「“職場の飲み会”、行くべき?断るべき?」
第二十九話
五月中旬。
丸亀の夕暮れは、少しずつ夏の匂いを帯びはじめていた。
管理課にまわってきた社内メールには、件名に「歓迎会のお知らせ」と書かれていた。
内容は、新人・久保あかりと異動者2名の歓迎を兼ねた飲み会。
来週金曜日の夜、市内の居酒屋で開催予定――とのことだった。
「……飲み会、かぁ」
久保は、パソコンの画面を見ながらつぶやいた。
八木原も横目でメールを確認しつつ、「来たね」と笑った。
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◆ 昼休み/微妙な気持ち
食堂の一角で、久保がぽつりと打ち明ける。
「歓迎会……すごくありがたいとは思うんですけど、正直、行くべきなのか、ちょっと悩んでます」
「うん、わかる。俺も最初の頃、そうだった」
「“出たくないわけじゃないけど、気を使いすぎて疲れる”というか……。
それでいて、“断ったら印象悪いかな”とか、いろいろ考えちゃって」
八木原は、口元をおにぎりでふさぎながら頷いた。
「“参加=善”みたいな空気、まだあるもんね。特に地方だと」
「でも、みんなが仲良くなるのは大事だし、歓迎してもらってるのに……って思っちゃって」
「うん。でもね、“無理してまで行くことが歓迎されてる”とは限らないよ」
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◆ 午後/藤巻課長のやさしさ
そんな久保の様子を察したのか、藤巻課長がふいに声をかけた。
「飲み会、強制じゃないからね。無理に気にしなくていいよ。
来たい時に来ればいいし、疲れてるならゆっくり休めばいい」
その一言に、久保は目を丸くした。
「……ありがとうございます。ほんとにそう言っていただけると、ちょっと気が楽になります」
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◆ 夕方/八木原の選択
「俺も、昔は“絶対に行かないといけないもの”だと思ってた」
仕事帰り、ロッカーで着替えながら八木原は言った。
「でも、ある時気づいたんだ。“自分の心に余裕がある時に参加する”って、すごく大事だなって」
「余裕、ですか……」
「そう。余裕がないのに行くと、ただ疲れて、帰ってきてさらに自己嫌悪になる」
「それ、わかります」
久保は、少し笑った。
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◆ 夜/寮のベッドで考える
・“誘われたから行く”じゃなく、“今の自分にとって行くことがプラスか”で考えていい
・“参加=善”じゃない。“自分を大事にできる選択”が善
・迷うなら、“半分だけ行く”とか、“行くけど一杯で帰る”って手もある
久保はふと、自分の中で答えが固まっていくのを感じた。
誰かに合わせるのではなく、“自分にちゃんと聞いてみる”。
それが、社会人になって学び始めた大切なことのひとつだった。
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◆ 飲み会当日/居酒屋にて
久保は「顔だけ出そう」と思い、勇気を出して参加した。
開始から1時間、笑顔で話しながらも、気疲れのサインが出てきたタイミングで、そっと席を立った。
「ちょっと早めに失礼します。ありがとうございました」
それに対して誰も責めることはなかった。
むしろ、「来てくれてありがとう」「無理しないでね」と笑顔で見送られた。
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◆ 翌朝/管理課にて
「昨日、参加してくれてありがとうね」
課長の言葉に、久保は自然と「行ってよかったです」と答えられた。
“正解”を求めていたけれど、きっと“自分で選んだこと”が、そのまま正解だった。




