老夫妻
シンガ様が王都に旅立って少し経つ。妻とお茶を飲み、休憩しているとふと思い出す。10人が関われば50人は優れた人物と言う彼の実母たる彼女の事を。
「居た居た、あ~眠い。あはは、初めまして、貴方達にお願いがあるのよ。」
「はははは、お嬢さん。私達は見ての通り、ただの旅するオッサンとオバ・・綺麗なお姉さんだ。すまないが他を当たってもらえないかな。」
ギルドにてクエストを見繕っていた際に、不思議な目をした少し疲れた感じの少女に声を掛けられる。しかし私達は今、ある目的の為に旅をしている。日々の食い扶持を賄うためにクエストを行い知りたい情報を探り、情報を元に旅を続ける日々。
昼食を取るためにギルド内の酒場にてテーブルに付き昔を思い出す。以前に仕えて居た子爵家で次男様の警護に勤めていた私達は、ある伯爵家より謂れのない罪で次男様が自決させられ、警護対象を失う羽目になった責任を問われ、当主より言い渡されたクエストをこなすこと数度、家に帰れば息子夫婦と孫の首が玄関先に置かれていた。
「なぜ、なぜこのような事を、子爵様!何故でございます?・・・まさか?お疑いですか?私達が私達一家が子爵家に剣を向けると・・子・・なぜ貴様がそこにいる!もしや、子爵様はその者と・・・」
数年前に子爵領にて怪しげな薬を売りさばく一団を捕まえる際に、取り逃がしたリーダーの男が何故か子爵様と共にいた。
「よ~お、おっさん。あん時は世話になったな(笑)おかげで、右手が疼いてしょうがねえぜ。あと、お前ん所の息子の嫁さんだっけ?めちゃめちゃ美味しかったぜ。人生で一番出ちまったよ、いや~堪能した。」
「っし!せぇぇええええい!」
「いえやぁぁぁぁぁぁあ!」
ギン!ギャン!
「お、お前達・・お前達までもか・・貴様!!」
ヘラヘラと笑う男から発せられた息子嫁の尊厳を侮辱する言葉に激高し私と妻は一撃を放つが警護団の皆に止められてしまう。
「あ、貴方もこ、これ、この薬でぇ~し、しさわぜにだりばじょうよ~~~うひひひひあはははは」
見れば、明らかにおかしな言動の者たちがぞろぞろと現れる、周りを囲まれ対峙していると
「おっさん、諦めな。子爵家は終わった。ああ、もちろんこのおっさんも薬漬けだぜ。そういえば、このおっさんの子なのか、ロリッ娘もいたな?ありゃ硬くてうまくなかったが初物は頂いたぜ。あとはその辺に捨てたからどうなったかは知らんけどよ。」
ああ、妹様までもがこの男の手によって・・・妻と視線を合わし、うなずきあう。
「こちらに来い!貴様ほどの腕があれば我らと一緒にこの地を自由に生きようではないか。この男はいずれこの地を出て行くと言っている。その後は好きにしていいと。どうだ一緒に・・・」
以前から野心があるとは知っていたが、まさかこのような形となるとは思ってもみなかった。自警団団長からこれ以上の言葉を聞く事は耐えられなかった私は、妻と共にその場にいた者を切り捨てていく、同僚であり、この地を守っていた仲間達、私達が剣を教えた者たち、息子の結婚に祝福の言葉を・・孫にプレゼント・・気づけば立っている者はだれ一人として居なかった。
あの男は消えていた。私達は、子爵家を離れ、男を追った。しかし、男の足取りは掴めず私達は子爵家を陥れた者として指名手配される事になってしまった。マジックバックに入れた息子夫婦と孫の髪をどこかの地で埋葬し弔う事を誓い、私達を陥れた男を殺す事を誓い旅を続ける。数年後私達の路銀は尽き、私の愛剣を売り、旅をつづけた。
「んん~~~その男な。ちょっと、訳アリの奴だからさ、値が張るんだよな。あんまり手も出したくないしさ、こっちも命あってだからさ。」
「金なら払う。すまないが、教えてくれないか?この男は何処にいるんだ、教えてくれ。」
ある町で、男の情報をようやく手に入れた。大胆不敵にも町の一等地に屋敷を構えそこに住んでいた。数日間張り込み、或る夜に忍び込む。屋敷の中は驚く程に静かで、人の気配が無い事から罠だと気付いた。
「あなた、これは・・」
ドゴーン、ドゴーン、ドゴーン。
「バカな!?ここは町の一等地だぞ?爆発と火事?何を考えている。」
「今はそんな事より早く逃げましょう。火に焼かれてしまいます」
妻の声に我に帰り慌てて出口に向かう。やっと見つけた場所より外に出ると囲まれて居た。
「おっさんしつこいぜ、しかし今日でお別れだな~この町一番の商人様の屋敷に忍び込み殺して金を盗んで火を付けるなんてやり過ぎだぜ、なぁ?(笑)」
男の横には私達にこの場所を教えた情報屋がニタニタと笑いながら立っている。
「お前を殺す。」
私達はここが死に場所と覚悟を決めて切りかかるが多勢に無勢。しかも町の衛兵までもがとなれば私達に勝ち目はなかった。自分の未熟が原因で本懐を遂げられなかった事は悔やみきれないが此処までと諦めたその時、愛馬の嘶きが聞こえ包囲網を破り私達の下に現れた。その体は所々に切り傷や刺し傷、矢を受けており長くないのが見て取れた。
「すまないな、共に逝こう。」
愛馬に声を掛け妻と共に跨る。憎き男に向けて駆け出す・・・はずが、包囲網を突破して町の外に向かって走り出す愛馬
「ま、待て、そっちではない。あの男の方だ!あちらに・・」
「あなた、もう・・」
慌てて、手綱を握り方向を変えようとするが愛馬はスピードを落とすことなく町の外に駆け出す。妻の声に後ろを振り返れば、ニヤ付く男が衛兵に守られているのが見える。近くの村で、愛馬を弔ってやり妻の愛剣をも売って旅を続け、男を殺す事を願い、汚い事も法に触れぬならばとやってきた。
しばらくして、町に戻れば男は居なくなって居た、私達は指名手配の事もあり、町でのクエストも受けられず田舎の村にて2日程過ごして別の村に向かう。お陰でギルドランクは低いままで、予想通りに路銀が尽きた。
「そんなことがあったのね?貴方達は、子連れ狼か、ガン×ソード、NINJA KAMUI、・・でどれにする?ああ、流派はすいおうりゅう?これ、意外と美味しいわね、ちょっと!これおかわりお願い!お金はこちらのとっても素敵なおじさまに付けて」
「・・・すまないが、何のことだか私には分からなくてね、後、いつの間にテーブルに付いていたのかな?ちなみに私は何も話してなかったと思うんだが?それと、勝手に私達の食事に手を付けてしかも、私に払わすつもりかね?」
「・・・・あなた、聞いてないわ。このお嬢さん。」
少ないお金で、少しでも腹の足しにと注文した食事は目の前の少女が平らげていて訳の分からない言葉を掛けられて困惑する、子連れ狼?連れているのは、妻・・美人な妻だが。しかし、よく食べる。身なりはそこそこだからこの近くを纏めるムートン男爵家の者だろうか?妻を見れば最近は見れなくなっていた孫を見る祖・・・・知的で美しい姉の様な表情で少女を見ている。
「ふぅ~満足満足。悪いわね、ご馳走してもらって。で、お願いを聞いてもらえるかしら?・・お姉さ~~んこの素敵なおじさまが私にって、ここからここまでのデザートをテーブルに持って・・」
「ああ、聞こう、とりあえず聞こう。注文は一旦無しでいいかな?」
もちろんご馳走した覚えはなく、私が返事を渋っているとメニューに載っているデザートを端から端までなぞり注文をしようとする。慌てて、注文をキャンセルし少女の話を聞くことにする。
「ふふふふふ、あなた。久しぶりに楽しいわ、こんなきれいなお嬢ちゃんに振り回されてるのを見るなんて初めてですもの。」
「あら?楽しんで頂けたなら幸いよ。さて、本題ね。報酬は貴方達にムートン男爵家に仕えてもらうわ、まぁ正確には私個人にだけど、どうかしら?」
少女の言葉に一瞬考え込む、有難い話ではある。男爵家であろうと仕える事が出来れば、お金の問題は少なくとも解消される。しかし、私達は指名手配の身だその様な者をそばに置けば彼女だってタダでは済まない。
「気にしないで良いわ。だって、情報の報酬は貴方達の命をもらうもの・・どうする?話を聞く気になったなら屋敷で話しましょう、今から来る?」
「・・・良いでしょう、どんな情報か知らないが付いて行くとしよう。」
少女と話しているとまるでこちらの頭の中を見透かされるように話が流れる。促されてギルドからムートン男爵家の屋敷に案内される。
「では、改めて。私はムートン男爵家の長女であり現当主代行を務めるものです。先代当主及び夫人、つまり私の父と母は私が殺しました。両親付きのメイド達や執事、自警団の者には急な事故にて死去と伝えてあります。」
案内された部屋にてテーブルに座り雰囲気と口調の変わった少女の突然の告白に思考が止まる。・・・自分の親を殺した?何のために?なぜ私達にその事を伝えた?
「・・・お嬢ちゃん。なぜそんな事を?どうして私達に言ったの?」
「あ、ああ、そうだ、なぜ私達に伝えたんだ?君は何がしたいんだ?」
妻も感じた当然の疑問を少女に投げかけると茶色い油紙に包まれた忘れる事のない物がテーブルに置かれる。
「これに見覚えがありますよね?そうですあなた達が探している男が持っている物、私の領地を穢そうとした物です。両親はすでに薬に侵され男の手足となっていました。男の居場所は掴んでいますし私が先頭に立てば村の自警団も動けません。成功の暁には、私の本当の願いを命でもって叶えてもらいます、どうしますか?」
彼女の言葉に妻と目を合わせうなずく。彼女の・・いや、私達の主人に跪き頭を下げて誓い言葉を告げる。
『当主代行様の命に従い我らは命を持って仕えます事をここに誓います。』
「そう、ありがとう。ではさっそく行きましょう。あと、呼び方はお嬢様でお願いね。」
お嬢様に付き従い村を出て、道沿いにある休憩所に入って行く。旅する者にはおなじみのありふれた小屋、中に入ると数人の男たちが居た・・・アイツが居た。
「おお⁈なんだい、お嬢ちゃん・・っち、ああ~おっさんしつこいな~、ってか良く俺がここにこの時間に居るって分かったな?」
「初めまして、そしてさようなら。私、貴方のせいで忙しいのよ、じゃお願いね。」
お嬢様の言葉にうなずき私達が前に出ると男達も剣を構えて対峙する。
「お嬢ちゃん、そいつらはお尋ね者だぜ!そんな奴とつるんでるとよ、お家のパパとママに怒られるぜ(笑)自警団に捕まっちまう。」
「心配いらないわ、貴方が言うパパもママも貴方の仲間の団員も私が殺したから。後はその汚い首があればどうとでも出来るの、私の守りたい人を傷つける存在は神でも許さないのよ。」
「マジか⁈その歳で欲しい物の為に親を仲間を切り捨てれるのかよ、スゲーな。お嬢ちゃん俺と組まないか?良~いペアーになると思うぜ、どうよ?」
「ありがとう、でも遅かったわ。もうこの二人の命をもらったのよ。私の守りたい者を守るために必要な力を持つ二人を。」
私が後ろに視線を送れば彼女の両目が私を射抜く、心が震える、ああ分かった、私達は見つけられてしまった、囚われてしまった。この少女の形をした気高き存在に。
「・・・いざ、我が主の為にその首を頂く。」
「おっさん、ロリコンだったのかよ。・・・っち、やるぜ!」
狭い小屋での立ち回り、決着は実に、本当に呆気なくついた。私の足元に男の首が転がっている。今日までの出来事が走馬灯の様に思い出され、横を見れば妻が静かに泣いていた。いや、私も泣いている、流れる涙が止まらなかった。暫くそのままでいたが後始末の事もあり、お嬢様が前もって指示していた自警団が部屋で作業をしてるのをタダ見つめていた。
「・・・呆気なく終わった。この数年間に色々な物を失った。私の愛馬も愛剣も、子も孫も、私の故郷も何もかも・・・」
「ああ、貴方達が支えてた子爵家は、生き残りの妹さんが婿養子をもらって、子がいるわよ。どうする、戻る?食事のお礼に去る事を許すわ」
私達に何の事もないように伝えてくる。ああそうか、私達が去る事となっても気を遣わない様に食事を食べて私の奢りとしていたのか。この歳でどれほどの情報を得ておられるのだろうか、なんとも、面白く優しいお方だ。妻と視線を交わしうなずく
「お嬢様、私に何か不手際がありましたかな?いきなり暇をと告げられましても困りますな」
「旅は少々飽きましてね。のんびりとお仕えさせていただきたいのですが。いけませんか?お嬢様。」
「そう?仕方ないわね。言っておくけど当家は貧乏だからあまり給料は払えないわよ。子爵家と違ってね。」
以降は私は執事長として、妻はメイド長として慣れぬ仕事にまい進する。ムートン男爵家には双子?のメイドが居る、不思議なことに私達には見分けがつかない程に言動が一致しておりそれがお嬢様の指示であると知って驚いた。旦那様を迎えてしばらく経ったある日
「私は近い将来子供を産みます。ただし、その子は2種族に嫌われた存在なの。私と主人の容姿に似ていない子・・・穢れの勇者と同じ容姿をしているのよ。」
真剣な表情で私達を見て話を続けるお嬢様。
「あなた達4人しか頼めない、あなた達4人しか味方は作れなかった、私は出産で死ぬ。2種族は私の子を殺しに来るわ、父親であるあの人もその一人よ。いい、妊娠中に出来る限りの準備はする、でも、あなた達4人しか出来ないの・・・・お願いします、私の子を守ってください。お願いします。」
初めて見る涙ながらに頭を下げるお嬢様に最初に出会った時の言葉を思い出す。
(もうこの二人の命をもらったのよ。私の守りたい者を守るために必要な力を持つ二人を。)
「私達、夫婦はお嬢様のおかげで、亡くなった子と孫の墓を建てることが出来、弔う事も出来ました。子を失う悲しみは誰よりも分かると思っております。どうぞ、私達にお任せください。決してお心に背きません。」
自然と理解し頭を下げていた。そうだ、私達はこの時の為に仕えたのだ。だが、次の瞬間何故か双子のメイドの一人がお嬢様に殴りかかろうとしている。・・・ばかな!お前には人の心が無いのか?
「貴女はまだ若く子供を失う親の気持ちが分からないかもしれないわね。でも、私がお嬢様に手出しはさせません。殴りなさい、さあ、私を殴りなさい!」
「やめなさい、男の私なら遠慮なく殴れるだろう。私を殴れば良い。ただし、お嬢様の願いを、お子様を命を賭して私達と守ると誓って欲しい。一度で気が済まないなら何度でも、さあ、何度でも殴れば良い!」
妻がお嬢様の前に立ち珍しく怒りを滲ませた言葉で彼女に問い詰めている。私も、彼女の態度に思うところがあるのか感情的になり気づけば胸倉を掴んでいた。その後、少々のトラブルはあったが話は進む。
「私がミルクを貰えそうな人をリストアップして置くわ。執事長とメイド長は本日をもって暇を出します。村で情報収集と私の死後、復帰して対応をしてね」
「承知いたしました。お嬢様も私達にお任せくださり、心安らかにお過ごし下さい。」
その後は、私達はギルドに時折届く手紙を確認し書かれた人物を調査、内容をお嬢様に送る。そんな日々続いたある日。私達の家に双子のメイドの片方が現れる。彼女が現れる時はお嬢様が・・・いや、手紙の上とは言え先日、別れは済ませた。為すべきことをやるだけだ。
「ああ、ついにこの日が来たか。必ずや、お子様を我らでお守りいたします。行くぞ!」
『はい!』
妻とメイドに声を掛けて手筈通りにミルクをもらいに散らばる、お嬢様の母乳の出が悪くと言った言葉に皆が最初は協力してくれた。だが、日にちがたつにつれお子様の情報が洩れ2種族が邪魔を、協力者が徐々に断りを入れるようになってきた。
「貴女も、子を持つ親ならば、お嬢様のお気持ちがわか・・」
「ごめんなさい、ミルクを渡せば2種族からこの子に危害を加えると・・ごめんなさい。」
「・・・今までのご協力、感謝いたします。」
手紙に書いてあった予想通りに2種族が手を回し始めた、さらに、受け渡しの場所である小屋前での戦闘によりメイドの一人が傷つき行動不能に、手渡したミルクに毒が盛られていた為にもう一人が、妻が、自分が、次々と小屋から動けなくなっていく。黒く赤い瞳の蛇がこちらをジーっと見つめて警戒をしている。ああ、あれがご子息、メイド達から聞いたお名前、シンガ様の使い魔か。万策尽き、ふがいない自分を叱責していた時に、メイドが慌ててお嬢様のお休みになる部屋に入り何か探し物を探し出す。
私達も部屋に入ると部屋全体が寒くお嬢様が寝ているベッドの下から冷気を感じる。穏やかに眠るお嬢様を床に降ろし、ベッドを探ると板が外れて中に冷気を出す魔道具と食料や少しの凍ったミルクとポーション、それと見慣れた私達の愛剣があった、そして手紙も。
〖この手紙が読まれてるって事は、ええ⁈もしかして、ピンチなの?うっそ?マジで?執事長とメイド長~任せてって言ったじゃない。エリナ、リリナはほどほどにガンバ!・・・とりあえず老夫婦二人の剣は買い戻しておいたわ、悪いけど、タダじゃないの、私の所までお金を持って来てね。ああ、なるべくゆっくり来なさい、利息が増えるから。エリナ、リリナ、あの人の事もよろしくね。シンガを私の子をお願いします。〗
「もし、力及ばず、死すとも必ずシンガ様はお守りいたします。もうしばらくお持ちください、お嬢様の下にすぐ馳せ参じます。」
「二人とも、ここは任せました。あなた、行きましょう。」
私達は剣を携え表に向かう、2種族と旦那様が剣を抜き襲い掛かってくる。
「貴様ら!妻はどうした?子供が、穢れた存在だと噂されている。・・見せろ!妻と子供を私に見せろ!」
「私達はお嬢様個人に仕える身。貴方の言葉に従う気は無い!どけ!邪魔をする奴は切り捨てる!」
「女と思って舐めて来るならば、その命を授業料にもらうわ。かかって来なさい!」
妻のガチギレの気勢に敵がひるむ、そうだろうな。私達夫婦にいわゆる夫婦喧嘩は存在しない。なぜなら、私が一方的にボコボコにされるだけだからだ。あんな一見何の変哲もないお婆ち・・・優美でお淑やかで傾国の美女で箸以上の重たい物を持ったことがなさそうなお姉さんがまるで道端の草を斬る様に2種族を斬って行く。私達は馬にまたがりそれぞれが村に散っていく。そして翌朝戦いは唐突に終わる。
全能神ゼリウスの神託によって、2種族が領地を出て行った。日々いなくなる人口、2年後双子のメイドは旦那様と結婚した。なんでも、どちらかの一撃が心に響いたらしい。シンガ様は変わらず命を狙われている、それも嘆かわしい事に自分の父親に。私達は奥様となった双子と旦那様の味方のスタンスで蛇にバレないように暗殺者を少しだけ殺していく。露骨に、シンガ様を守っているとバレればお役目を外されてしまい守れなくなるからだ。そのため、通常時も私達はシンガ様に冷たい態度を取るようにしている。
「恥ずかしながら色々ありましてな。(笑)」
二人はどうしてそこまで出来るのか?と聞かれた時に私達は言葉を濁してしまった。今更言えない、一目ぼれだったと、あふれんばかりの才能に、気高き気品にこの方こそが私達の仕えるべきお方だと思ってしまった事など。
さらに一年後、奥様達は無事カイン様を出産したが、残念ながら子供を授かる喜びと失う悲しみを同時に経験される。シンガ様が男爵家を継がれる頃には私達はこの世に居ないだろう、普通ならカイン様は家を出て行く事になるだろうが、なんとなくカイン様も奥様達もこの小さい平屋の屋敷でのんびり過ごす余生が待っているように思う。
それから、魔人種族と獣人種族の奴隷がムートン男爵領に来て私達に代わって奥様達の世話と領地の警護をしている、屋敷が賑やかに狭くなった。嬉しい変化に4人で笑って、もうすぐお役目も終わりだと話していた。引継ぎが終わり時間が出来たことで夫とのんびり過ごす日々、お嬢様への冥土の土産話に最後の旅に出るのも良いかもしれない。・・・・旅には出なかったいや、出なくても十分なお土産話が出来そうです。
学校に行ってしばらく、奥様達とやり取りされていた手紙に、マルゴー公爵令嬢と仲良くなったと書かれていたと聞いた時に、流石はお嬢様のお子様だと再認識することになる。男爵家の者が公爵家と懇意になど普通は考えられない。学校に行くまでも蛇と武術の訓練をなさる姿を見かけたが、あの歳であれほどの、と驚いた。奥様達と4人で凄い親子よねと笑っていると、夏季休暇にマルゴー公爵令嬢ヴェラ様が来ると書かれてると慌て始める奥様達に何故今更?と頭に???が浮かんだりした。大勢の大工が3階建ての豪華な屋敷を建てて行った。思えばそうですね、公爵家令嬢が寝泊まりするのに前の屋敷では不敬にあたりますし警護も出来ませんからね。
もうすぐ、シンガ様が帰って来る、遠目にも分かる大きな馬車が近づいて来る、カイン様がはしゃいで奥様達は表情が硬い。警護やお世話担当の2種族も緊張してる。さて、久しぶりにお会いするシンガ様、今日も私は意地悪なメイド長の仮面を少し楽しみながら被るとしましょう。




