Episode 70
「襲撃者は一人残らず拘束した。全員、自害できないように身体の自由を奪う魔法をかけている。素直に誰が指示したかを吐かなければ自白魔法を使うから、真実が明るみになるのは時間の問題だろう」
パトリックはぎゅっと眉間に皺を寄せた。厳しい顔も見蕩れるほど綺麗だ。
「――やっぱり、第二王子派の仕業でしょうか?」
ついついパトリックの美貌に見蕩れて次元の狭間に落ちかけたけど、私はなんとか踏みとどまった。こんな状況でも心を奪われてしまいそうになるなんて、推しの美貌に恐ろしさすら感じる。
「十中八九そうだろうな。第二王子がイライザの前に現れた後からすぐ、第二王子の教育係を務めていたドルレアック侯爵の周囲を監視させていたんだが、数日前に侯爵の家の使いが暗殺も請け負うと噂の裏家業の連中と接触したとの連絡があった。連絡を受けてイライザの周りの警備も強化していたんだが…。今朝、ウォーノック公爵とアンドレに緊急の連絡が入って東の砦に出向くことになったのも、おそらく奴らの計画だったんだと思う。イライザに怪我をさせてしまい、申し訳なかった」
またパトリックがネガティブ沼に落ちる気配を察知して、私はパトリックの手を取った。
「ちゃんと護衛の方々とパトリックが守ってくださったおかげで、私は無事です。ありがとうございました。あ!護衛の方々や騎士団の方々は、皆さんご無事ですか?」
先手を打った私の気持ちが伝わったらしく、パトリックは自嘲気味に少し笑った。私を安心させるように、頭をぽんぽんと優しく撫でる。いつもの、安心できる大きな手。
「皆無事だ。怪我をした者も、軽傷だと先程報告があった」
私が足を洗ってもらったり、着替えたりしている間に、きっとパトリックは報告を受けたり指示を出したりに動いていたんだろう。
「よかった。皆さんお強いのはわかっていたんですけど、壊れた馬車の破片が広範囲に飛んできたのが、気に掛かっていたので」
気がかりがひとつ解消されて、私はほっとした。
「それで…第二王子派は、これで一掃できそうですか?」
私の質問に、パトリックはぎゅっと私の手を握り返し、いつもの沢渡部長味がかったブラックな笑顔を見せる。この笑顔は、大いに手応えがあったということだろう。ようやく調子が出てきたようで何よりだ。
「もちろん、ここですべて叩き潰すさ。証拠は十分揃っているし、襲撃者たちの自供も取れる。ドルレアック侯爵をはじめとした第二王子派が、これまで働いてきた不正の証拠だって掴んでいるからな。邪な考えを起こした罪は、きっちり償わせる。なにより、俺のイライザを傷つけたんだ。とことん追い込んで、再起不能にしてやらないと気が済まない」
わあ、いい笑顔。ドルレアック侯爵も、そそのかされちゃった第二王子も、一番敵に回しちゃいけない人を敵に回したなー。まあ、自業自得だから同情なんて全然しないけど。パトリックを脅かす存在は、私だって許せない。
「あわよくば第三王子を担ぎだそうなんて考えてた人たちが、絶対にそんな気を起こせなくなるように、第二王子派の人たちにはしっかり罰を受けてもらいましょうね」
私もにっこりと微笑んだ。我ながら悪役令嬢味溢れる笑顔なんじゃないかと思う。一緒にいるから、だんだん似てきたのかもしれないな。パトリック…いや…沢渡部長に。
「ここで綺麗事を言わない大城…イライザが好きだよ。完膚なきまでに叩き潰すから、しっかり見ててくれ」
「ええ、しっかり見届けますよ。何か私にもできることがあれば、いつでも言ってくださいね」
「ああ。襲撃時の証言をしてもらうことになるかもしれない。その時は頼む。――だが、怖い思いをしただろうから、無理はしないでほしい」
「無理はしませんよ。でも、私は悪いことをした人たちを広い心で許すなんて聖女様みたいな人間じゃないので、きっちり報いを受けてもらいたいんです。今後一切、パトリック様の周りで不埒な考えを抱く人間が出てこないように」
私たちは二人で黒みがかった笑顔を浮かべ、そんなお互いの顔を見合いながら、今度はふっと力が抜けた笑顔で笑い合った。




