Episode 78
国王陛下によるパトリック立太子の発表を受け、会場内は拍手と歓声に包まれた。パトリックの立太子は間近だという見方が大半だっただけに、特に動揺もなく、歓迎ムードに溢れているようだ。しかし、国王陛下の次の言葉に、会場はしんと静まりかえった。
「第二王子ルディの王位継承権は剥奪となった。国家の安寧を著しく損ねかねない行動があったためだ。また、それに関わった者たちも処分している。今後もこうした事案が発生した場合、同様に厳しく対処していく。皆心するように」
突然爵位剥奪、お家断絶となった貴族たちがいたことは、当然ほとんどの貴族が知っているはず。それが第二王子派と呼ばれる家々だったことも、きっと周知の事実だ。つまり、王太子の座をめぐって何かしらよからぬことを企んだ人たちが処分されたということ。今回第二王子派が消えてパトリックが立太子したことで、第三王子を王太子に担ぎ上げようとしていた人たちも、きっと諦めるはずだ。というか、そうなってほしい。まだ十二歳の第三王子キリアンは、何度か顔を合わせたことがあるけど、まだまだ少年といった感じでとっても可愛らしい。パトリックのことも尊敬していそうだったし、周りの大人たちに変な風に毒されてほしくないな、と思う。
国王陛下からの言葉は、会場内に緊張感を生んだ。その張り詰めた空気を、国王陛下が自ら破る。
「普段から国のため、民のために尽くしてくれている皆には、心より感謝している。これからも頼むぞ」
貴族たちは、国王陛下の言葉に胸に手を当てて耳を傾けた。
「近く、パトリック第一王子の立太子の儀を行う。追って日時は通達するが、皆その心づもりでいるように」
ざっと音がするほど、皆が揃って頭を下げた。国王陛下のこのカリスマ性はすごいな、と、改めて感じる。このポジションにゆくゆくはパトリックが就くんだな。すごい重圧だろうな。それでも、覚悟を決めてるんだもんな…。
私が変な感慨に耽っている間に、パーティーはお開きになった。
「今日はありがとうございました」
パトリックと二人、もう一度挨拶をして会場を後にする。
私のために用意してもらっている客間へと続く廊下を歩いていると、後ろからぱたぱたと足音が聞こえた。
「兄上!――パトリック兄様!」
振り返ると、大切そうにプレゼントの包みを抱えた第三王子のキリアンが駆け寄ってきた。
「お呼び止めしてすみません。どうしても自分でプレゼントを渡したくて…。お二人とも、ご婚約おめでとうございます!」
パトリックの落ち着いたダークブロンドよりも少しだけ明るい髪が、さらりと揺れる。瞳の色はパトリックと同じグリーンがかったアッシュ。第二王子のルディとは違い、明らかにパトリックと兄弟だな、とわかる美少年だ。子どもの頃のパトリックってこんな感じだったのかな?と思わず想像してしまう。
「キリアン、ありがとう」
パトリックは優しい微笑みを浮かべながら、キリアンからのプレゼントを受け取った。
「それから立太子も、おめでとうございます!パトリック兄様は、僕の憧れです!」
きらきらした瞳でパトリックを見上げるキリアンが眩しい。
「ありがとう。キリアンも、しっかり頑張るんだよ」
パトリックはキリアンの頭をぽんぽんと撫でた。いつも私にするやつとはちょっと違う、兄バージョンの頭ぽんぽんだ。
「はい!また今度、一緒に魔法の訓練をさせてください!それでは、これで失礼いたします」
キリアンは嬉しそうに、侍従とともに帰っていった。
「キリアン様、可愛いですね」
その後ろ姿を見送っていると、廊下の角からお父様がそっと姿を現した。
「パトリック殿下、少しお話があります。よろしいでしょうか?」
その表情から、緊張感が伝わってくる。何かあったんだ。パトリックも私も、すっと表情を引き締めた。




