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ep13 猫の手も借りたい

ep13


初めて、あの異質な授業を恋しいと思った。

授業さえ始まれば、この異常な歌現象も収まるだろうと……。


なのに――


「佐藤のやつ時間になっても来ないじゃねーかよ!」

「「「じあ゙〜わぜなら手ぇヲただゴぉ」」」


パンッ……パンッ!!

もはやクラスの生徒は歌い続ける人形のようになっている。

戌亥も、猿渡も、根津さえも空虚を見つめて歌い続ける。

「おいおいしっかりしろよ〜。授業時間始まってるぞ!いつものあの穴目を見せてくれ!」

懇願する太郎を尻目に、生徒たちは歌い手拍子を続ける。


パンッパンッ!


「あ゙あ゙ぁぁ、なんだこれ、なんだこれ!!頭がおかじぐなるぅうう」

やべぇ、本当に気が狂いそうだ。


今すぐ教室を出て職員室へ行きたい。

だが、歌う生徒たちが出入り口をガッチリとガードしていて一切動かなかった。


「どけええ」

「じあわせな〜ら」

「もうええて!しつこいわ!!」

「足な〜らぞぉ〜」

ドンッ、ドン!

37人の足踏みで、クラスが揺れる。


「あっかん……マジギレしそう」

俺は深呼吸をして、意を決する。

前の扉を塞ぐ男――確か若林だったかコイツ。

(……しょうがねぇ)


永遠と歌い続ける若林の両肩を強く握り、俺は眼を瞑った。

「天使奥義……」


「零里眼ッッ!」

ぶっちゅー!

唇が重なる。

あの日戌亥と見た『バイオレンス・ラブ』の主題歌が脳内で流れた。


■■■■■■


『恋の暴走特急』

歌 AKU

作詞作曲 パッパラカース


君はいくつになっても変わらない

なんで切符が無くなるの

もっかい買うしかないけれど

それは経費じゃ落とせない


車掌はいつも震えてる

レールが歪んでるせいかな

小刻みに震えるその右手

指さす方へ歩いてく


OVER TRAIN

恋の暴走特急で

アイツの元へ走ってく 誰が応援してくれる?

Wow〜Wow〜


OVER KILL

愛の妄想 速攻で

アイツの下へ奔ってく 誰が応戦してくれる?


■■■■■■


俺の眼に、若林は黄色く応えた。

黄色。悪魔に魅入られつつある状態、または眷属化しているサイン……だったはず。

ならもう、若林だけじゃなく同じ状態のクラスメイト37人全員。黄色なんだろうと予測が立つ。


『大事なのは悪魔が顕現する前に殺すことにゃ。心だけじゃなくて体まで乗っ取られたら、無茶苦茶面倒くさいからにゃ』


ニャニャエルの言葉が脳裏によぎる。

本来なら、悪魔の関係者となってしまった若林を殺すべきなんだろう。

若林だけじゃない、クラスに居る全員を。

今、ここで。


口うるさい根津も、友達っぽい猿渡も……何より、戌亥も。


「あじ〜だがある〜ざ」

(悪魔を地獄に送り返して……俺は熾天使になる)


『約束だよ』

約束という名の呪いを、解かなければならない。


「あずがあ゙るぅ゙う〜」


俺はコイツらを殺す……?

殺せば、天使になれる……!


拳を、握りしめる。

コイツらと過ごした期間は、たった二ヶ月弱。


コイツらに思い入れも、感情も無い。はずだ。

「あ゙あ゙ぁ」

若林が、口を開く。俺のファーストキスを奪った憎たらしい口。


「さよなら、俺のファーストキス」

そう言って俺は、覚悟を決めた。

「あじぃ……だがぁブフッォッッ!?!?」


俺は歌い続ける若林の顔面を、思いっきり殴った。

倒れ込み、若林は鼻血を流しながら意識を失った。


そして扉を開き、教室を出た。

(意識もなく、歌い続ける。コイツらの様子を見る限り、眷属化だ。眷属だとしても、殺すのがルールだろう)


でも――


俺は、神様になんかなりたくない。

だから神様が決めた天界のルールなんて則らねえ。


(眷属化させた"本体"がいるはずだ。俺はソイツだけをぶっ殺して、天使になってやる)



「ニャ〜」


ニャニャエルはミリュエルと別れあと、屋根の上をトコトコと歩いていた。

(太郎の件、オレサマだけで抱えて良い案件にゃのか……?念のためパワー様にも伝えた方が――)


『ニャニャエル様』

「あ?」

振り返ると、ラッパを持った一人の天使が血相を変えて走ってくる。

「調査担当の天使か。わざわざ来て、どうしたにゃ?」

『大変です!悪魔が、悪魔が顕現しています!』

「は、ハァ!?にゃんで?どこに!?」

『それが……禍津高校です』

「禍津!?……まじか」

ニャニャエルは頭を抱える。

「本当の本当にアイツラは厄介事にゃ〜〜疫病神にゃ!!」

『ど、どうしましょうか。あそこは"不可侵地区"ですが……とはいえ、無許可の悪魔顕現を見逃すわけにも』

「分かってるにゃ。ん〜……オエッ!」

ニャニャエルは毛玉を吐き出す。


「ハァ。丁度いい、まとめてパワー様に相談しとくにゃ。お前は念のため悪魔が禍津高校の外に出ないかだけ確認しとけにゃ」

『わ、わかりました。一応"天啓"の稟議もあげてます』

「ハイハイ。ありがとさん」

『あ、あと"神罰"は使用しないでください。場所が場所ですし』

「わかっとるわかっとる。忠告サンキューニャ」

『ちなみに、待機している天使候補生たちも居ます。ブラファム様のところで卒業したばかりの…』

「あー、へいへい」

『数人、役に立ちそうな天使候補生も居まして』

「わかったわかった。もう良いから行け」

『もし神罰を使ってエクスキューションしたいのであれば、アプルーヴルしないとは思いますがダメ元で稟議を通しておきましょうか?それか、サンクション程度で留めると条件付きで〜』

「良いからさっさといけニャ!新語、横文字ばっかで読者が混乱するだろ!!追加があればオレサマから指示を出すからよぉ!」

『は、はいぃ〜!』

「おい!ラッパ忘れてんぞ!」

『す、すみません〜〜!』


慌てて去っていく天使を見送りながら、ニャニャエルは腕を舐める。

「悪魔の顕現は久しぶりにゃ〜。前兆も無く、そんなことが起きるなんて……」

「悪魔侵攻とかじゃないとイイけど……ニャンちゃって!」


一人で呟いて、一人で舌を出す。

一瞬の静寂の後、ニャニャエルは溜息を吐く。


「ハァ。これぞ"猫の手も借りたい"ってか?」

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