる。
「なんだお前たちはァ!!!この学校の生徒じゃな――」
「やかましわ」
だが、ゴリエダが言い切る前に少女は俺の目の前に立っていた。
「……え?」
「アンタはお呼びやないねん」
ブシャァアーーー!
次の瞬間。
ゴリエダの背中から大量の血が噴き出した。
巨大な身体がぐらりと揺れる。
少女はゴリエダに一瞥もくれず、俺を見つめる。
「なかなかええ面しとるやん!アイツに渡すの勿体ないかもなぁ〜」
「いけませんよグリコ様!あの方に逆らったら……」
「わーっとるがな!ボケやボケ!よし、ほな行くで」
少女は俺の手首を掴んだ。
「え――」
細い指。 子供みたいな手。
なのに、まるで鉄の枷だった。
グイッ――
強引に引かれる。 体が数歩前へ流された。
「ちょ、待っ――」
少女はそのまま砕けた窓へ向かう。
「ほらほら、はよせえや〜。ウチせっかちやから、ちゃっちゃか歩きいや」
「誰が行くか!!」
俺は反射的に腕を振り払った。
バシッ!
少女の手が離れる。
「……あ?」
低く、重い声。
振り払われた手で、少女は流れるように髪の毛先を小さくいじる。
「うわ!グリコ様うわ!オイ小僧謝れ!早くグリコ様に――グぇっ!」
あからさまに慌てふためくネズミを乱暴に掴み、投げ捨てる少女。
「アカン。キレてもうた」
「グリコ様!落ち着いて!」
「コイツちょっと舐めてるわ。ウチ短気やからさ〜」
少女はこちらへ振り向き、感情の無い目を向けて口角だけ小さく上げた。
「痛めつけたなってきたわ」
少女の眼光が鋭く刺さる。
そして俺がまばたきした瞬間、視界から消えた。
「え……」
横から焦ったネズミが叫ぶ。
「少年!後ろや!避けてくれ!!」
「遅いやろ」
背後から声がした。
俺が振り返るよりも先に――
ドゴォッ
鈍い音。
自動車同士が正面衝突したような音が聞こえる。
そして俺はようやく振り返る。
そこには、巨大な背中があった。
「うちの生徒には手を出させん。それが綿堂理事長の決めたルールだ」
「ご、ゴリエダ……!!」
少女の手刀を、ひときわ巨大な手のひらで受け止めるゴリエダ。
「下がってろ。どうやらコイツは、ただの不審者じゃなさそうだ」
「なんやお前……脇役が出しゃばんなや」
「グリコ様!もう良いからさっさと行きましょ〜よ〜!」
「アカン。新キャラが次々活躍すると、読者が混乱してまうからな」
そう言って少女はゴリエダに掴まれた手を無理やり剝がし、一歩距離をとる。
「尺の都合上、このゴリラはここでサヨナラや」
「……ふざけた奴らだ。教育的指導が必要なようだな」
「ほざけ!」
シュッ――
ドカァァン!
目の前で、両者は高速の戦闘を繰り広げる。
手数と高速移動で翻弄する少女と、物量と質量で圧をかけるゴリエダ。
俺とネズミは、その様子を端から眺める。
「いつからバトルものになったんだ」
「……まったくッス」




