ACT57・禍々しき星の夜
「ダスターは七色タワーに陣取り、緩やかに地上の人間からスタープリズムを吸い取ってやがる」
ウサポとイカロスの偵察から得た情報を聞く。
「敵はコンパケートタイプのダスターが親玉として居座っている。夜宵が力を取り戻した時に遭遇した個体だ」
スターセイザーとしての能力を失っていた夜宵。その力を取り戻す時に居合わせたダスター。
言葉を放つダスターは、コンパケートタイプと呼ばれ、その中でも上位の存在。コンパケートタイプにも上下はあるが、今この状況を引き起こしているのは、強大な力を有していると予想する。
「・・・ちょっと待て。居場所も分かっているなら、なんでなんとかできないんだ」
苦虫を噛み潰したように、イカロスは表情を歪める。
「・・・それを説明するにゃ、ダスターの性質を語る必要がある」
イカロスは腕を組み、
「ダスターは王制じゃねえ。だが、その時にもっとも力を有し、カリスマ性を持つ者が奴らのトップに君臨する」
カオススターは、類を見ないほどに強大な力を持ち、他のダスターを従えていた、とも。
「カオススターが人間を軽視し、下に見ていたことは変わらないが、最後に一織と対峙し、その考え方や思想を揺らがせ、自壊した」
そして、それこそがダスターとの戦いが終わった理由と聞いている。
「今の残党を率いているのは、あのコンパケートタイプだろうが、奴がカオススターと決定的に違う部分がある」
思い出すようにイカロスは目を伏せる。
「奴は前の戦いのときから、徹底して人間への直接攻撃を良しとしていた。カオススターはゆっくりと、確実に甘露を搾り取るために。それすらを楽しみにしている節もあった」
イカロスは窓の外、暗がりの帳が降りている世界に憂いた目を向け、
「奴は、時間を掛けて人間を敢えて泳がし、甘味を味わう方法から、力付くでスタープリズムを奪う方法へとシフトチェンジした」
ゆっくりと、着実に吸い取り味わうのではなく、地上をスタープリズムの採取場へと変化させること。そこに住む人間のことなど、何も考えない、強引な方法へと。
「百合花の嬢ちゃんがいないことも好機としていやがる」
ダスターの本格的な地上進攻。それは地上を蝕む、危機。
「はっきり言って、その援軍を待つ時間はあまり無えかも知れねえ」
イカロス曰く、
「水晶花とスタープリズムは根源を同じくする。水晶花が心を支える芯ならば、スタープリズムは身体から発せられる活力だ」
どちらも、人間が生み出すエネルギー。その性質に違いはあれど、根源は同質。
「活力、すなわち生命のエネルギーだ。それを奪われたものは著しく体力を落とし、人間としての活動が困難になる」
かつて、七色タワーで観光客が同じような状況に陥り、その全てが床に身体を投げ出す光景を見た。
「カオススターの主義はあくまで人間の生み出す甘い果汁が目的だった。だが、あのコンパケートタイプは人間のスタープリズムを絞り尽くすことに躊躇いはねえだろう」
イカロスの視線が、閉じられた蛇ノ目の部屋の扉へと向けられる。
「博士だけじゃねえ。高齢の人間、病弱な人間。その体力が持つかどうかは保証はねえ」
最悪の事態を想定したのか、イカロスの表情は歪む。
「居場所ははっきりとしている。だが、数が今までの比じゃねえ」
ダスターを一体ずつ送り込み、じっくりと吸い取る作戦から、いっぺんに搾り取るやり方にシフトしたからだろう。
「お前さんが戻ってきたのは、この中に置いて光明だ」
無論、光太朗はこの状況をなんとかすることにやぶさかではない。
「・・・でも、外がこんな状況になっているのに、騒ぎになっていないのはなんでだ?」
七色タワーを中心に、ダスターの能力が及んでいるのは理解できる。だが、その外。その力が及ばない範囲外に居る人間が、それを奇妙に感じることはないのか。
「奴らはタワーを中心として、この状況を感知できねえ結界を同時に張り巡らせている。それに、日々その範囲を広げているんだ。その日奇妙に思ったとしても、次の瞬間にゃ意識を失い、見事スタープリズムは奪われる」
最終的には、世界全てを包み込む、とも。
スタープリズムを奪われた人たちと共に、世界を覆う結界は際限なく広がり、それhあいずれ地球全土を包む、と。
「・・・帰ってきて早々悪いな。時間がありゃ、兄ちゃんともっと陽気な話をしたいと思ってたんだけどな」
複雑そうな表情で、イカロスは笑った。
作戦はこうだ。
ウサポとイカロスを伴い、光太朗がな七色タワーへ先行。その間に一織と夜宵は七色町全体にスタープロテクションを張る。
激しい戦いを想定し、街を保護する目的もそうだが、ダスターの軍勢の中、なるべくこちらに有利なフィールドを維持するためだ。それがどれほどの効力があるかは分からいないが、とイカロス。
蛇ノ目家のリビングはこたつテーブルが取り払われ、そこに仲良く並んで敷かれた布団に、一織と夜宵が身を寄せ眠りについている。
一織と夜宵の両親も、友人も、学校の先生も。ダスターの能力の影響を受け昏睡しているだろう。本来なら側に寄りそっていたいはずだ。
外のことも鑑みて、今夜はこの研究所に身を寄せている。
それは、ダスターからの脅威から世界を守るスターセイザーとしての責任からか。
それが、小さな肩にのしかかっている。その肩の荷物の重さたるや。光太朗には測ることができない。
なんにせよ、時間は待ってくれない。
夜が明け、目が冷めた時が作戦開始のその時だ。
昇る朝日は翳る結界の影響を受け、希望に満ちるいつもの活力を見せない。それほどまでにダスター能力の影響は甚大で。
「・・・行くぞ。準備は良いか」
イカロスが勇ましく同意を求める。
光太朗、一織、夜宵はそれぞれ変身を終え。
スターセイザーのふたりは街を覆うほどのさらなる結界、スタープロテクションを起動。
アフロディーテは念のため研究所に残る。
「いいか。お前さんはまっすぐに七色タワーの頂上を目指して欲しい」
「コンパケートタイプは貴方が対応。気体のノーマルタイプは倒せないこそすれ、わたくしたちが足止めしますわ」
星の巫女であるウサポとイカロスにダスターを倒す力はないが、足止めはできるという。
「コンパケートタイプの外装は強固だ。だが全力で打ち倒そうとするな。あくまで目的はそれを統べるリーダー格だ」
コンパケートタイプは通常個体と違い、触れることができる。だが、触れられるイコール倒せるのではまた違う。
元の世界に戻ってきて、変身してもそれを咎める声が聞こえない。
メットの奥底から、見知った声が聞こえることがない。なんとしても、助ける。この状況を打破する。それが、この胸の中に渦巻く思いだ。
「必ず、取り戻すぞ。街も、人も」
イカロスの決意を合図に、光太朗、ウサポ。そして、一織と夜宵がその思いに同意し、頷いた。
肌を撫でる、不快な感覚。
スケイルアーマーを纏っている光太朗ですらそう思っているのだから、一織や夜宵。剥き出しのウサポとイカロスはその空気を直に感じているだろう。
一織と夜宵が構え、両手の平から淡い黄金色の粒子が弾け、それが淀んだ大地を侵食していく。
スタープロテクションの輝きが、地面を走り、瞬く間に広がっていく。
「では、俺達は先行するぞ。結界を張り終えたら、お前たちも加勢に来てくれ」
イカロスが、光の粒子を地面に流し続けるふたりに向かって、言葉を掛ける。
それに頷いたのを視界に収め、光太朗は地面を蹴った。2つの星型を伴いながら、まだ暗い帳を包む空へと向かって飛び出した。
「そいやあっ!」
迫りくる奇怪な形状を、気合一閃。吠えるウサポの一撃で吹き飛ばす。
気体状のダスターは、大きく身体を揺らし吹き飛ぶも、その揺らぎが元の形状を維持する。正直方体のシルエットが、元の原色の輝きを取り戻す。
その体躯を揺らがすことはできるものの、その動きを止める、すなわち倒すことは出来ないのだ。
ダスターの身体を維持するのは、身体の中心部にあるコアに起因する。
完全に根絶するにはコアを破砕しなければ、完全に倒したとは言えない。そのコアを貫くのは、常人のスピードでは不可能に近い。なぜなら気体の身体の中で、コアは常時危機を察知し移動を続けるからだ。
ダスターの対峙方法は、スターセイザーによう攻撃で、宇宙に亜光速で吹き飛ばし、摩擦熱でしか叶わない。
「どおりゃあっ!」
同様に、イカロスの蹴りがダスターの身体を切り裂くも、その奇形が消滅することはない。あくまでその身体が元の姿を取り戻すまでの動きを誘発する。すなわち時間稼ぎに過ぎない。
「くっ!」
対照に、光太朗のパンチは硬質の体表に幅阻まれ、それが大きく吹き飛ぶことも、歪ませることもない。
コンパケートタイプ。
触れられることと引き換えのように、その体表は密度の高い金属のように硬質を誇る。だがそれは相反するように流動体でもありしなやかで。様々な立体に形を変えるその姿は、そのことによって感情の起伏を現しているようだ。
現れた光太朗たちに対する警戒か。
中空に浮く、様々な形状を模した立体が、現れた光太朗を迎え撃つ。それは淀んだ空に浮く灯籠を思わせる。
目の無い鏡面が、光太朗を捉える。
同じような光を反射する輝きを称えた鎧に示したのは興味か。だが、すぐさま敵意のようなものを察知したのか、小さな共振を放ち、警戒を強める。
光太朗の眼前には、天空へとそびえる塔がある。
七色タワー。
いつもは観光客がひしめき、その上空から見える街並みは、ある種ひとつの絵を構成するような景観を望める。今は当然、人っ子ひとりいない。
代わりにいるのは、渦巻くダスターの集団。まるで、光太朗を討ち迎えるように。
光太朗の触れられない気体タイプをウサポとイカロスが対応し、ここまで辿り着いた。
光太朗は足に力を込め、飛ぶ。
それを合図として、宙を滑空するように無数のダスターが動く。
光太朗はタワーの外壁を蹴り、上空を目指す。ダスターはそれを阻止するように身体を回転させ、あるいはそのままの姿で突進。
光太朗は壁を蹴りながら、襲い来る立体を躱す。斜め、時には飛ぶタイミングをずらしながら。
メットの中には、無数の警告音が踊る。縦、横、斜め。時には見えない死角、背後から。
進路を阻む個体へは一撃を加え、逸らす。この有象無象の中にも触れられるコンパケートタイプはいるが、最低限の動きで、ただひたすらに上に向かう。
百合花と共に一織、夜宵と遭遇した中腹の展望台を外側から通り抜け、更に上へ。
襲い来るダスターの軍勢をくぐり抜け、光太朗は垂直の壁から足を地面へと着ける。
タワーの最上段は、一般の人間は立ち入れない、整備や点検でしか足を踏み入れない場所であるはずだ。
だが、その高度に達した瞬間、光太朗の感覚を奇妙な感覚が襲った。
自分の降り立った場所を中心に、水平に広がる地平。
それは、かつてここでアンチホープの道化師を相手にしたときのような。
人が詰めかけることの叶わない場所に、わざわざ足場を作ったかのように。
そこに、『それ』は居た。
「・・・イルカ星の星戦士が目覚めた時に、居た人間だな。同じスタープリズムの波動が見える」
その立体は、聞いたことのある声で現れた光太朗を出迎えた。
ダスターの形状に見分けがつく程詳しくはないが、その鏡面の放つ輝きと、言葉尻から感じるのは、夜宵がスターセイザーの力を取り戻した時に対峙した個体なのだろう。
「・・・その割には、星戦士の姿が見えないな。何やら暗躍しているようだ。私の世界を覆う、忌々しい星の輝きを感じる」
この異質な空間だからなのだろうか。
言葉を離すダスターの鏡面に空の色が反射し、毒々しさすら見える。
「ぷはっ!」
ふたつの星型が空を覆う膜を貫き、光太朗の側に現れ、同じく眼前の鏡面体へ視線を向けている。
下では苛烈を極めた攻撃が、ここに辿り着いた途端、鳴りを潜める。目の前の立体が、この場を支配している長のように。その考えは決して的外れではないのだろう。
その鏡面体が無数のダスターを支配している『今』の長なのだろう。
「スタープロテクションでの結界は大方張り終えた。夜宵と一織も間もなくこちらに来る」
イカロスが前方から視線を外すこと無く、言う。
「・・・ここで、俺があのダスターを倒せれば、それで終わるんだよな」
光太朗の言葉に、イカロスは目を剥く。
正直、一織たちを待つ時間すら惜しい。今、光太朗が戦っているのはダスターではない。時間だ。早くこの状況を収め、スタープリズムの吸収を抑えなければ・・・。最悪の想像が現実になるかも知れないのだ。
イカロスの返答を待つよりも早く、光太朗は駆ける。
目指す鏡面が、怪しく揺れる。




