シロ大炎上
オイラはアシヲ――佐藤A、ヤマト大国の総理大臣だ。
……何で総理大臣なんかになってしまったのかと言うと、まあ、色々あったのだ。
女神を倒したあと、オイラは初めての村の周辺をまとめ上げ、【イズモ大国】を建てて王様になった。
ようやく一国一城の主だ。やればできる子だったのだ、オイラは。
……まあ、おっさんだけど。
ところが、それから半年。
隣国【ヤマト大国】のエーコ女王が、妙に落ち着いた顔でこう言ったのだ。
「政治が忙しいから、王様辞めて、ウチの総理大臣やって。……断ったらミサイル打ち込みます。」
意味が分からない。
いや本当に意味が分からない。
その一言で、せっかく作ったイズモ大国はヤマト大国と合併され、オイラはいつの間にか王様から総理大臣へと降格……いや昇格……? させられてしまった。
姉御、これは酷すぎるっす。
だが、あの怖いエーコ女王には逆らえない。
逆らったらミサイルどころか何をされるか分からない。
そんなわけで今、オイラと妻のシロは、ヤマト大国の総理大臣官邸――通称【白い家】で、ようやく訪れた休日を過ごしていた。
崩壊しかけていた国を立て直し、さらに合併に反対する旧イズモ国民までまとめ上げるため、オイラは毎日二十三時間働いた。
そして、ついに手に入れた休日。
オイラはソファーに寝転がり、死んだように昼寝していた。
その横で、妊娠八ヶ月のシロがスマートホン片手に誰かと話している。
ぼんやりした意識の中で、ある言葉だけが耳に引っかかった。
「オレオレ、オレだっピョン!」
……ん?
オイラは薄目を開けた。
大きなお腹を抱えたシロが、やけに男っぽい口調で「オレ」を連呼している。
ま、まさか――!
あの有名な詐欺では!?
「そうだピョン! すぐに持って来るピョン!」
あわわわわっ!
お前、サメとかを騙すのは上手かったけど、犯罪はダメだぞ!?
ピンポーン。
しばらくすると、玄関のベルが鳴った。
「来たピョン! なかなか早いピョン!」
シロがぴょんぴょん跳ねながら玄関へ向かう。
いやいやいや!
妊婦なんだから飛び跳ねるなよ!
……というか、家に呼んだのか!
犯行が大胆すぎだろ!
オイラが慌てて起き上がると、目の前のテーブルに紙パックが置かれた。
そこにはでかでかと書かれている。
【人参オレ】
しかも、超滋養強壮!夜のお供に! とまで書いてある。
……何これ。
「あの、シロ様」
息を荒くしながら、兎魔人のクロが説明を始めた。
「シロ様のアドバイス通りに、人参魔人をすり潰したものに、牛魔人のミルクを入れてみました」
やめろ、その原材料の説明は逆に不安になる。
「人参魔人はジュースにするとエグすぎて飲みにくかったのですが、ミルクを入れた途端に甘く優しい味へと変わりました。流石はシロ様、人参に造詣ぞうけいが深い! ウサギの中のウサギ! プリンセスオブバニーッバニー!」
クロは顔を真っ赤にし、はあはあと息を荒げる。
「……おっと失礼。つい興奮して語尾にバニーを付けてしまいましたバニー」
いや、いつも付いてるだろ。
シロは満足げに頷いた。
「ふふふっ! クロぴょん、素晴らしいピョン! では飲んでみるピョンね」
そう言って紙パックを持ち上げ、ストローを刺す。
ジュルルルルルルルルゥゥーーッ!!
すごい勢いだった。
一気に飲み干し、空になった紙パックがぐしゃっと潰れる。
オイラもクロも、その飲みっぷりにしばらく言葉を失った。
「ど、どうですか? シロ様……?」
クロが、若干引きながら感想を尋ねる。
「ピョン……」
シロが呟いた。
「え?」
「ピョンピョン……」
その場にうずくまり、ぷるぷる震えながら、シロが「ピョン」を繰り返す。
「おいシロ! 大丈夫か!?」
「シロ様! お気を確かに!」
オイラとクロが駆け寄る。
するとシロの全身から、じわじわとオレンジ色の怪しいオーラが立ちのぼり始めた。
「うわ……!?」
クロが一歩引く。
シロはぶるぶる震えながら、突然叫んだ。
「うっ……ピョン、うっ、産まれちゃうピョン!! ピョン! ピョン!!」
「産まれるって赤ちゃんか!? い、医者を呼べ!!」
「はい!!」
オイラが叫び、クロが猛ダッシュで飛び出していく。
だがその後ろで、シロはなぜか目をらんらんと輝かせていた。
「ふふっ! ふふふピョン! この感じっ! 人参のエネルギーが身体中にみなぎるこの感覚! これで全身全霊で出産に打ち込めるピョン!!」
ちょっと待て。
それ出産前の妊婦のテンションじゃない。
「アーッ! ミナギルピョン! ピョンピョンピョン!」
「もうすぐ誰か来るからな、落ち着け!」
必死に声をかけるが、シロの目は完全に危ない。
八ヶ月って早産だよな?
大丈夫か?
いやでも兎は一ヶ月で産むし、兎人ってどうなんだ?
そんなことを考えていて、オイラはあることに気づいた。
「あれ……?」
嫌な予感がした。
「そういえば、八ヶ月前って女神と戦う準備で忙しくて、オイラ家に帰ってなかったような……?」
シロが、びくんっと固まった。
それから、ものすごく怪しい目でこっちを見る。
「ア……アシヲぴょんの子だピョンよ?」
声が震えている。
「えっ!? まさかオイラの子じゃないの!?」
オイラが問い詰めた瞬間、シロの瞳がかっと見開いた。
ぷるぷる震えていたかと思うと、突然立ち上がる。
「こっ、この子はアシヲぴょんの子だピョンよ!? 疑うならこの家に火を付けるピョン!!」
「何でそうなるんだよ!?」
完全に話が飛んだ!
しかも人参パワーでシロの押しが強い!
「この子がアシヲぴょんの子なら、貴方の超幸運も受け継がれている! ならば燃え盛る中でも立派に産まれて来るはずです! ピョン!」
「いや! 確かに色々あっても他力本願で助かってきたけど、オイラは幸運っていうか悪運だからね!? だからって家を燃やす必要なくない!? この家、国家予算で建てたから! 放火とかマジでやめて!!」
発狂したシロにずんずん押され、オイラはそのまま玄関の外へと追い出された。
バタンッ!!
扉が閉まる。
総理大臣官邸専用のセキュリティでがっちがちの家だ。
内側から閉められたら、もう絶対に入れない。
そして次の瞬間。
家の中から、もくもくと煙が立ちのぼり始めた。
「うわあああああっ!!」
炎が上がる。
「あーっ!! 白い家が! オイラの白い家が燃えてるー!!」
違う、国の白い家だ!
「国民の血税で建てたのに……シロー!! 大丈夫かー!?」
バババババッ!
頭上から音がした。
見上げると、ヘリコプターが飛んできて、その中から白衣を着た鳥魔人が飛び降りてきた。
白衣を着た鳥魔人――天才外科医スクナビコナである。
(外国語)『この天才外科医スクナビコナが来たからには大丈夫だ! この酒を飲めばどんな病やまいもイチコロよぉ!……うわっ! アチチチチッ! マジ熱い! 救急車を呼んでくれぇ〜!!』(外国語)
何を言ってるのか全然分からないまま、スクナビコナは酒瓶を片手に、翼で滑空し――そのまま燃え盛る屋根に墜落した。
「…………」
何しに来たんだろう、この人。
その時、クロが戻ってきた。
「アシヲ様! お医者様を呼んで来ました! ドクターヘリですぐ来るそうです! って、お医者様が燃えてる!? わーっ! 火事バニー! 大変バニー!」
「いや、呼んで来てほしかったのは産婆さんだからね!?」
外科医じゃないんだよ!
いやまあ、火傷治療には必要そうだけど、本人が燃えてるし!
「そ、それよりシロ! 大丈夫か!?」
すると。
ガチャリ。
燃え盛る玄関の扉が開いた。
「お待たせ……何とか産まれたピョン……」
シロがふらふらと現れた。
その腕には――赤ん坊が四人。
「四つ子!?」
シロがその場で倒れそうになり、オイラは慌てて駆け寄って支える。
シロはにこっと笑って、四人を見せた。
「ほら、この子達、アシヲぴょんソックリだピョンよ?」
「あ……あぁ……」
見れば、たしかにみんな愛らしい。
「本当にソックリだな……」
オイラは涙を流しながら答えた。
感動しすぎて、その時のオイラはまったく気づかなかった。
四つ子のうち、一人だけ妙にイケメンで、しかもオイラに全然似ていないことに。
その後、白い家の焼け跡から、黒焦げで瀕死の天才外科医スクナビコナが発見されたらしい。
だが彼はそこから奇跡の回復を遂げ、最先端の医療技術を広め、酒造技術を進歩させ、さらには四天王リーペに頼らなくても電子機器を生産できる科学技術まで確立して、国の近代化を一気に進めた。
その結果、オイラの仕事はさらに増えた。
そしてオイラは、過労で死んだ。
……あれ?
オイラ、何のために頑張ったんだろう?
なんか、おかしいなぁ。
オイラは現実世界に転生した後、異世界での経験を活かし、現実世界でも総理大臣となって様々な偉業を成し遂げるのだった。




