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15/15

ep15 怠惰のチカラ

ep15

禍津高校は、外から見るよりもずっと広い。

もうかれこれ30分は学校内を見て廻っている。


……綿堂の案内に従って。

この30分間で聞かされた、卒業生の数は二桁を超えている。


『狂産党の錨議員わかりますか?彼もウチの卒業生でしてね。彼は毎日お昼休みになるとここの中庭で購買の魔ロンパンを食べてましてね――』

「……俺は学校訪問に来た保護者じゃにゃーぞ!いつまでもクドクドと!!」

『あ、そうですか?無言で淡々と探すのもお暇かと思い魔して……あ、あそこは化学室ですね。先日ノーベル賞にノミネートされた小郡さんが毎日――』

「あーー!もういいにゃ!二手に別れて探すにゃ」

『え、それは魔ズイですよ。私と一緒じゃないと、ナナエルさんも結界に……』

「オレサマをそこらの雑魚と一緒にするにゃ。何年天使をやっていると思ってんだ!」

『いやいや!逆ですよ』

「ハァ?」

『私の扱う魔術はオリジナル設計になっており、かかった対象が"強者であればあるほど"効果的なのです』


綿堂は今歩いていた中庭に、再度魔法陣を展開させる。

『中庭に結界を張り直し魔した。一度、体験してみますか?』

「ほ〜う」

『もし、ナナエルさんがこの結界をものともしないようであれば……そうですね。いつでもどこでも、自由に禍津高校を出入りしても良いことにし魔しょう』

「ニャハハ、おもしれぇ!」


笑いながら、オレサマは魔法陣の展開された中庭に飛び込んだ。


(さぁ、何が起きるにゃ?獄炎でも猛るか、嵐でも吹き荒れるか――)


………何も、起きない。


平和な中庭のまま。

(は?にゃんも起きねえじゃねえか)


そう思って、オレサマは振り返る。

眼の前には、薄く笑う綿堂が立っている。


(拍子抜けも良いとこだにゃ!これのどこが結界にゃ)

そう思い、戻ろうとするが――


グゥーーーーン


(は?)


進むごとに、綿堂が離れていく。

いや、綿堂だけじゃない。綿堂の立つ中庭入り口の扉が、引き延ばされるように後退していくのだ。


(な、どうにゃってるんだ?)


走っても走っても、速度を上げるオレサマに呼応するように、扉もまた速度を上げて後退していった。


(これは……)


刹那、綿堂が視界から消えた。

存在そのものが、一瞬で掻き消えるように。


「――は?」


次の瞬間。

すぐ目の前で、綿堂の眼鏡が鈍く光る。

(近ッ――!?)

反応するより先に、綿堂の手がオレサマの脇へ差し込まれた。

地面が揺れる。


いや、違う。

揺れたのは地面ではなく、オレサマの視界だった。


景色が一瞬で後方へ流れ去る。

校舎。花壇。ベンチ。

中庭の全てが、線になって後ろへ消えていく。

(こ、コイツ、疾すぎる――!)


「はい、到着です」

気づいた頃には、既に中庭の外へ連れ出されていた。

綿堂は何事も無かったかのようにオレサマを地面へ降ろした。

「にゃ、な、なにが……」

『ナナエルさん。アナタは何秒ほど中庭にい魔したか?』

「あ、え?何秒って……10秒くらいかにゃ」

『1分です』

「は?」

『アナタが中庭に入ってから。実際には1分待ちました』

「そんにゃバカな!」


(体感じゃせいぜい十秒。それなのに、一分……?)


『説明するとややこしくなりますが……私の操る結界"タイダーフィールド"内では、皆等しくナマケモノと同じ程度の動きしか出来魔せん』


「……は?ナマケモノ……?」


『あら、ご存知ない?ナマケモノの動きというのは陸上で時速15m程度でして、一分あたりの速さとすると――』

「ナマケモノのことは知っとるわい!そうじゃなくて、ナマケモノの動きににゃるだと!?」

『ええ。中庭に入ったナナエルさんは、それはそれはゆ〜っくりと動かれてい魔したよ』

「にゃっ………」

『私は"怠惰"の権能者。誰もが平等に、怠けられる……!それこそが、タイダーフィーーーーッルドッッ』

綿堂は両手を掲げ、恍惚とした表情を浮かべやがった。


(ふざけた能力……だが、あまりにも厄介にゃ力)


『とはいえ一分を十秒に感じられるとは、さすがはナナエル様。それこそ強者の証』

「……」

『体はゆっくりにしか動かない。なのに、思考速度はいつも通り……。そうすると、どうなるのか?』


『ズバリ!!体と、脳のイメージに激しい乖離が生魔れ魔す!!』

「……」

『自分はいつも通り走っている!動いている!!なのに視界が、世界が動かない!!いや、逃げていく!!奥へ!!遠くへ!!引き延ばされていくうううう』

「……」

『たった10mの距離ッッ!!いつまでたっても届かない!!何故!?どうして!?ゴールが、奥へ逃げていっているように見えるッッ!!』


『……思考速度、自らの動きの練度、自信がある人ほど!!実際の時間より体感時間が短く感じてし魔うのですッッ』

「……」


オレサマは空を見上げる。


『私は怠惰の悪魔ですが!大切な生徒たちを、青春を守るために、私自身の手間は惜しみ魔せ〜〜ん!!』


(コイツと話すと……本当に疲れるにゃ)


『あ、一応こちら神様向けのプレゼン資料になりますので、お渡ししておき魔す』

「え?あ、あぁ……」


□□□□□□


【禍津高校 防犯設備紹介】

※神様向け資料

イラスト・文章 綿堂メンドウ マモル


下界に悪魔の学校って大丈夫なの?

突然の災害やラグナロクに耐えられるの?


そんな心配御無用!

理事長である私、綿堂 護が全力で大切な人間と無害な悪魔見習い達を守ります。


★防犯セキュリティ例

◆タイダーフィールド

禍津高校敷地内に張られた魔法陣にて展開されるタイダー空間


空間内に入ったものは等しくナマケモノ程度の動き(陸上時速15メートル程度)しか出来なくなります。


つまり、15メートル進むために1時間かかるということ。


その場合、

①思考速度が早い人

②自らの動きのイメージが完璧に出来ている人

といった危険な者ほど、自らがイメージしている体への命令信号と実際の移動に乖離が生まれるので、混乱をきたします。


↓以下、プレゼン時台本

ぼーっとしていたり、逆に集中していると時間がびっくりするくらい早く進んでることがありますよね。


それと同じで、タイダーフィールドにいると脳の思考速度だけがフル回転しているため、たった10秒のつもりなのに実際には1分、2分経ってたりします。


より深くトランス状態に入った者や、思考速度が早い人は体感1秒が1分に感じられる場合もあります。


凶悪な悪魔も、堕天使や異常者の軍勢であろうと、タイダーフィールド内では連携も作戦も無駄無駄!

30分だけ活動していたつもりなのに、実際には何時間も経っていて、その間に禍津高校セキュリティ舞台が包囲いたします。


可愛がっている外界人を入学させたい場合は是非、我が禍津高校へ!

学内説明会リンクは以下のQRコードを読み取ってください。


□□□□□□


(読んで損したニャ……)


『あ、お望みでしたら当校の願書もござい魔すが?』

「いらん」


キーンコーンカーンコーン

一時限目終了の鐘が、空虚な空に鳴り響いた。

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