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Episode 77

「本日は誠にありがとうございました」

 永遠に続くのではないかと思われた貴族の皆さんとの挨拶の列が、遂に途切れた。私は周りに悟られないよう息を殺しながら、ふぅーっと長い溜息を吐く。やっと…やっと終わった!!

 社畜OL時代の接待だって、これほど過酷なものはなかった。やり遂げた達成感で今すぐ生ビール片手にガッツポーズを決めたいくらいだ。第一王子の婚約者の公爵令嬢なんだから、できるわけないけど。イライザまだ未成年だし。

「座ろうか、イライザ」

 隣で同じように笑顔を貼り付けながら過酷な挨拶耐久を完走したパトリックが、私の手を取って座るように促してくれた。

「はい」

 その言葉を待っていたとばかりに、パトリックに続き椅子に座る。ああ、ハイヒールで長時間立ってたから、本当に足が限界。疲れが顔に出てしまっていないか心配だ。でも、パーティー終了まであと少し。頑張るんだ私。

 この後、国王陛下から、パトリックが正式に立太子することと、第二王子の王位継承権が剥奪されたことが発表される。そうしたら、このパーティーもお開きだ。


「ご苦労だった。二人とも、さすがの対応であったな」

 私たちの貴族の皆さんへの対応を見守っていた国王陛下が、労いの言葉をかけてくれた。とりあえず合格点はもらえたということで大丈夫かな。私はもうデフォルトになった公爵令嬢スマイルを、”対国王陛下用最上級に品があるバージョン”にレベルアップさせ、慎ましやかに頭を下げた。隣でパトリックが同じように最上級の品格を纏った笑顔で頭を下げる。

「ありがたきお言葉。感謝いたします」

「二人とも、頑張ったわね」

 王妃様もにこやかに労ってくれた。

「パトリック、この後の発表も頼んだぞ」

「はい。お任せください」

 パトリックの表情が再び引き締まる。つられて私もすっと背筋が伸びる思いがした。


 もともと第二王子派はごく少数で、大半の貴族はパトリックが王太子の座に就くことを指示していた。しかも、第二王子派は先日の騒動を機に一掃され、第三王子を推そうと目論んでいた人たちもその様子を見て態度を改めたようだと聞いている。だからパトリックの立太子に表立って不満を表わす貴族はいないはず。とはいえ、どうしても不安はある。何故なら、実はゲームでパトリックの立太子が発表された時、事件が起きていたからだ。


 ラブソニのパトリックルート。バッドエンドでは、パトリックの立太子発表の場で暗殺未遂事件が起きるのだ。アスター帝国との問題をクリアし、これで晴れてパトリックとアンジーが結ばれる…という局面の悲劇。パトリックは命を取り留めるものの、重大な後遺症が残り、失明してしまう。ヒロイン、アンジーの白魔法でも、その目の光を取り戻すことができず、やがて王太子の座には第二王子が就くことになり、パトリックとアンジーは、辺境の地で静養という名の幽閉生活を送ることになる――。それがパトリックルートのバッドエンドだ。

 

 ゲームではパトリックはイライザと婚約なんてしないし、第二王子はもうすでに王位継承権剥奪が決定している。しかも、アンジーとうまくいっても婚約披露パーティーで立太子が発表されることはなかったけど、アランルートのバッドエンドだった隣国のクーデターが起こったことを考えても、この場でパトリックが襲われないとは限らない。そもそも私たちはゲームのストーリーを逸脱しすぎている。何が起きてもおかしくないのだ。

 もちろんそれはパトリックも承知のうえで、いつまでもバッドエンドの不安を残したままにしたくない気持ちもあって、自分が早々に王太子になれるよう、国王陛下にプレゼンしたらしい。だから、警備には念には念を入れているはずだ。それに、お父様とアンドレも、秘密裏に黒魔法を使って警戒をしているらしいから、そう簡単に事件は起こらないだろうけど…。


 情けないことに、婚約披露パーティーのことにばかり気を取られていた私が、このバッドエンドが今回のパーティーに絡んでくるかもしれないと気づいたのは、ほんの数日前。自分の鈍さに呆然としたけど、当然パトリックはバッドエンドの事件が起こる可能性を考えて動いていたらしく、お父様とアンドレにも早々に協力を依頼していたと聞いて、さすがの根回しに驚いた。

 まあ、今のところ不穏な動きをしている人がいるという話は入ってきていないし、もう第二王子も退場済みなことを考えても、今回は何も起こらないよね?私は不安な気持ちを押し流すように、さっきもう一度イボンさんが運んできてくれたりんごジュースを飲んだ。

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