決戦!
世界が消滅する、その直前へと戻ってきた。
燃え盛る空母の甲板では、村長達と大魔帝ハーレム達が、今まさに睨み合っていた。
「リーペに続いてミミまでやられるとは……!」
大魔帝ハーレムが、ぎりっと歯を食いしばる。
「もうダマされんぞ! タヌー行け! 八百万やおよろずの力でねじ伏せるのだ! クルゥリー! タヌーがダマされないようにサポートしろ!」
「了解だポン! 八百万の神っだポン!」
タヌーが胸を叩く。
「わかりました……!」
クルゥリーが水晶を掲げ、ふと首をかしげた。
「……あれ? 普通に占術が使える……?」
その一方で、シロは周囲へ耳をぴんと立てていた。
「アシヲぴょん! 燃えてる人々が迫ってきてるぴょん! 周りを気をつけるぴょん!」
「シロ! ありがとう! ……ん?」
アシヲが眉をひそめる。
「何か様子おかしくないか?」
燃え盛る国民達は確かに暴れている。だが、最初のような殺気はない。ただ苦しみに耐えきれず、のたうち回っているだけだった。
その姿を見たアシヲの顔が曇る。
「アイツら……何とか火を消してやれないかな」
シロは海を見つめたまま、小さく答えた。
「それは、かけるピョン達次第だピョン……。早く帰って来てほしいピョン」
その瞬間だった。
≪皆、すまない! 待たせた!≫
頭の中へ、声が直接響く。
「「え?」」
一同が周囲を見回す。だが、甲板の上にも、空にも、それらしい姿はどこにもない。
「架か!? キサマ、どこにいる!?」
ハーレムが怒鳴った、その次の瞬間――
≪ここだ!!≫
海が、真っ二つに裂けた。
「なっ……!?」
ハーレムが息を呑む。
割れた海の底から、白い飛沫をまとって二つの影が現れる。
天高原架と、エーコだった。
二人はそのまま宙へ躍り出る。
甲板に降り立った俺は、まっすぐハーレムを見た。
「ハーレム。すまなかったな」
神剣を握る手に、自然と力がこもる。
「今、楽にしてやるからな」
俺が天へ剣をかざすと、ハーレムは顔を歪めた。
「ミサイル地獄で我を散々もてあそんだ恨み! 我が【なんでもあり】で真の地獄を見せてやる!!」
ハーレムの全身から、禍々しい気配が噴き上がる。
【触れたものを絶対消滅させるオーラ】が、その身を黒く包んだ。
ハーレムが一直線に突っ込んでくる。
俺は一歩も引かない。
「――【天叢雲剣あめのむらくも】」
剣を振るう。
一閃。
何かが、斬れた。
目には見えないはずの“チート”そのものが、確かに断ち切られた感触があった。
「グハアアアアアアッ!?」
ハーレムの絶叫が響く。
禍々しいオーラは一瞬で霧散し、支えを失ったハーレムは、そのまま甲板へと叩きつけられた。
その瞬間。
「あれ? ワッチは何をしてたんだポン?」
タヌーがきょとんと目を瞬かせる。
「どうやら、ハーレム様に操られていたようですね」
クルゥリーが冷静に言う。
「ぶわっ! ミミ、何で海の中に!? あーっ、ビショビショですわっ!」
「気づいたらウォーターハザードだったにゃ〜!」
四天王達の目から、濁った色が消えていた。
正気に戻ったのだ。
だが、そのすぐ後だった。
「うわぁ! 熱いぃー! 助けてくれー!!」
「「「熱い! 熱い! 熱い! アツイ! アツイィイイイイ!!」」」
燃え盛る国民達の悲鳴が、甲板全体に広がる。
俺は空母の上へと大きく踏み出した。
眼下には、百五十万もの国民達。
苦しみ、のたうち、助けを求めている。
俺は神剣を握り直した。
「神剣よ!」
その切っ先を、天へ向ける。
「炎のチートを断ち切れ――草薙くさなぎ!!」
剣を一振りした。
その瞬間、空母の上を巨大な風が駆け抜ける。
見えない刃が一斉に走り、百五十万の国民達に絡みついていた炎だけを、根こそぎ断ち切った。
炎が、消える。
「あれ……? 熱くないぞ!?」
「キングカケルだ! キングカケル様が助けてくれたんだ!」
「「「キングカケル! キングカケル! キングカケル!」」」
歓喜の声が一気に湧き上がる。
だが、その熱狂を呑み込むように、急にあたりが暗くなった。
空を見上げる。
無数の暗雲が、いつの間にか空を埋め尽くしていた。
そして、その雲の隙間という隙間から――
女神が現れた。
一人ではない。
二人でもない。
空を覆い尽くすほど、無限にも思える数の女神達が、こちらを見下ろしている。
≪≪≪キサマァアアア!! 人間の分際で、私に逆らうつもりか!!?≫≫≫
怒号が空から降り注ぐ。
その圧だけで空母がきしむ。
けれど、俺は剣を握ったまま、前へ出た。
「そうだ!」
声が、自分でも驚くほどまっすぐ伸びた。
「俺達は人間だ! 小さい存在だ!」
隣でエーコも一歩前へ出る。
「でも、神に頼るだけの時代は終わったの!」
俺は続ける。
「俺達は、夢を描き!」
エーコが重ねる。
「現実と戦う!」
二人の声が、空へ届く。
「苦しみながらでも!」
「それでも理想の世界を創り上げていく!」
俺とエーコは、三種の神器を高く掲げた。
「「――神の裁き!!」」
神器から放たれた光が、世界を塗り替える。
無限の閃光が天を包み込み、女神達の姿も、空母も、海も、すべてを真っ白に染め上げた。
「うっ……」
女神は、ゆっくりと目を開けた。
「はっ!? ここは……神界!?」
立ち尽くしていたのは、果てのない白に満たされた空間だった。
その静寂の中で、男の声が響く。
「目覚めたかね、妻よ」
振り向いた女神の前に、一柱の神が立っていた。
父神だった。
「お前は神の理に違反した」
父神の声は静かだった。
だが、その静けさはかえって逃れようのなさを感じさせる。
「そのため、黄泉の主権を剥奪した」
父神は、淡々と違反の内容を告げていく。
だが女神は、歯を食いしばって叫んだ。
「そっ……そんな! 私は黄泉の女神なのよ!? 亡者達をどうしようと、私の勝手だわ!」
父神はわずかに目を細める。
「神は全知全能だ」
静かな声。
「……しかし、だから何だと言うのだ」
女神が息を呑む。
「神も、人も、獣も、すべてただ“ある”だけの存在。そこに優劣など、初めからない」
女神の顔が、悔しさに歪む。
「くっ……! アナタは! アナタは私に嫌がらせしたくて、こんなことをしているの!?」
髪を振り乱し、叫ぶ。
「私や黄泉のことなんて、忘れて放っておけばいいじゃない!」
その叫びを、父神はまっすぐ受け止めた。
「妻神」
呼びかけは、驚くほど静かだった。
「お前のことを忘れるなど、できるわけがないだろう」
女神の目が揺れる。
「父神……あなた……」
父神は一歩だけ近づいた。
「昔のように、また二人でやり直そう」
白い空間の向こうで、新たな世界の気配がわずかに開く。
「新たに世界を創るのだ」
父神は、静かに微笑んだ。
「我は左回り。お前は右回り。世界を巡り、再び出会った時――」
その声は、遠い昔を思い出すようにやわらかかった。
「そこで我らは、初めて会った男女に戻るのだ」
女神は、しばらく何も言えなかった。
やがて、ほんの少しだけ視線を伏せる。
父神は手を差し出した。
女神は、その手を見つめる。
そして――
ゆっくりと、その手を取った。
二人の足元に、新しい世界への道が開く。
父神と女神は、その光の中へ並んで歩き出した。
今度こそ、やり直すために。




