Episode 76
盛大な拍手に迎えられ、パトリックと並んでパーティー会場に入る。
拍手をしてくれている貴族たちのなかには、アンジーやリアム、メリッサやクリストファーなど、よく知る顔もちらほら見える。他国からの招待客のなかにはアランの姿もあった。
「皆、今日はよく集まってくれた。これより第一王子パトリックとウォーノック公爵令嬢イライザの婚約披露パーティーを始める」
国王陛下の宣言を受け、一際拍手が大きくなった。私はパトリックに手を取られ、ホールの真ん中に進む。ダンスを披露するのだ。
緊張し過ぎて息苦しい。打ち合わせ通りの位置に立ち、パトリックを見上げると、優しい眼差しと視線がぶつかる。あ、この目。お前ならできる、大丈夫だ、と語りかけてくるこの眼差しには、見覚えがあった。
前世、大切なプレゼンの前に、背中を押してくれた眼差し。
「準備は万全だろう。俺もチェックしたんだから大丈夫だ。存分に力を発揮してこい」
無表情でぶっきらぼうだったのに、見守っていてくれるだけで圧倒的に心強かった沢渡部長。
「さあイライザ、用意はいいか?」
小声で問いかけられ、私は頷いた。自然に口角が上がる。大丈夫、できる。この人と一緒なら。
パトリックが楽団に視線を送ると、優雅なワルツが奏でられ始める。音に合わせ、私たちは一歩を踏み出した――。
最後のステップを踏み終えて、私たちは向かい合ったままお辞儀をした。まだ心臓がばくばくと大きな音を立てている。無我夢中だったけど、大きなミスはなかったはず…。
顔を上げた瞬間、ホール中から割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「素晴らしいダンスでした!」
「なんて優雅で美しいダンスでしょう!」
称賛の声も溢れ、私はほっと胸をなで下ろした。
「さすがだな。完璧だったぞ」
パトリックも頷き、私の指先にキスをした。一際歓声が大きくなり、耳が熱くなる。
「パトリック様のリードのおかげです。ありがとうございました」
気持ちを落ち着けるように胸に手を当て、パトリックに微笑む。それから私たちは拍手をしてくれている人たちに向けて、お辞儀をした。私たちのお辞儀を合図に、他のカップルたちもホールの中央に向かって広がり、ダンスのスタンバイを始める。ここからは皆が自由に踊り始めるのだ。
「では、もう一曲、お相手願えますか?」
パトリックの言葉に、私も笑顔で応える。
「ええ、喜んで」
演奏に合わせて、私たちはまたステップを踏み始めた。
無事に二曲踊り終え、私たちは用意されていた壇上の席に向かった。同じく壇上に用意された席についていた国王陛下と王妃様に挨拶をする。
「皆の心を掴む、いいダンスだった」
「二人とも、とても素敵だったわ」
二人からもお褒めの言葉をいただき、安心感がどっと押し寄せた。
「ありがとうございます」
席につくと、すぐにイボンさんが飲み物を差し出してくれた。国王陛下たちにグラスを掲げて挨拶すると、グラスに口をつける。飲み物はよく冷えたりんごジュースだった。緊張でからからだった喉に冷たいジュースが染み渡り、やっと呼吸ができたような心地がする。ちらりと隣のパトリックを見上げると、パトリックもやはり同じように少しほっとした表情を浮かべ、私を見下ろしていた。
「さあ、ここからは挨拶の時間だぞ」
そう、貴族の皆さんが次々とお祝いの挨拶をしに来てくれるのだ。このために貴族の皆さんの名前と顔、領地の特色など、死に物狂いで頭に叩き込んだんだもの。今こそ再び勝負の時だ。
「はい。頑張ります」
私は小声で返事をしながら、もう一度自分のスイッチを入れ直した。




