Episode 81
翌朝。
マリヴェル侯爵と呪術師の取り調べは私が起きる前から始まっていたらしく、私が身支度を整えて朝食に向かう頃には、ほぼ終わっていると伝えられた。そんな早朝から取り調べをするようにパトリックは指示していなかったとは思うけど、臣下の人たちが空気を読んだんだろうな。この世界も社畜魂溢れる人がたくさんいるようだ。
「魔石に記録された証拠を突きつけられて、二人とも言い逃れはできなかった。罪を認めざるを得ない状態だったから、取り調べは順調だったよ。証拠を集めてくれたウォーノック公爵に感謝だな。――呪いをかけた呪術師は、呪い返しで既に起き上がれない状態だった。今日一日、もたないかもしれないな。人を死に至らしめる呪いをかけて、それが返ってきたんだから、無理もないが」
当然のように朝食を一緒に取ることになっていて、一緒に食事が用意された部屋に向かう途中、パトリックが言った。パトリックの表情は暗い。当然だ。
前世では人が亡くなりそうな姿を見るなんてこと、普通に生きていれば家族を看取る時くらいのものだった。まして、自分に殺意が向けられて、それをこちらが回避したために亡くなりそうになっている人の姿を目の当たりするなんて、考えられないシチュエーションだ。そんな状況に追い込まれたんだから、精神的にきついに決まっている。
「パトリック様は何も悪くありませんからね?人を呪い殺そうなんて、考えてそれを依頼した人も、そんな依頼を受けた人も悪いです。私は、パトリック様が無事でいてくれて、本当によかったと思っています」
そんなことはパトリックも重々承知だろうし、そんな正論とは別のところで精神的なダメージを負っているのは十分わかっているけど、言わずにはいられなかった。幸い私は、その呪術師の姿を見ないで済んだけれど、パトリックに関わる問題で人が亡くなるという事実は、私の胸にも重くのしかかっている。
「悪しき芽は残さず摘み取って、しっかり叩き潰すなんて言ってたが、実際にあんな姿を見せられると、なんとも表現しがたい感情になるよ。依頼主のマリヴェル侯爵も、身体が重く体調が悪いらしい。それも呪い返しの影響で、ゆっくり死に向かっていると聞いた。――なんでマリヴェル侯爵たちは、呪殺なんてしようと企んじゃったんだろうな。キリアンを王太子にしたいなら、別の方法だってあっただろうに」
パトリックが心の重しを吐き出すように呟いた。
この世界の概念は、ラブソニが中世のヨーロッパあたりをモデルにしているせいか、前世で私たちが生きていた時代よりも人の命が軽んじられているように思う。ゲームの中の話なら、それは他人事で、ただのストーリーで済ませてしまえたけど、私たちは今、そういう世界で生きている。これが現実なんだ。
「そういうところも、変えていけたらいいですよね…」
「そうだな。変えていかなきゃいけないな」
正直、朝食を食べる気分ではないけど、それでも私たちは未来の王太子と王太子妃としてやっていかなくちゃいけない。何か口に入れて、ちゃんと自分たちができることをしなくては。
「朝ごはんを食べましょう。国王陛下への報告書を作ったり、マリヴェル侯爵の家族の処遇を決めたりしなきゃいけませんよね?私もお手伝いします。婚約披露パーティーが終わって、準備に割いていた時間が空きましたから、補佐できますよ」
「ああ、助かる。早くこの件を収束させて、これからのことをしっかり考えていかないとな」
私たちはきゅっと手をつないで、朝食が用意された部屋のドアを開けた。




