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終わりゆく世界の片隅で  作者: アンチョビ


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13/20

夏季休暇、領地に帰る準備をしよう

アドリアン・ド・オーブリオン、偉大なる戦士の大いなる犠牲によって、俺のその後の生活は一旦平和に過ごせているかと思われたが、エリリ義母さんから届いた手紙と、一冊の分厚い本が避けられぬ現実と言う地獄を思い出させてしまった。夏季休暇が迫り、荷物の準備をしているとヴェラ嬢から会いたいと連絡が入りいつもの部屋にて会うことになる。


「急にごめんなさいね。シンガにお願いがあって、ムートン男爵領に一人連れて行きたい子がいるの。さあ、こちらに来て、挨拶をなさい。」

初見参(しょけんざん)にあります。自分は、マルゴー公爵家派閥、ジスクール伯爵家が長女、セレスティーヌ・ド・ジスクール。シンガ卿、この度は自分およびヴェラ嬢とムートン男爵領へ招致いただいたこと、深く感謝いたします。本日の知遇、忘却いたしません。」


んん~また、可愛いのが来たな~ヴェラ嬢の左側に立つ彼女。薄いピンクの髪にオレンジの瞳。貴族学校の制服ではなく、軍隊服?を着た少女が敬礼してる。ああ、まだ、貴族学校にも行ってないのか?じゃ、4・5歳くらいってことか。


「初めまして、僕の事はヴェラ嬢から聞いていると思うので、自己紹介は省かせて頂きます。それで、彼女もムートン男爵領に?」

「ええ。実は、彼女のお父様であるジスクール伯爵からお願いをされてね、それが、その・・・」


「ヴェラ嬢、自分から説明する許可を頂きたい。シンガ卿、ジスクール伯爵家は剣術において王国1であると皆が知る所ですが、自分はまだ才能が足りず、剣一つまともに扱えぬ体たらくぶりであります。これでは我が家の名に傷がつく。そこで、是非とも、シンガ卿の師匠であらせられるノワール様に一手のご教授願いたいのであります。」


「あ~、師匠、ノワールはムートン男爵領に居るか分かりませんよ。セレスティーヌ嬢、居ない場合はどうされますか?後、ノワールが僕の師匠と誰から聞きました?」


ヴェラ嬢に一瞬視線を向けると困り顔が見えるからかなりゴリ押しされたんやな。俺の師匠がノワールだと誰から聞いたんやろ?ってかマルゴー公爵が言ったんやろな。多分。


「居られぬ場合は縁なき事と諦めます。ただ、もし許されるなら弟子たるシンガ卿が日々なされてる鍛練の見学、参加を許可頂きたいであります。・・・シンガ卿の師匠がノワール様だと聞いた相手はお教え出来ません。もちろん、ジスクール伯爵家の名にかけて他言しないであります。」


【シンガ。このお嬢さん、私は気に入ったぜ。あの手を見たかい?ありゃ、お前さんと同じく休まず毎日、一日何千回と剣を振って来た手だ。お仲間さんを助けてやりなさいな。】


「では、これも何かのご縁です。師匠のお教えを一つ伝えましょう。 「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす」 この言葉に照らせば僕などまだ武の入り口にも立っていません。そんな未熟な身の朝練でよければ、参加されるのは問題ありません。」


レピが珍しい事を告げてくる。確かに敬礼した時に、一瞬見えた手のひらの感じから多少はわかるよ。前世で有名な剣豪の言葉を伝え、せっかくムートン男爵領に来るお客様、しかもヴェラ嬢の頼みなら断ることもしないさ。


「おお!ノワール様の教えとは、かように深い物でありますか。ジスクール伯爵家にも家訓はありますがこれほどまでの重みは・・。千日が鍛・万日が錬とは武の道とは、一流とは、決して一朝一夕で成るものではないのでありますな。自分如きが剣を語り身を嘆くなどそちらのほうが恥ずべきことでありました。」


感極まったように目をキラキラさせて深くうなづく様がとても可愛らしい。妹がいるってこんな感じかな~頭を撫でてやりたい。そういえば、あいつもこんな感じだったけ?よく、俺の言葉に感激してたな。懐かしい。


「シンガ。私も参加していいかしら?興味があるのよ。」

「痛っつ、ひっ!」


前世を懐かしみ思いに耽っているとヴェラ嬢の声と何故か、セレスティーヌ嬢の悲鳴が聞こえる。視線を向けるとヴェラ嬢がセレスティーヌ嬢の右肩を握りしめている・・・あれ、ヴェラ嬢って屍鬼封尽(しきふうじん)使えましたっけ?匕首咥えた般若が背後に立ってる様に見えますが、何故に?


「シンガ。私を招待してくれたのよね?このメスガキじゃ無いわよね?」

【・・・シンガ、すまないが。私はどうもこのセレスティーヌ嬢とやらが気に入らないね。ああ、気に入らない。私、レピは嫌いだとヴェラ嬢に伝えてくれ、さあ、はやく。】


「え?ええ、もちろん、もちろんです。ヴェラ嬢を招待しました、歓迎します。ああ、そうです。領地にてエリリ義母さんが、ヴェラ嬢に、ヴェラ嬢だけに渡したい物があるそうです。」


俺の影の深い所に潜りながら怯えた声でさっきと真逆の事を言い出すレピ。メスガキって・・・セレスティーヌ嬢を紹介したのヴェラ嬢ですやん、何がありましたん。あと、そろそろ、右肩を放してあげないとセレスティーヌ嬢が滅茶苦茶痛がってるし、半泣きですけど。エリリ義母さんがヴェラ嬢に渡したい物があると伝えると。


「え⁈そ、そうなのね?お義母様が私にだけ・・・チャンスね。シンガの昔話や学校での話で盛り上がりながら、お義母様と仲良くなる。私の義弟になるカイン君とも仲良くなれば、・・・義弟カイン君って響き良いわね。あの公爵家の実弟(ゴミ)なんて明日死んでも気にならない、あ、でも、死なれると私が婿養子を貰う形になるのね?じゃ、死ななくて大丈夫よ、好きに公爵家を継げば良いわ。まぁ、名前も忘れたけれど。カイン君の名前は忘れる事はありえないわ。ヴェラお義姉様、いいえ、ヴェラお義姉ちゃん、待ってヴェラ義姉(ねえ)と呼ばれましょう! 城を落とすにはまず外堀から埋めよ との言葉もあるわ。お義母様のプレゼントはなにが良いかしら?確か以前、ノワール様が好きとシンガに聞いたわね。では、私のコレクションからいくつか見繕いましょう。カイン君のプレゼントも考えないとダメね。何処かの家の子でも紹介するのが良いかしら?一度、シンガと相談しましょう、私のムートン男爵家の義弟カイン君の相手だもの、最低子爵家令嬢クラスじゃないと駄目ね。・・・・私のムートン男爵家・・・ふふふふ、違うわ、私のムートン伯爵家ね。」


いつもの早口が始まるが今日はそこまで悪い顔になっていない、ずっとニコニコしてる。・・・機嫌が直ったみたいだし、セレスティーヌ嬢も右肩を押さえているけど大丈夫みたいだ、良かった。表情は硬いし怯えているけれども。


「それと、ムートン男爵家当主に代わりお礼を申し上げます。なんでも、ムートン男爵家の屋敷をリフォームして下さったとエリリ義母さんの手紙にありました。お陰様でエリリ義母さんとカインも快適に過ごせているとの事、ヴェラ嬢。本当にありがとうございます。」

「当然の事をしただけよ。こう言っては何だけれど、私が泊まる部屋も気を使わすでしょ?セレスティーヌ嬢が来てくれるから対外的にも最悪な状況は避けれるわ。一応、他の公爵家にはノワール様との接触が目的と伝えてあるし、本来ならば未婚の公爵家令嬢が異性の家に行くなんてスキャンダル以外の何物でもないのだけれど、・・・私は公爵家では意味のない存在だから気にされないの。(笑)ああ、後、他に要る物などがあれば遠慮なくいってね。・・・あら、シンガどうしたの?目が怖いわ。」


「え?ああ、申し訳ございません。世の中に、この世界のクソッタレな存在にイラ立ちが。クズ共が・・」

「初めて聞いたけどダメよシンガ、あまり強い言葉を使わないで。以前は気にしていた事だけど、最近の私は気にしてないの、本当よ。うふふふふふふ、シンガもそんな強い言葉を使うのね?」


存在が意味がない何て12歳の女の子に簡単に言わせる世界、クソッタレな世界、あのクソボケが全能神の世界。あかん、荒んだ心にヴェラ嬢の笑みが染みる・・・そうや、お礼になるか分からんけど、旅の途中でちょっと耳を慰める事が出来ればいいな。


「ヴェラ嬢。もし許されるなら、ウクレレと言う楽器を準備出来ますでしょうか?」

「ええ、それは出来るけど・・ルナリスも私も扱えないわよ、マイナーな楽器ですもの。」


「お耳汚しになるかと思いますが、僕が旅のお供に1曲か2曲。披露させていただければと思います。」

「シンガって多才よね。楽しみしているわ。明日、届けさせるわね。」

【シンガ、お前さんが楽器を弾けるなど見た事も聞いた事もないが、また、例の人型ってやつかね?】


レピの問いかけに静かに小さくうなずく、前世でギターに挑戦して敗れ、ウクレレでは多少は奏でることが出来ていたと思っている・・・正月や誕生日でよく爺ちゃん婆ちゃんに聞かせていたから大丈夫・・・きっと。無事にウクレレが届き、放課後に音楽室を借りて練習する。まず4、5曲を弾いてみると、なかなか良い感じですな。


「シンガ、私の為に曲を作る事を許す、私が望んだ時に弾くこと。」

「あ、じゃあ、ウチのもよろしくにゃ」


何故か黒耀がドヤ顔で、琥珀は笑顔で曲を作れと言って来た。作らんよ?てか作れませんよ、俺が弾いてるのは前世の曲だからね。まぁ、2人は知らんからしょうがないけれど。


「イヤだよ。領地に行く時にヴェラ嬢の暇潰しになればと思っただけで、それ以外で弾くことは無いよ。」


「遠慮する事は無い。私に合う曲を作れば良いだけ、問題は無い。」

「ウチもよろしくにゃ」


しつこいな(怒)なんで上から目線やねん。後、黒耀は奴隷契約してないけれど、琥珀はムートン男爵家と契約してるよね、その態度はないんじゃないかな。


【シンガ。呼んでないお客様が来たようだぜ。しかし、良く無事だったな。】


レピが告げたタイミングで音楽室のドアが開くとアドリアン卿とヴェラ嬢が入室してくる。いやいや、ホンマにアドリアン卿よう無事やったな。


「やあ、シンガ君。今、時間は良いかな?」

「シンガ、ごめんなさいね。少し話があるのよ。」


ちょうど休憩を考えていた事もあり、2人の話を聞く事にする。ああ、黒耀さん、ウクレレ勝手に触らない、琥珀もベタベタ触らないでね。


「それで、お二方が一緒にお話とはなんでしょうか?」


「ガルシア男爵家次男のカザル君を知っているかな。彼からセギュラス子爵家に手紙が来ていてね、内容がヴェラ嬢に関する事なんだよ。僕が来たのは彼らが派閥の人間だからさ。」


「私がシンガに・・・穢されていると、2人で王国に混乱を起こすつもりらしい。・・手紙にはそう書かれているわ」


「カザル卿は、その、大丈夫ですか?一介の、男爵家が公爵家のヴェラ嬢に不敬な発言をするなんて。」


「もちろん、ガルシア男爵家は後日、取り潰しさ。ただ手紙では、彼は、シンガ君との決闘を望んでいる。」

「私のせいでもあるのよ。先日、彼と会った時にシンガと会うぐらいなら僕と過ごすほうが有意義だと言われたのだけれど断ったのよ。」


別にそれのどこに問題があるのだろうか?ヴェラ嬢に断る権利があり、カザル君は従うべきだと思うのだけれど、と言うか公爵家令嬢に決定権があるに決まってるだろう何が気に入らんねん。


「シンガよりも優れていると言うから、その、ある質問をしたのよ・・・マルゴー公爵家で水の魔法適正でありながら前例のない火の魔法属性であるワインレッドの瞳を持つ私は出来損ないじゃないかと・・・」

「それは、僕もその悩みは聞いた事があったよ。その時も言ったはずだ。気にすることは無いと、まだ気にしていたのかい?」


「ありがとうございます、理事長。もう気にしていません、むしろ誇りに思っています。・・ちなみに、彼はこう答えました。 出来損ないのあなたでも、受け入れます。前例がないからあきらめる事は大事だし、僕なら、慰める事が出来ると。」


「うん、まぁ、色々思うところはあるけど良い言葉だと思う。6歳の子が言えるなら十分じゃないかな?」


「では、この言葉はどう思いますか?・・・私はこの世界で唯一無二の存在。周りが私を評価しているのは容姿の事で、実力の事ではないのだから。ワインレッドの瞳を持ちながら、火の適正者の目を持ちながら水を操る。マルゴー公爵家初、世界で唯一無二の存在、ヴェラ・ド・マルゴー。前例なんて気にするのは無駄な事。大聖女スズカも最初は普通の馬獣人で、スズカの前に大聖女は居ないのだから。」


【なんだって!そんなクサイセリフを言うキザな存在がいるのか?おいシンガ!お前さん何か知らないかね?いや~びっくりした、アッチョン何とかだぜ。これをシンガが言っていたなら一生イジルね。ま、モブ顔キャラは言っちゃいけないセリフだぜ、シンガお前さん気を付けなよ。(笑)】


んんんん・・・他人に言われるとこっぱずかしい。確かに言ったね、言いました。レピ・・・お前後で覚えとけよ!なんかで仕返しするからな。ちゃうねん、俺の中のエルシス・ラ・アルウォールが言えっていったねん。


ヴェラ嬢、そんなにまぶしい笑顔でこっちを見ないで・・アドリアン卿が一瞬目を見開き、面白い物を見つけたみたいな表情で俺を見る。やめて、ほんと、恥ずかしいです。分かってますキャラじゃない事は、もうしません。(泣)


「それを、6歳の子が?いやいや、どんな感覚なんだい。驚いたね。」

「その人にしてみれば、容姿の事だけ見れば、マルゴー公爵家で水の魔法適正である青い瞳は・・ヘレナお姉様は普通だそうです。」

「はぁ!!!へ、ヘレナ嬢を普通!!・・いやいや、聞き間違えだ。落ち着け・・・」


「シ・ン・ガ説明して差し上げて(笑)」


悪戯っ子のような笑みで俺に説明を促すヴェラ嬢とワタワタしてるアドリアン卿。ふぅ~仕方ない、説明しますか。


「アドリアン理事長。深呼吸して、僕の話を聞いてください。容姿の話です、能力や人柄の話はしていません。青い目で水の適正が普通なら青い目で水の適正であるヘレナ嬢は普通であると言っただけです。間違ってませんよね?」


「ふぅ~~うん、言ってる事はわかる。と言うかその通りなんだけど・・・その通りなんだよな~。これは、彼がと言うかシンガ君に勝てる人は居るのか?ヴェラ嬢に言った言葉以上の物は・・・いや~思いつかないね。」


「ですよね?シンガの言葉が一番ですよね?ええ、シンガが一番なんです。この子ホントに出来る子なんですぅ~」


ヴェラ嬢、急にどしたん?オカンか?左手は頬に充て右手で手招きするような動き、大阪のおばさんやん。あら?やだ!奥さん、やんか。ニコニコ顔のヴェラ嬢が急に真剣な表情になり


「勝ち誇る彼に伝えたの 満開の枝に炭を塗る って言葉をね。その場は意味が分からなかったみたいなのだけれど、後日、カザル卿が来たのよ。決闘にて自分の優劣を見せると、勝利の後、自分の横に立って欲しいと」


「満開の枝に炭を塗る・・ね。まったく、シンガ君の言葉の後ならそうなるよな。綺麗に咲いた花の枝に炭を塗っても意味もないし不快だしね。で、次は力で行こうとしたんだ。それだけではなく、ヴェラ嬢を妻にしたいと言った。はぁ~どれだけの罪を重ねるかな~もう。」


二人の説明を聞いてもいまいち良く分からない。何故カザル君は俺との決闘を望むのか?ヴェラ嬢を妻に欲しがるのか?素敵な女性だから気持ちは分かるがそれだけが理由じゃない気がするな。


「何故、カザル卿はそこまでするのでしょうか?男爵家の人間が公爵家の令嬢に求婚するなど、普通の思考の持ち主ならありえません。彼は狂ってしまってるのでしょうか?」

「ええ、そうね。シンガ、普通はね。いい、シンガ。普通は私に初対面で行き成り求婚なんてしないの。ええしないのよ。」


「そ、そんな身の程知らずな奴がいたんですね⁈くぅ~この僕が近くに居たらレピに正気に戻る様に嚙みつかせましたものを・・いえ、いっそ記憶をなくさせましたのに残念でござ・・・」

「レピ、私の目の前で意味不明な事を話す男に嚙みつきなさい。」

【はっ!御心のままに。】


「うひぃぃ、あぶない!おおい、なにするのレピ!てかなんでヴェラ嬢の命令聞いてるの?僕の使い魔だよね?え⁈ヴェラ嬢、いつの間にレピを召喚出来るようになったんですか?こっっわ。」


ヴェラ嬢がジト目でこちらを見てくるしアドリアン理事長は、え!マジみたいな表情をしてる。

ごまかそうと早口になり慌てて俺が話してる途中でレピの声が頭に響きヴェラ嬢の命令で何故かヴェラ嬢の影から現れ腕に噛みつこうとする。カチンと牙が当たる音がなり、背中に冷や汗が流れる。


「シンガ君。まぁ、聞かなかった事にするよ、カザル君に次いでシンガ君もその、身の程わきまえない言動があったなんてちょっとねぇ。・・・困るんだよね。」

「違います!誤解なんです!そう、語弊と言いますか、行き違いと言いますか、勘違いと言いますか。」


「レ・ピ。」


ヴェラ嬢の床がキンキンに冷えそうな声が部屋に流れる。俺の右横でレピが大きく口を開けシャ~~~って威嚇している。・・・お前、俺の使い魔ちゃうんかい!なんや昔、どんな存在からも俺を守るのが使命みたいなこと言ってなかったか?どっちの味方やねん(怒)


「ヴェラ嬢。ひ、ひとまずこの事は置いておきまして、カザル卿の事を聞きたいのですが宜しいですか?」


「確かに、ヴェラ嬢。話が終わらないからひとまずね。さて、今回の経緯だけどカザル君には1人の兄と1人の姉がいる。姉に婚約者が居てね、仲は良好だった。だが、姉の婚約者が子爵家の令嬢と結婚するために婚約を破棄してきた。」


まぁ、聞けば良くある話だ、今の婚約者と別れ上位貴族の令息令嬢と結婚する。たしかに、会社の社長令息令嬢と結婚するために恋人と別れる何て事は前世でも聞いたことあるしね。で、姉はその後どうしたのかと言うと何も変化が無いそうだ、別れを切り出された日も普通、その後も普通。両親も兄も普通。


カザル君は困惑した、あんなに仲が良かった姉のカップルが簡単に別れを選び周りも普通にそれを受け入れている。子供は結婚した二人の愛の結晶だと言う、なのに地位でその愛は変わってしまう。じゃ、自分は本当に愛されて生まれてきたのか?母親は、父親は本当は仕方なく結婚し仕方なく自分を生んだだけじゃないか。この先、自分が好きになった人が高位の貴族に簡単に奪われるかもしれない未来。そしてそれを当たり前の様に受け入れる未来。


だからカザル君は求めた、自分が必要とされている存在だと思うために、高位の貴族である公爵令嬢を妻に持つ自分は今より幸せになると信じて。穢れた存在である俺を見下す事で自分を慰めていると勘違いした公爵令嬢、ヴェラ嬢を自分が慰める事で存在価値を周りに、両親、兄弟に見せつければと考えたんじゃないかな。


「説明は分かりましたが、これはその、言動が一致しませんよね?地位を求めるのは良いとして、何故不敬となる手紙を送ったのですか?家が取り潰されることなど容易に想像付きませんか。」


「その通りだよ。だから彼は地位ともう一つの物を求めた。それはね・・・・死だよ。家族の死、自分の死、地位で変わる愛をささやいた自分を惑わした存在を消す。でも残せるものがある、それは君を穢れと呼ばれた存在を殺したという事実、聖王・聖女協会に未来永劫残る偽りない事実。」


なるほどね。6歳だもん、感情がグチャグチャになったんだよね。そう、6歳なんだよ、これからもっと学んでいく事が多い子供だろ?命が軽い、本当にね。


「決闘を受けるなら、3日後だよ。受けないなら処刑が行われる。急ですまないが明日、正午までに返事をしてほしい。じゃ、僕は行くよ。」


アドリアン卿が部屋を出て行くのを見送る。俺の中で答えは決まっている、せめて、カザル君の思いに答えよう。部屋に残るヴェラ嬢にお願いをする。


「ヴェラ嬢、お願いがあります。もし、ご存じかお持ちならばお借りしたいのです。・・刀と呼ばれる武器を一振り。」


俺の持ちうる技で答えよう。




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