「設備トラブル発生!八木原、はじめての現場緊急対応」
第二十二話
1月中旬の朝。
冷え込んだ空気が工場の隅々にまで染みわたり、吐く息が白く浮かぶ。
八木原は、ホッカイロをポケットにしのばせて出社した。
“冬は事務仕事が多い”という油断から、いつものようにメールをチェックしようとした瞬間だった。
――内線電話がけたたましく鳴る。
「……はい、管理課です。えっ、空調が……? エラー?」
声の主は製造部の中原係長だった。
「すみません、Cラインの空調が止まってて。室温が10度下回ってて、作業環境がやばいんです! これ、今日中になんとかならないっすかね……」
八木原はメモを片手に立ち上がった。
年始からのんびりムードが一転、“現場緊急対応”という未体験ゾーンに突入した瞬間だった。
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◆ 午前8時30分/C棟製造ライン現場
現場に着くと、製造スタッフたちが防寒着姿で肩をすぼめていた。
工場内の空気が白く霞んでいるのは、単に冬だからではなかった。
八木原は、空調設備の表示パネルを確認し、業者への電話を繋ぐ。
「……はい。現在の室温、9.6度です。点滅は“E07”。はい、モーター異常……ええ、はい……」
専門用語が飛び交いながらも、ひとつずつ情報を確認していく。
こういうときに限って、課長の藤巻は外出中。大島さんも打合せで不在。
(俺が、やるしかない)
そう思えたのは、以前の自分とは違っていた証かもしれない。
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◆ 午前9時40分/管理課に戻って調整
「午前中は予備ヒーターで急場を凌いでもらって、午後には業者が来れるそうです」
現場の中原係長にそう伝え、調整のメールを社内一斉に送る。
各部門のリーダーたちにも簡単な報告書をつけた。
プリンタの音、キーボードの音、外の風の音――
どれも緊張を含んでいたが、八木原の手元は落ち着いていた。
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◆ 午後1時/空調業者到着・立会い
「よし、これでだいたい復旧できます。完全修理は部品取り寄せになりますけど、今日は問題ないはずです」
現場で業者が笑顔で答えたとき、八木原はホッと肩の力を抜いた。
中原係長が軽く頭を下げてくれる。
「ほんと助かりました。八木原さん、ちゃんと“現場対応できる人”だったんですね」
「……いや、必死でしたけど」
でもその言葉が、妙にうれしかった。
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◆ 午後5時過ぎ/事務所でひと息
佐伯さんが戻ってきたとき、すでに対応はすべて終わっていた。
「なんか……ひとつ壁、超えましたね」
「……かもしれません」
「“現場を支える側”って、意外と泥くさいけど、一番“人に近い仕事”だと思うんです」
佐伯さんの言葉が、胸に染みた。
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◆ 夜/寮の部屋、いつもの机
・トラブルは、自分の成長を映す鏡
・“やったことがない”ことも、やると“できたこと”に変わる
・“誰かの役に立てた”実感は、なによりの報酬だ
現場の寒さ、緊張した電話、無線越しのやりとり。
全部が、いまの八木原を少しだけ変えてくれた気がした。
あったかい味噌汁をすすりながら、ふとつぶやく。
「……次はもっと、スマートにいきたいな」
でも、少し泥くさいくらいが、“らしい”のかもしれない。




