「“もう少し頼ってほしい”と言われた日」
第三十話
六月のはじまり。
梅雨入り前の丸亀は、蒸し暑さと初夏の陽気が入り混じる日が続いていた。
管理課の一角で、久保あかりは黙々とパソコンと備品棚を行き来していた。
発注、在庫確認、報告資料、現場への回答、メール整理――。
「久保さん、今週ほんとよく動いてくれてるよね」
佐伯さんのそんな一言に、久保は小さく笑って「いえいえ、大丈夫です」と返す。
その言葉に嘘はなかった。けれど――“本当に全部、自分で抱えていて平気なのか”は、少しだけ曖昧だった。
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◆ 午後/八木原の気づき
「ちょっと、久保さん忙しすぎじゃない?」
ふとしたタイミングで、八木原は藤巻課長にそう呟いた。
「うん、見てて思う。たぶん、頑張りすぎてる」
「自分からあまり“手伝ってください”って言わないですよね」
「責任感が強いんだろうな。でも、頑張りすぎは続かない。
そのうち、パンクする」
その言葉に、八木原はどこか、自分の新人時代を重ねていた。
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◆ 翌日/ひとつの言葉
書類をまとめていた久保に、八木原が声をかけた。
「これ、俺やるよ。久保さん、他にも案件抱えてるでしょ?」
「いえ、まだ時間ありますし――」
「……もう少し、頼ってもらえるとうれしい」
その言葉は、柔らかかったけれど、まっすぐだった。
久保は、少しだけ目を見開いた。
「……すみません、気を使わせてたんですね」
「ううん、そうじゃなくて。“チーム”だから。誰かが無理してたら、それってもうチームじゃないから」
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◆ 休憩室での独りごと
給湯室でコーヒーを入れながら、久保は小さくつぶやいた。
「“頑張る”って、どこまでが自分のためで、どこからが自己満足なんだろう……」
でも、それは決してネガティブな問いではなかった。
“誰かに頼る”ことを、自分の弱さではなく、“信頼の形”と受け止める準備が、心の中で少しずつ育っていた。
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◆ 夜/寮で開いたメモ帳
・頼ることは、負担を押しつけることじゃない。“相手を信じる”ことでもある
・「大丈夫です」って言いすぎると、“助けたい”人の気持ちも見えなくなる
・“全部自分でやらないと信頼されない”は、たぶん思い込み
久保あかりは、仕事を覚えてきたからこそ、“手放すこと”の大切さにも気づき始めていた。
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◆ 翌週/ひとつの共有作業
発注リストの作成を、久保が八木原と一緒に行う。
「このあたり、まだ自信ないので教えてください」と、はじめて素直に言えた日。
「ここ、気づいてるだけで十分すごいよ」と八木原が言うと、久保は照れたように笑った。
それは、“頑張りすぎない”強さを手に入れつつある笑顔だった。




