ep16 刺客たち
ep16
『次は、我が校が誇る音楽室です。今をトキメクアーティストがここでよく練習をしていたのです』
『あ、そうそう!その子たちが今上映中の映画で主題歌を歌ってい魔して!その映画、ご覧になられ魔したか?それが素晴らしい歌で――』
「あー、ハイハイ……」
(なんか、ずいぶんと疲れたニャ……)
化学室。体育館。多目的室。
綿堂による禍津高校案内ツアーも佳境に入り、同時にニャニャエルの精神も限界が来ていた。
(本当に悪魔にゃんているんだろうか……)
そう思いながら音楽室の扉に手をかける。
『ここは最新の防音設備が整っていましてね。中でどれだけ激しく演奏しても――』
扉を開けた瞬間。
けたたましい声が、ニャニャエルの鼓膜を貫いた。
「アシ〜タガ〜アルーサ、アスガァアルゥウウウ!!!」
「うるさっ!!!」
そこに居たのは、黒い厚手のコートで身を包む男。
「おやおや……遅かったですネえ」
顔はハットでよく見えないが、笑う口だけがこちらへ覗いている。
「ウフ。退屈過ぎて歌っちゃってました」
「ハァ。やっと見つけたニャ」
『……本当に侵入者がいたとは』
ニャニャエルの白い毛並みが逆立った。 耳はぴんと立ち、細くなった瞳孔が男を射抜く。
「オイ!オレサマはこの地区の担当天使ニャニャエルだ!てめぇ無許可で外界侵入してんだろ!」
男は不敵に笑い、帽子を脱ぎ捨てた。
「アナタ、明日は見えてますか?」
「あ?」
「明日とは、未来です。未来とはそう――可愛い子どもたち!」
男の言葉を聞いて、綿堂は口を開く。
『目的は生徒たちですか?』
「子どもたちとは……そう!子種ですっっ!」
「……」
『……』
綿堂とニャニャエルは、返す言葉が見つからなかった。
(コイツ……会話が出来ねえタイプの悪魔かにゃ)
「さぁ、アナタたちにも見せてあげましょう。未来を!!エクスタスィイイーーー!!!」
男は両手を大きく広げた。
バサァッ――
黒いロングコートが宙を舞う。
「なっ――」
コートの下は何もない。
あるのは、まっさらな肉体のみ。
シャツも。
ズボンも。
靴下すら。
男は一切の衣類を身に着けていなかった。
「ぜ、全裸じゃねぇか!!!」
『なんと……』
綿堂までもが一歩引く。
男は誇らしげに胸を張った。
「ウフフフフ!そう!私はいつだって未来を見ている!!いや、見せている!!」
「い、意味が分からんにゃ!!」
「エクスタシィ……チャージ!!!」
ギギギギギ――――
不快な駆動音が鳴り響く。
男の腰のあたりから、金属部品のようなものがせり上がり始めた。
「えぇ……」
ニャニャエルが固まる。
伸びる。
まだ伸びる。
まるで格納されていた兵器が展開されるように、銀色の筒状パーツが何段階にも分離しながら前方へ突き出していく。
「アァ〜……」
その間、男は恍惚とした表情を浮かべている。
ガコン。
ガコン。
ガギン。
音楽室に似つかわしくない重機械音。
先端部が花のように展開すると、その内部で青白い光が明滅し始めた。
バチッ。
バチバチッ。
『これは……』
空気が焦げる匂い。
筒の内部で、電流が収束していく。
「ま、待て待て待て待て待て待て!!!」
ニャニャエルが慌てて叫ぶ。
「にゃ、にゃんでそこから砲台が!?」
『ニャニャエルさん、これはマズイですね』
綿堂が真顔で言う。
「そんなの見ればわかるにゃ!」
青白い光はさらに膨れ上がる。
音楽室の空気が震えた。
そして――
「エクスタシィ゙……ショーーーーック!!!」
ドォンッ!!!
眩い電撃が一直線に解き放たれた。
「ニャニャニャ!!!」
『失礼』
綿堂は慌てるニャニャエルを抱え上げる。
『私にお任せください』
電撃が迫る、その刹那。
『タイダー……バリア!!』
綿堂の手から広がる魔法陣が、綿堂とニャニャエルの全身を包む。
バリバリビリビリバリィッッ!!!!!
電光が空気を震わせながらニャニャエルたちを包む。
「ニ゙ャ゙ーー!!………あれ?全然痛くニャイ」
『ニャニャエルさん、安心してください。タイダーフィールドで我々の痛覚含む触覚は働いていません』
「ほう!だから痛くもなんともにゃいのか!」
『あ、いえ。痛くないですが、なんともないというわけではありません』
「え?……あれ?体が動かニャイ……」
『痛覚や触覚を怠けさせただけで、普通に電撃は食らってますから。麻痺ってますね』
「意味ねーーーじゃん!!」
『あ、あとタイダーバリアを使うと、禍津高校全域に張っていたタイダーフィールドも解除されますのであしからず』
「とことん使えん能力にゃ……まぁ、侵入者の悪魔は見つけたし、その結界はもういらんだろ」
キーンコーンカーンコーン
そのとき、二時限目開始の合図が鳴る。
『急ぎましょう。今は結界が無いので、一般生徒が旧校舎に入ってしまうかもしれない』
綿堂は腕時計を確認する。
『授業が終わるまで50分……』
「言われなくても、さっさと殺るだけにゃ」
「うふ。未来を感じますか?」
綿堂は眼鏡の位置を静かに直した。
『久しぶりに教鞭に立つとしましょう』
『――地獄送りの授業を、開始します』
◆
「ハァ〜、ここ、立地悪すぎひん?」
少女はそう呟き、校門を見あげた。
『私立 禍津高校』
黒い鋼鉄の門が、美しい輝きを放つ。
ウチを招き入れようとしてるのか、軽々しく開ききった門。
「国内屈指の悪魔育成機関も、こうみると安っぽいねんな〜」
校門の脇にあるインターホンのボタンの下。
低い位置に、銅色の小さなベルが掛けられているのを確認して、少女は唾を吐いた。
「バリアフリー……いや、ダイバーシティ?胸糞悪いやっちゃな。悪魔が環境気にしてどうすんねん」
そう言って、少女は校門を抜ける。
禍々しく笑うその姿。おでこから小さく伸びる角が、影を伸ばす。
「くそ面倒なアイツの結界も解除されてんな。変態はウチらの指示通り、ちゃんと動いてるようやん」
少女は口元を歪める。
『賭けはオイラの勝ちですね!グリコ様!』
結んだ少女の髪の毛から、一匹のネズミが顔を出して応えた。
「やかましわ。ウチも最初から信じてたっちゅーの」
『ウッソだぁ!"神の力なんて信用できひ〜ん"とか言ってたじゃないスかぁ!』
「うっさいわボケ!そんなことより行くで」
『へい!下界は臭くてかなわんス!』
「キキキ。とっとと目当てのモン見っけて、地獄へずらかろうやないか」
『へい!そうしましょう!』
一人と一匹。
迷うことなく、向かった先は旧校舎。




