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ep10 猫先輩

ep10


それから数日間。

毎晩ニャニャエルの仕事の見学。

とは言っても、悪魔がそうそう出てくるはずもなく基本はめぼしい人間の観察や調査だ。


俺はニャニャエルに「なんでいつも夜なんだ?」と聞いた。


最初は、昼間に学校がある俺の時間に合わせてくれてるのかと思ったけど

「何でオレサマがお前の都合に合わせてやるんだにゃ。夜の方が人間の魂が淀みやすいだけにゃ」

と一笑された。


あと、猫の体だから夜行性だとも言っていた。

(それが本音だな……)


そして今日も、ニャニャエルは悪魔(?)を殺して地獄へ送る。

「よし、そろそろだにゃ」

そう呟いて、ニャニャエルは躊躇なく女に飛び掛かった。

ザクッ


「え……?」

元彼を執拗にストーカーしていた女の首筋を、ニャニャエルがナイフで抉る。

「いや……熱い……!つめたい……?うそ、う……ポポゴポホォ」


「よし!今週もノルマ完了にゃ〜」

女は動かなくなり、冷たくなっていくのが視覚でも伝わってくる。

女のスカートに顔を擦りつけ、自身に付着した返り血を拭くニャニャエル。


「なぁ……前も言ったけど、本当に悪魔なのか?コイツ……」

「ぁ〜?」

「俺が知ってる悪魔って、もっとこう……黒い羽を広げて、角が生えて――」

「プー!そりゃ地獄の悪魔、それも七欲を司る大悪魔とかにゃ。そんにゃ奴らが下界にわざわざ出張ってくるわけ、にゃいにゃい」

「え……?」

「天魔戦争にゃあるまいし、オレサマたち現場天使が相手にするのは人間が生み出す小悪魔程度にゃ」

「小悪魔……?」

「そうそう。前も言ったけど、人間は誰しも心に悪魔を飼っているにゃ。そしてそれは、"悪いことじゃない"」


「そうでもしにゃいと、この下界では生き抜けにゃいんだろうにゃ〜」

「そこから、理性をすっ飛ばして倫理をぶっ壊して、心が悪魔に堕ちた"人間"を殺すこと。それがオレサマたちの役割にゃ」

「悪魔に堕ちる……」

「そ!も!そ!も!にゃ。前殺った男も、今目の前で死んでる女も、調査担当の天使がある程度目星つけて、指定してきたやつだし」

ニャニャエルは薄く、そして冷たく笑った。

「お前も天使ににゃりたいんだろ?」

「あ、あぁ」

「稟議が通ってるなら、後は最終確認だけして殺せ〜。それが天使ってもんにゃ」

「殺さなくても、警察に言うとかきちんと罪を償わせたりとか……」

「そんなの、下界の人間が勝手に自分たちを縛り合うために作ったルールにゃろ」

「……」

「天界は天界のルールでやる。そもそも下界とは神様のものなんだから、文句なんて言わせにゃい〜」


俺は天使が、分からなくなってきた。



私の名前は浅野あさの 智代子ちよこ

今月で78歳になった、バリバリのコンビニ店員。


今日も朝から、目の前にある禍津高校に通う生徒たちの明るい声が私の耳を潤す。

「すみません、これください」

「はいよ」

この子はたまに見かける禍津高校の女子生徒。

恐らく2年生。

恐らくっていうのは、襟元のバッジが見えないから恐らくだ。


ピッ

「はい、365円ね」

「あ、はい」

(しっかし……)


人ってのは変わるもんだねぇ

去年までは宝塚にでも居そうな、クールな子だったのに……


派手な髪色で毛先を遊ばせて、焼き鳥でも焼けそうな長いネイル。付けまつげに至っては四菱重工の株価くらい上向きに反り上がっている。

「ちょうどありました」

「はい、ありがとね」


私としては、昔の方が良かったけどなぁ。

性の歓びでも知りやがったかな。


「カワイイよネー。あの子」

「……そうさね」

「食べちゃいたいネー」


私に話しかけてくるこの黒人は、浅野あさの 魔逝蹴まいける

通称マイケル。

「そうだグランマ。このおにぎり賞味期限切れそうだから捨てとくヨー?」

そう言いながら、ムシャムシャとレジでおにぎりを頬張るこのガキ。

(食うなや……)

一応、私の"息子"だ。

「あ、グランマ〜。お茶の列、商品切れてたヨ〜」

「あらありがとう。補充してくれたのかい」

「え、いや?切れてたから報告。補充しといた方がいいんじゃナイ?」

(補充しとけやガキ)

とは言っても見ての通り血の繋がりは無い。

マイケルは亡くなった旦那の連れ子だ。

よってコイツに対して愛は、無い。


キョロキョロ……


(なんだ?監視カメラを気にし始めた……)


ソ〜……ガチャンッ


(おもむろにレジを開けて……?)

ゆっくりと手を伸ばすマイケル。


(嘘だろ……?コイツ)

真横で私が見てるのにレジの金盗もうとしてるぅううう!

監視カメラに映らなければOKじゃねーから!


「Oh……」

オゥ……じゃねえよ!!

え、まじかこいつマジか!?

「アッ」

お?手を引いた。さすがに気が引けたのか?


キョロキョロ スッ

監視カメラを再度確認して、体をスライドさせた……?

あぁ。

監視カメラとレジの間に体をいれて、死角を作ったんだね。


ソ〜


そしてまた手を伸ばすッ!

「Wow……」

ワォじゃねーよ!!

体を横に向けてるから、私と向かい合う形になってるよ!?

ソ〜

目が合ってる目が合ってる!!

私と目が合ってるのに!見つめ合ってるのにレジの金盗もうとしてる!!

ヤバ!!こいつヤバ!!!


「あの〜」

突然、声をかけられた。

「あっ、はい!いらっしゃ……あら?」

さっきの女子生徒だ。


「これ、お店の前で拾ったんですけど」

そう言うと、女子生徒は財布を渡してきた。

「あ、あぁ落とし物ね。預かっておきます」

「マイケル……」

振り向くと、奴はもう居なかった。

私の名前は浅野あさの 智代子ちよこ

今月で78歳になった。子育てってやっぱり難しい。


ちなみに、夜レジチェックしたら2万円抜かれてた。

落とし物BOXに入れてたはずの財布も消えていた。


ふざけたガキだ。

でも、私のことをグランマって呼ぶのが一番腹立たしい。

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