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Episode 84

 パトリックの立太子の儀は、私たちの婚約披露式からそう間を置かずに行われた。

 慣例では、立太子の儀には、この国の貴族は下級貴族まですべてが招かれ、他国からも王族クラスの貴賓を招いていたらしい。だけど、私たちの結婚式も控えているし、第二王子派や第三王子派の事件もあったから、必要最低限で、とのパトリックの提案が採用され、式典に参加したのは国王陛下とパトリックの他は、要職に就いている貴族たちのみ。式典後のパーティーも行われなかった。この国だけじゃなく、周辺国も今は色々大変な時期だから、式典やパーティーへの参加は大変だろうし、パトリックらしい配慮だと思う。

 それでも、新聞や掲示板などで国内には大々的にパトリックの立太子が知らされ、私たちの婚約から引き続いて、国中お祝いムードに包まれている。


「大々的に行っていたら、結婚式の準備にも支障が出るし、最短で行えなかったからな。周囲へ配慮しつつ、さっさと済ませるには、あれが最善だっただろう。余計な予算も使わずに済むし、一石二鳥どころじゃない」

 執務室の机の上に置かれたいくつかの新聞を眺めながら、パトリックが言った。一番上の新聞の一面には、パトリックが国王陛下の前に跪き、王太子の位を授ける旨が書かれた勅書を受け取っている写真が大きく載せられている。立太子の儀の時の写真だ。

「聡明で美しいうえに、周囲への配慮も素晴らしい、完璧な王太子殿下!って、どの新聞も大絶賛ですね」

 私はその一番上の新聞を手に取って、にっと笑った。

「さすが、イメージ戦略も完璧です」

「こっちには、国民は王太子と我が国一の才色兼備の令嬢との婚姻を心待ちにしている、って書かれてるぞ」

 パトリックが他の新聞をすっと私の前に差し出し、私の真似をするようににっと笑う。差し出された新聞には、婚約披露パーティーの時の、私とパトリックが並んでいる写真が載せられていた。私の笑顔が苦笑いに変わる。

「我が国一の才色兼備の令嬢ときましたか…。見た目は確かに、イライザは文句のつけようがない美女ですからね。ただ才の方は…頑張るしかないですね」

 王太子妃としてパトリックの足を引っ張ることがないように、目下妃教育に励んでいるけど、私より優秀な女性なんてたくさんいる。まだまだ足りないところだらけだ。それでも、イライザの美貌のおかげで才色兼備なんて言ってもらえるんだから、その評価が下がらないように頑張るしかない。

「今でも十分頑張っていると思うぞ。イライザを称賛する声はあちこちから聞く。だから、無理は絶対しないでくれ」

 パトリックが心配そうに頭をポンポンと撫でる。その手の大きさと温かさに安心する。これがあれば、どこまでも頑張れそうに思えちゃう。

「元社畜を舐めてもらったら困りますよ。私、まだまだやれますから!根性だけは負けない自信があるので!」

 思わずぐっと拳を握りしめた私に、パトリックがふっと笑って頷く。

「そうだな。並々ならぬ根性があることは、よく知ってる。前世からそれにずっと助けられてきたからな。だけど、心配くらいさせてくれ。その根性に甘えて、無理をさせすぎた自覚はあるんだ。今は一番近くで見守れるんだから、頑張りすぎにはストップかけさせてもらうからな」

「わぁ、素敵な上司に恵まれて、私は幸せ者ですね!」

 甘やかされることに未だに慣れなくて、思わず憎まれ口を叩いてしまった私に、パトリックがむっとした顔をした。

「もう上司じゃないだろ。最愛の婚約者って言えよ」

 反撃するようにキスされ、顔が熱くなる。不意打ちはやめてー!

「ご、ごめんなさい!最愛の婚約者様!反省してます!だから今はもうそのくらいで!」

 パトリックの執務室に二人でいるとはいえ、ドアの外には側近のイボンさんが控えているはず。近くに人がいると思うと、どうにも恥ずかしくて仕方ない。

「だめ。これはお仕置きが必要」

 抵抗むなしく、パトリックの柔らかい唇に、再び囚われたのだった。

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