Episode 73
第二王子派の断罪は速やかに行われた。
ドルレアック侯爵はじめ、私の襲撃や不正に関わった貴族たちは、全員爵位を剥奪され、罪を犯した貴族が収容される監獄に収監された。監獄では、敷地内にある農地で労働が課せられる。警備の厳重さで知られていて、これまで収監された人は誰一人として外に出られたことがないというその監獄で、死ぬまで働かなくてはならない。貴族として生まれ育ち、これまで肉体労働なんてしたことがなかった人たちにすれば、屈辱的で重い刑といえるのかもしれない。
その奥さんや子どもたちも、修道院や聖堂に送られたそうだ。家族の罪を何も知らなかったでは済まされないのが、この世界の貴族だ。家全体が、その罪を背負うことになる。聖堂に送られた子どもたちには、王家を逆恨みすることがないよう、親たちが犯した罪を説き、厳しい教育が施されると聞いている。甘えが許されない厳しい環境らしいけど、公平で質素倹約を旨とした清潔感のある施設だと聞いている。しっかり学びながら、どうかまっすぐ育ってほしいと願わずにいられない。
そして第二王子は、国王陛下の言葉通り、王位継承権が剥奪され、留学の準備が整うまで謹慎中だ。襲撃事件の後、パトリックと一緒に一度だけ第二王子に会ったけど、パトリックの顔を見るなり震え上がっていたから、余程パトリックから厳しく詰められたんだろうな…。何度も「ごめんなさい」と謝る姿は、ただの十六歳の男の子といった感じで、私はその謝罪を受け入れた。パトリックから十分絞られただろうし、私に対する態度も以前とはまったく違っていたから、私からは何も言わなかった。第二王子も、ネメシア王国で頑張ってやり直してくれるといいな、と思う。
第二王子派が一掃されたことで、婚約披露パーティーの招待客にも変更が出たけど、他にはそれほど大きなトラブルもなく、いよいよパーティーは明日に迫っていた。
「明日は早朝から準備があるから、今夜は王城に泊まるんだよね?」
最終打ち合わせが終わった後、パトリックが耳元で囁いた。いつものいい香りとともにふっと息が耳にかかり、思わず身体がびくっと震える。何故わざわざ耳元で…!絶対に私を驚かせようとしてるでしょ!私は周りの人たちに動揺を悟られないよう、なんとか公爵令嬢スマイルを浮かべた。どうだ、最近の妃教育のおかげで、令嬢擬態もかなり完璧に近づいてきたでしょ?
「はい。いつもの客間を用意していただいております。パトリック様のお時間が許せば、夕食をご一緒に、とうかがっておりますが、ご都合はいかがでしょうか?」
周りにいる人たちが、私の笑顔にほおっと見蕩れたのがわかる。完璧な美貌と品格を持つイライザだもの。見蕩れるのも当然だよね。最近はやっと、これが今の私なんだと実感できるようになってきたとはいえ、どれだけ慣れても鏡を見る度に私自身うっとりしちゃうもん。
そんなイライザに負けじと、パトリックがきらきら王子様スマイルを炸裂させる。
「もちろん、夕食はイライザと一緒に取るよ。そのために一生懸命仕事を終わらせたんだ。せっかくのイライザとの時間だからね」
さすが乙女ゲーの攻略対象。きらきらの度合いが悪役令嬢のそれとは段違いで、私は心の中のシャッターを連射した。圧倒的美貌。推しの笑顔が今日も優勝してる。そして私の好きな笑い方や顔の角度を熟知している中の人あざとい…!
「嬉しいですわ。私も楽しみにしておりますね」
私もちゃんと優雅に見えているかな。あまりにパトリックが完璧だから、時々どうしても不安になる。
「この後夕食の時間まで、僕は少し空きができたんだけど、イライザはどう?もしも時間が取れるなら、一緒に庭園を散歩しない?」
私の顔をじっと見つめていたパトリックが言った。
「ええ、私も夕食までは時間が空いております」
今日の分の妃教育は終わっているし、明日の準備もさっきの打ち合わせで完了だ。あとは夕食後、お風呂に入ってお肌や髪のメンテナンスをしてもらうだけ。だからこの時間は、ちょっとだけゆっくりできそうかな、と思っていたんだった。パトリックも時間ができたなんて、余程今日の公務をハイスピードで終わらせたんだろうな。急だけど一緒にいられる時間が増えて嬉しい。
「よし、じゃあ行こう」
差し出された手を取り、私たちは庭園に向かった。




