Episode 72
「ルディにもお前と同じように、私なりに愛情を注いでいたつもりだったのだがな…」
そう呟いた国王陛下の顔は、苦しさと悲しさに翳っていた。
「国王となる兄パトリックを支え、ともに民の幸せと国の発展のために尽くしてくれることを期待していたが…。先代ドルレアック侯爵は見識が広く、優秀な人物だったため彼の家にルディの教育係を任せたが、現当主はその気質を受け継がなかったのだな。当主交代の際、よく調査して教育係を再選定すべきだった」
多忙な国王陛下や王妃様が、王子たちの状況に細やかに気を配れないのは仕方ないことだと思う。それでも、もっとできることがあったのでは、と悔やむ気持ちは、父親としてどうしても抱いてしまうものなんだろう。
だけど、もしもパトリックの教育係がドルレアック侯爵だったとしても、パトリックは彼の思い通りにはならなかったんじゃないかな。第二王子はある意味、素直すぎたのかもしれない。周りの言葉を、そのまま受け入れてしまった。でも、グザヴィエ先生みたいに、きちんと彼に意見をしてくれる人だっていたはずなのに、それに耳を傾けられなかったのは、彼が自分を気持ちよくしてくれる言葉にだけ甘えてきたせいだと思う。
「国王陛下、私は広い視野を持ち、様々な意見に耳を傾け、自分を省みることができる人間になりたいと思います。そうなれるよう、全力を尽くします」
国王陛下に向けて宣言するようなパトリックの言葉に、私ははっとパトリックを見つめた。きっと私と同じようなことを、パトリックも考えていたんだろう。自分を気持ちよくしてくれる言葉に囲まれた世界は、居心地がいい。だけど、そこに浸ってしまったら、成長はないと思う。
「うむ、頼んだぞパトリック」
国王陛下は、少しだけ微笑んだ。
「――ルディの王位継承権を剥奪する。さらに単身ネメシア王国に留学させ、学び直させるとしよう。周囲の甘言に惑わされない、強い精神力を身につけさせねばなるまい」
クーデターがあったばかりのネメシア王国は、現在アランが懸命に立て直しを図っているところだ。治安はまだ安定しているとはいえないけど、教育面にも力を入れ始めていて、身分を問わず広く門戸を開いた学校を作ったと聞いている。単身での留学は相当な試練ではあるけど、様々な身分の学生たちのなかで、自分で考えて動く力が身につく貴重な機会だ。ここで踏ん張って乗り越えることができたなら、ネメシア王国への留学はきっと第二王子を大きく成長させるだろう。もちろん、乗り越えられず潰れてしまう可能性だってある。国王陛下はそれも当然承知のうえで、第二王子に試練を与えるんだろうな。
「そなたたちの婚約披露パーティーでは、パトリックを王太子とする発表を行うと同時に、ルディの王位継承権剥奪についても発表させてもらう。祝いの場を借りることになってしまうが、パトリックの地位を盤石とする意味でも、そこで発表するのが最善であると判断した」
「承知いたしました」
国王の言葉に、パトリックが頷く。重責を背負った覚悟の表情だ。王太子の座に就くことが発表されれば、もう後には引けない。私もきゅっと背筋を伸ばす。王太子になるパトリックとの婚約披露、つまり、私は王太子妃になると発表されるのと同義だ。私だって覚悟を決めたつもりだったけど、改めて身が引きしまる。頑張らないと。パトリックの評価を絶対的なものにするために、パーティーは絶対に成功させなきゃいけない。
国王陛下とパトリックのやり取りを見ながら、私は今一度静かに決意を固めた。




