ACT38・懐かしい匂い、蘇る星戦士
つくづく自分の性格が嫌になる。
夜宵を中心とした誕生日パーティーが一織主導の元行われた。一織の親しいクラスメイトも加えて。
私は、一織にのみ祝われればいい。
一織だけが友達であればいい。
一織はクラスメイトを自分に近づけようとする気持ちもわかる。
夜宵が昔から他者との関わりを持たず、ひとりでいることが好きだったから。
それが大きなお節介だとは思わない。
一織のしていることは多分正しいのだろう。
自分も友達を欲しいと思っていないはずがないからだ。でなければ、一織と友達になったりしない。
これは、全て自分の複雑でややこしい性格が招いたこと。
だけど、自分のことを思って一生懸命準備してくれた一織の報いることが出来ない。
それは卑しい独占欲。
浅ましい・・・!
本当に自分が嫌になる。
皆の自分に向ける笑顔が、苦しい。
気付いたら夜宵は駆け出して、その場から逃げ出していた。
悪戯な運命は、夜宵にさらなる苦行を課す。
今、一番見られたくない人物に様々な感情でグチャグチャになった顔を見られたからだ。
いや、無意識に足はそこへ向いていたのかも知れない。
希薄な関係の先にあるその場所は、公園だ。
「夜宵ちゃん」
それは自分とこの少年が、何か運命めいた物で結びついているのではないかとすら錯覚を覚える。けど、夜宵当人はそんなことはこれっぽっちも思っていない。何より、ひとりで居たいという、強がりと相反する、どこかで誰かのぬくもりを欲する気持ちで自分を偽っているからだ。
「今度こそ、一織ちゃんに愛想をつかされたかも知れない」
夜宵は、今何故自分がここに身を投げ出したように駆け込んだかを静かに語り、次にどうやって一織に顔を合わせればいいかを考えている。
それを光太朗は静かに聞いている。表情を歪めた少女を隣に置いて。
それは、心配の要らない杞憂のはずだ。
一織が夜宵の誕生日のため奔走していたのは本人には内密なのだろう。それでもなお夜宵がその集いから逃げ出したのは、夜宵の気持ちが表しているものが全てなのだろう。
一織以外の他人と心を通わせることを苦手とする元来の夜宵の性格。一織がそれを分かっていないとは思っているが・・・。
道行く人が、時折こちらをチラチラと見ている。学生服を来た男と、ランドセルを背負った、沈んだ表情の女の子。どう考えたって穏やかな状況ではない。
自分の家に呼ぶのも何だし、蛇ノ目博士の家にでも行くか。気が落ち着くまで。
そんなことを思っていた瞬間。
「おどれ!何夜宵を泣かせてんだ!」
通りすがりの通行人にまで、まるで親の敵のように怒鳴られる状況なのだろうか。
思わず周囲を伺うも、そこには誰の姿も居ない。まるで幽霊にたしなめられたような奇妙さすら感じる。
空耳か、幻聴か。もう一度夜宵の方へと向き直ると。
何故か夜宵は目を見開き、信じられないようなものを見る目をしている。
再び声のした方へ光太朗も目で追うも。幻聴の原因となるような人影は存在しない。
・・・いや、居た。
ただし、それは人ではない。
光太朗はそれに奇妙な既視感を覚えた。それどころか、それと同じ形状のものを知っている。
光太朗の視線の高さよりわずかに上。
星型の、ぬいぐるみのような姿。
「・・・ウサポ?」
と、名前を零すと、その星型は凛々しい眉根を険しく歪め、怒りの表情を滲ませる。
「ふざけんな!星違いも甚だしい!」
と、その星型は光太朗の眼前までに顔(?)を突きつけ、不満をあらわにした。と、すぐさま不可解そうな表情へと変形させ、
「・・・なんでお前が奴の名前を知ってるんだ?オレの姿を見ても驚かねえし」
そしてすぐ、何かを理解したように合点がいくように目を丸くさせる。
「そうか、お前が奴の言っていた・・・」
その姿と言い方から、目の前の星型がウサポと何かしらの関係があるのは容易に想像できるが・・・。
目の前の男前な佇まいの星型は、意識を光太朗から背後へと差し向け、
「・・・久しぶりだな、夜宵!」
夜宵は、信じられないものを見るような目で、星型を見上げ。
目を潤ませ、顔を紅潮させ。
「信じられない・・・」
そう、嬉しさを堪えきれず表情を滲ませながら、星型に向かって駆け出す。
「イカロスっ!」
イカロスと呼ばれた星型も、駆け出してくる夜宵を受け止めようと手(?)を広げ。
夜宵とイカロスはお互いの存在を確かめ合うように抱きしめあった。
「・・・もう、会えないかと思った」
「言ったろ。俺は死なねえ」
蚊帳の外にいるのは光太朗だが、なんとなく、ふたりの関係が想像できた。
夜宵が一織の友人である理由。夜宵が先を行き戦う一織に引け目を感じている。そして、ウサポと同様の星型と抱き合っている。
「感動の再会は喜ばしいことだが、言わなきゃならんことがある」
イカロスは夜宵の身体を優しく引き剥がし、真剣な目を彼女に差し向ける。
「ここに来るまでの間に、『奴ら』に補足された。全速力で撒いたつもりだが、奴らの狙いがこの地球なら意味はねえだろう。・・・じきに現れるぞ」
「私の分は持ってきてくれたのよね」
夜宵の問いに、当然だとイカロスは返す。
「俺を迎えに来たウサギーナは、一織の方へと向かった」
一織、という名前で思い出したのか、夜宵の表情が陰る。
「一織ちゃんを待たず、私達で対応しましょう」
「・・・どうしたお前ら。仲違いでもしたのか?」
その言葉に、夜宵は無言で返す。
「・・・それより」
イカロスの目が、側にいる光太朗へと向けられる。
「俺を見て驚かねえってことは、こいつがウサギーナの言ってた奴でいいんだよな?」
イカロスの胡乱な目が、光太朗の全身をくまなく追い回し。
「地球の戦士、ね。精神エネルギーに耐久性のある鎧を身に纏うっていう」
一織、ウサポという単語が出る限り、イカロスも彼女たちの仲間なのだろう。
ウサポは、スターセイザーを導く星の巫女。
そして、それと懇意にしている夜宵はやはり・・・。
「俺の動きを補足したダスターは俺を狙ってくるかもしれん。ここで迎えつぞ」
「少し聞いていいか」
イカロスの決意を割って入ったのは光太朗だ。
「一体何が起きるってんだ」
「・・・ここに来るまでに、カオススターの残党に出くわした。奴らが地球を再度狙っているのは聞いてた。地球近海で佇んでいた奴に見つかったんだ」
「多分、以前現れたダスター。そして混合体の片割れも、そいつの仕業かも」
イカロスの意見に、夜宵が続ける。
「俺が見たのは、コンパケートタイプだった。厄介だぞ」
「コンパケートタイプ?」
光太朗の疑問に、イカロスは目を細め表情を歪ませる。
「平たく言うと、ダスターでも上位タイプだ。生命体の言語を理解し、意思疎通ができる」
いつかウサポ言っていた、上位のダスターは喋る、と言う言葉。
「奴らは、地位が上であるほど知能を有し、その能力に伴い、格も上がる体系を持つ。それが、自分たちが優れていると勘違いしているんだ」
確かに、今まで光太朗が対峙したダスターは、言葉を発することがなかった。そして、それは単純な動きのみをする、どこか機械にも似た不気味さを感じたのを覚えている。
「・・・周りにも人がいる。速やかにスタープロテクションで空間を覆って、奴を迎え撃つぞ」
うん、と夜宵が頷いた瞬間。
「夜宵ちゃん!」
遠くから声が聞こえる。
一織だ。
その声に、夜宵は気まずそうに顔をそらす。
「びっくりしちゃったよ。急に飛び出していくから」
そう、安心したように息を吐き、隣にいる光太朗にも微笑み掛けると、すぐさま表情を一変させた。側に浮かぶ星型に、一織の目が驚きに満ちる。
「イカロス!」
よう、とイカロスは一織の驚きに軽口で返す。
「ウサギーナは?一緒じゃねえのか」
一織の周囲をイカロスの視線が回る。そこに同じ星型の姿はない。
「入れ違いか」
「・・・ごめんね?私、夜宵ちゃんの気持ちを考えてあげられなくて」
一織は自分だけでなく、クラスのみんなと仲良くなって貰えれば、と考えていた。でも、それはただ夜宵の心を締め付けるだけの行為で。
その謝罪にも、夜宵は表情を暗くさせ、胸元で手を結ぶ。
「・・・違うの。本当は嬉しい。誰かに気にかけられるのも、心配されるのも。それを素直に表現できないだけ。・・・呆れたでしょ?とんだ構ってちゃんで」
気体に答えたい、変えたい背角と相反するように、元来の性格がそれを許さない。その板挟みが爆発して、それが逃避という行動で現れた。
涙を滲ませる夜宵の言葉に、一織はゆっくりと首を横に振る。
「いつも一緒なのが当たり前で、夜宵ちゃんの気持ちが分かったつもりでいた。同じスターセイザーの力を手に入れて、分かりあった気持ちになってた」
イカロスは腕(?)を組みながら。
「なんだ。ちゃんと友達やっているじゃねえか」
涙を袖口で吹く夜宵に、一織はゆっくりと寄り添い、その方を抱く。
その様子を見て、安心したようにイカロスは呟いた。
「取り合えす、感動の再会は後にしてくれねえか」
イカロスは、自身が感じたダスターの気配を一織にも伝える。
次の瞬間。異変は起こった。
周囲を行く人並みが動きを止め。
不快な、色も風の動きも感じられない匂いが鼻を突く。
そして。
「うっ!?」
夜宵の胸の中で、一織の膝が落ちる。
どさっ。
支えきれず、一織の小さな身体は意識を失い地面に倒れ伏せる。
「一織ちゃん!」
地面に膝をつく友人を見て、夜宵は声を上げる。
「・・・来やがった!」
イカロスが周囲を見渡す。
まるで、七色タワーでの出来事の再来のように。あの時とは逆に一織が意識を失いかけ、夜宵が無事でいる。
「待て。スターセイザーは、ダスターに対抗するための戦士じゃないのか」
ダスターが人間が宿すエネルギーであるスタープリズムを奪う際、それに伴い対象者は一時的に意識を失う。だが、スターセイザーはそれに立ち向かう戦士なわけだからこんなのでいちいちダウンしていたら、その力も意味をなさない。
夜宵はともかく、一織が気を失う原因がわからない。
「スターセイザーへと変身する以外では、奴らのスタープリズム奪取を防げるのは星の巫女の力があってこそだ」
確かにあの時、一織のカバンにはウサポが寄り添い、今は夜宵にイカロスがいる。
「・・・それにしてもお前はなんでこの状況下で意識を保っていられる?」
暗晶空域内、そしてスタープリズムへの攻撃も、光太朗には通じていない。
不可解なものを感じながらもイカロスは緊迫した表情へ戻し、
「だったら手ぇ貸せ。一織を安全な場所まで運べ」
気を失った一織の身体は、恐ろしいほどに軽く、小さい。こんな女の子が、奇妙な得体も知れない敵と戦っていたのか。
「いくぜ夜宵。準備はいいか」
にやり、と口元に笑みを浮かべながら、イカロスは問いかける。
「ええ。一織ちゃんは私が守る」
それに対し、夜宵は力強い決意を持って返す。
一織はそのスターセイザーとしての使命を、世界を、宇宙を守るために使っていた。けど、夜宵は違う。それは全て一織のためだ。
自分を孤独から救ってくれた、一織のため。
この戦いが終わったら、一織に謝ろう。そう、決意を固める。
「スターゲートキーだ!」
イカロスが吠えると、光る筋が夜宵の首元を周遊するように周り。それはネックレスのように、輝きを揺らしながら顕現する。それは、熱を持つようなまばゆさを称える、鍵。
夜宵は首元に揺れる鍵を手に取ると、それは簡単に首から外れる。
「スターアクセラレイション!」
夜宵がいつもとは違う、勇壮を滲ませた言葉で叫び。
「スタート!」
手にした鍵を、前方の何も無い空間に突き出し。まるで鍵を回すように手首を捻る。
カキンっ!と、見えない何かが噛み合い、回る音。
刹那。
空間に亀裂が走り、扉を連想させる開放されたそこから、瞬く星が夜空に輝くように、無数に色とりどりの光が溢れ出し、夜宵の身体を覆う。
夜宵の纏う衣服が、輝きが弾ける度に変化をもたらし。
黒く艷やかな髪は、深い藍色の輝きを乗せる。
夜宵の腰を覆うスカート。その尻部分に、魚の尾びれを連想させる物体が吸い付き。
それは一織の頭部に浮かぶウサギ耳のように、完全に体表に接着するでもなく、まるで夜宵を支えるように佇む。
「輝く星の使徒・・・」
静かに、自分の中に流れる偉大なる星の力を噛みしめるように。
「ドルフィンセイザー!」
溢れる波が打ち付ける飛沫のような光を弾けさせながら、夜宵は高らかに名乗りを上げたのだった。




