↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
82/87

Episode 82

 パトリックへのプレゼントに呪いをかけた呪術師が息を引き取ったのは、取り調べの日の夕方だった。

 パトリックの執務室に報告に来たお父様によると、呪い返しは元の呪いの数倍強いものになるらしく、これほど短時間で死に至ってしまうのも、当然の結果らしかった。


「こちらの万年筆にかけられた呪いは綺麗に解呪できました。もうお使いいただいて問題ございませんよ」

 キリアンからのプレゼントの万年筆をお父様から受け取ったパトリックは、それを眺めながら小さく溜息を吐いた。

「キリアンは馬鹿じゃない。僕を亡き者にしてキリアンを王座に就かせたとして、マリヴェル侯爵の思い通りにはならなかったでしょうに。そんなことにも気づかず、こんな愚かな真似をするなんて」

「呪術師は命を落とし、自身も呪い返しに身体を蝕まれ、残る時間はあと僅か。家族も家門も責任に問われる。王太子殿下への殺人未遂となれば、家族にも重い罰が与えられるのは避けられないというのに…。欲に目がくらむと、そうした当然のことまで見えなくなってしまうということなのでしょうかね…」

 重い沈黙。第二王子派が処分されたのを見ていながら尚、パトリックの命を狙ったマリヴェル侯爵のことが信じられなかった。以前、王妃様に話を聞いた時には、第三王子のキリアンを王太子に、という勢力はそれほど強くないという話だったのに、どうしてこんなことをしたんだろう。

「マリヴェル侯爵家は、アスター帝国と縁があった。先代の姉がアスター帝国の前皇帝派貴族に嫁いでいて、前皇帝が廃位されたことでその家門も力を失い、困窮していたようだ。マリヴェル侯爵も援助をしていたようだが、十分ではなかったんだろう。キリアンを王太子に就け、我が国での勢力を伸ばして、アスター帝国の親族を呼び寄せるつもりだったのかもしれない。アスター帝国の呪術師とつながりがあったのも、その縁だろうな」


 そういうことだったのか。私はパトリックの言葉に溜息を漏らす。第二王子の王位継承権が剥奪されたことで、あとはパトリックさえいなくなれば、キリアンが王太子になれると考えたというわけね。だからといって、キリアンが王太子になったところで、その教育係だったマリヴェル侯爵家が、そこまで急に要職に取り立てられたり、権力を持てたりするわけじゃないはず。余程焦って周りが見えなくなっていたのか、予期していなかった第二王子派の失脚が、悪魔の誘惑になってしまったのか…。


「アスター帝国の親族というのも、困窮の原因は要職を外された後も以前と同じような生活を送っていたためのようですし、何故家族を道連れにしてまでこのような事を起こす必要があると判断したかは、どうにもわかりかねますな」

 お父様も力なく首を振った。家族を溺愛しているお父様から見たら、マリヴェル侯爵のしでかしたことは、とてつもなく愚かに見えるに違いない。お父様だけでなく、大抵の人はそう思うはずだけど。

「今回もウォーノック公爵のおかげで、呪いにも事前に気づくことができましたし、マリヴェル侯爵の背景を探るのも容易でした。いつも本当にありがとうございます」

 パトリックの言葉に、お父様はとんでもない、というように頭を下げた。

「パトリック殿下のお力になれることは私の誉れでございます故、礼など不要でございます。それに、パトリック殿下のお立場が盤石であることは、愛するイライザの幸せにもつながりますからな」

 お父様に優しい視線を向けられ、私は少しだけ気持ちが軽くなるような気がした。パトリックも同じだったんだろう。

「ありがとうございます」

と、もう一度言って、小さく微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。