↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/49

「“もう少し頼ってほしい”と言われた日」

第三十話

 六月のはじまり。

 梅雨入り前の丸亀は、蒸し暑さと初夏の陽気が入り混じる日が続いていた。


 管理課の一角で、久保あかりは黙々とパソコンと備品棚を行き来していた。

 発注、在庫確認、報告資料、現場への回答、メール整理――。


「久保さん、今週ほんとよく動いてくれてるよね」


 佐伯さんのそんな一言に、久保は小さく笑って「いえいえ、大丈夫です」と返す。

 その言葉に嘘はなかった。けれど――“本当に全部、自分で抱えていて平気なのか”は、少しだけ曖昧だった。


⸻


◆ 午後/八木原の気づき


 「ちょっと、久保さん忙しすぎじゃない?」


 ふとしたタイミングで、八木原は藤巻課長にそう呟いた。


「うん、見てて思う。たぶん、頑張りすぎてる」


「自分からあまり“手伝ってください”って言わないですよね」


「責任感が強いんだろうな。でも、頑張りすぎは続かない。

 そのうち、パンクする」


 その言葉に、八木原はどこか、自分の新人時代を重ねていた。


⸻


◆ 翌日/ひとつの言葉


 書類をまとめていた久保に、八木原が声をかけた。


「これ、俺やるよ。久保さん、他にも案件抱えてるでしょ?」


「いえ、まだ時間ありますし――」


「……もう少し、頼ってもらえるとうれしい」


 その言葉は、柔らかかったけれど、まっすぐだった。


 久保は、少しだけ目を見開いた。


「……すみません、気を使わせてたんですね」


「ううん、そうじゃなくて。“チーム”だから。誰かが無理してたら、それってもうチームじゃないから」


⸻


◆ 休憩室での独りごと


 給湯室でコーヒーを入れながら、久保は小さくつぶやいた。


「“頑張る”って、どこまでが自分のためで、どこからが自己満足なんだろう……」


 でも、それは決してネガティブな問いではなかった。

 “誰かに頼る”ことを、自分の弱さではなく、“信頼の形”と受け止める準備が、心の中で少しずつ育っていた。


⸻


◆ 夜/寮で開いたメモ帳


・頼ることは、負担を押しつけることじゃない。“相手を信じる”ことでもある

・「大丈夫です」って言いすぎると、“助けたい”人の気持ちも見えなくなる

・“全部自分でやらないと信頼されない”は、たぶん思い込み


 久保あかりは、仕事を覚えてきたからこそ、“手放すこと”の大切さにも気づき始めていた。


⸻


◆ 翌週/ひとつの共有作業


 発注リストの作成を、久保が八木原と一緒に行う。

 「このあたり、まだ自信ないので教えてください」と、はじめて素直に言えた日。


「ここ、気づいてるだけで十分すごいよ」と八木原が言うと、久保は照れたように笑った。


 それは、“頑張りすぎない”強さを手に入れつつある笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。