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異世界の住人が皆チート過ぎてチートがチートになってない件について【リメイク版】  作者: よしみん
第四章 女神激戦

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救世の代償と救い

「架様ぁ〜、お弁当できました〜!」


エプロン姿のエーコが、両手で猪の丸干し弁当を抱えながら、ぱたぱたと走ってきた。


「まぁっ愛妻弁当!二人ともラブラブねぇ〜」


その後ろから、エーコの母――A夫人が、にやにやしながら口を挟む。


女神との戦いから、半年が過ぎていた。


その半年で、世界は大きく変わった。


アシヲ(佐藤A)は、初めての村の周辺をまとめ上げ、ついには【イズモ王国】を築き、王となった。

やればできる男だったのだ。


そして俺――天高原架が治めていた国も、元スルガ大陸の海上領や周辺諸国を取り込み、【ヤマト大国】として新たに生まれ変わっていた。


いまやイズモ大国とヤマト大国で、この世界のほとんどを治めている。


そんな俺が、今は自分の王都ではなく、イズモ大国の首都【初めての村】に住んでいた。


理由は、ひとつだ。


「架様、お腹の中のエヒメちゃんが、早く帰ってきてねって言ってまチュよ〜」


大きなお腹を両手で支えながら、エーコがにこにこ笑う。


妊娠七ヶ月。


安心して子供を産めるように、彼女はいま里帰りしていた。


「産まれるまで女の子かどうか分からないぞ? 男の子だったらどうするんだよ?」


A姫だからエヒメちゃん。

……まあ、男の子ならA王子でエオウジ?

呼びにくいな、それ。


ちなみに、四天王達もシロも妊娠中で療養している。

四天王達の子は、もちろん俺の子だ。

シロの子はアシヲの子だ。

……たぶん。


「じゃあ、行ってくる」


俺は立ち上がり、腰の剣を軽く叩いた。


「ぱぱっと倒して、夕方には帰るからな。あんまり無理して動くなよ?」


「はい! 行ってらっしゃ〜い!」


エーコが大きなお腹を抱えたまま、ぶんぶんと手を振る。


その笑顔を見て、俺も笑い返した。


「さて――待ってろよ、邪神」


俺は剣を腰に差し、イブキヤマダンジョンへ向かった。


         


「あれ……?」


家に戻ったエーコが、祭壇の前で足を止めた。


そこには、【剣】【鏡】【勾玉】が並んで祀られている。


エーコが小さく首をかしげた。


「架様……神剣、忘れてます〜?」


本来なら、その瞬間に走って追いかけるべきだった。


けれど、頭の中に黒い靄のようなものが広がっていく。


思考が、まとまらない。


何か大事なことが抜けている気がするのに、その形がつかめない。


エーコはそのまま、ただぼんやりと祭壇を見つめていた。


          


俺は、ダンジョンの入口を塞ぐ巨大な岩の前に立っていた。


「ここに邪神がいるのか」


腰の剣へ手をかける。


「神剣で弱らせて、捕まえてやる」


俺の作戦は単純だった。


ダンジョンに潜み続けている邪神を神剣で叩きのめし、チートを奪う。

そのまま村まで引きずって帰り、最後はエーコに鏡でとどめを刺してもらう。


本当なら、エーコを連れてくる方が確実だ。

だが、あのお腹で危険な場所に連れてくるわけにはいかない。


だから、この方法を選んだ。


……いや。


本来の俺なら、この作戦がどれだけ無謀か、すぐに気づいていたはずだ。


なのに何も考えられない。


ただ、邪神を倒す。


その怒りだけが、頭の中を真っ黒に塗り潰していた。


「さて……行くか」


俺は入口の岩を横へずらした。


「邪神! 観念しろ――……っえ?」


飛び込んだ俺の目に映ったのは。


広い部屋いっぱいに、隙間なく詰まった、数えきれないほどの邪神の群れだった。


息が止まる。


とっさに剣を抜く。


だが。


手にあったのは、雨叢雲剣(あめのむらくも)ではなかった。


女神にもらってから一度も使ったことのない、ただの青銅の剣。


「あ……」


背筋が冷えた。


鞘の形が似ていたせいで、間違えて持ってきたのだと気づく。


遅かった。


目の前の邪神達から、黒く穢れた気配がどっと流れ込んでくる。


指先から血が引いていく。


寒い。


凍る。


思考が、ばらばらになる。


このままだと――


もし、あとほんの少しだけ猶予があれば。


これが夫神の言っていた代償だったのだと、気づけたかもしれない。


気づいたところで、選択は変わらなかっただろうが。


その瞬間。


架という存在は、人々の記憶から消えた。


それから、魔物達は何故かチートスキルを失った。


人々にとって絶対の脅威だったそれらは、やがて必要な食料や素材へと変わっていった。


女神はいない。


だが、何故か魔法やレベルの概念だけは残った。


もしこの場に架がいたら、

「何で俺がいなくなってから理想の異世界ファンタジーになってるんだよ!」

と悔しがっていたことだろう。


          


ぶくぶくぶくぶく――ッ


気づくと、俺は海の中にいた。


冷たい水。

暗い視界。

その先に、一人の少女の姿が見える。


――オトタチバナ。


そうだ。


車道の手すりが崩れ、海へ落ちた高校の同級生――弟橘(おとたちばな)(ひめ)を助けるために、俺は飛び込んだんだった。


「――っ!」


俺は必死に腕を伸ばした。


彼女の手を掴む。


そのまま全力で水面へ引き上げた。


「ぷはぁっ!!」


「はぁっ……!」


二人同時に、水面へ顔を出す。


「大和君……」


彼女が、信じられないものを見るような目で俺を見た。


そうだ。


俺の名前は大和建人(やまとたける)


どこにでもいる、普通の男子高校生だ。


何か、さっきまで違う名前で呼ばれていたような気がする。

けれど、もう思い出せない。


何十年も、長い夢を見ていたような妙な感覚だけが残っていた。


ぼうっとしていると、彼女が急に涙を流し始めた。


「何だろ……」


震える声だった。


「何故か大和君、助けに来てくれないって思って……諦めてた……」


涙が、海水に混じって落ちる。


「でも、ちゃんと助けに来てくれたんだね。ありがとう」


海に浮かんだまま、俺達は見つめ合う。


制服はびしょ濡れだ。

海水は冷たい。

それなのに、不思議と何も気にならなかった。


彼女は、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、俺へ抱きついてきた。


付き合ってもいない。

なのに、そのぬくもりに何の違和感もなかった。


まるで、ずっと昔からそうしていたみたいに。


俺達はいつまでも、互いを強く抱きしめ続けていた。

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