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「年明け、管理課にまさかの“あの人”が!」

第二十一話

 丸亀にも新しい年がやってきた。

 1月5日。年始初出勤日。


 管理課の朝はゆるやかに始まる。

 ストーブの前には佐伯さんがいて、ミカンの皮を器用にむいている。大島さんは年賀状に描かれた干支のイラストを見て「なんか今年の龍、犬っぽくない?」と笑っている。


 八木原も、ストーブで温めた紙コップのコーヒーを片手に、自分のデスクで年末調整のデータを片付けながら、年明けらしい緩さを味わっていた。


「……平和だなあ」


 去年の今ごろは、まだ“管理課”という言葉すらピンときていなかったのに。

 人はこんなにも馴染むのだ、と妙に感心していたそのとき――


 コンコン

 控えめなノックの音が、課の空気をふわりと変えた。


⸻


◆ 午前10時20分/再会


「失礼します。あれ、八木原?」


 聞き覚えのある声に、八木原はハッとして振り返る。


「……永田課長!?」


 現れたのは、本社人事課の永田健二課長。

 スーツにコート、そして都心でしか見かけない革の名刺入れ。

 数ヶ月前、「本社に戻らないか」という打診メールをくれた、あの人物だった。


「いやぁ、出張で香川に来たから、ついでに立ち寄ってみたんだよ。元気そうでなによりだ」


 八木原は応接スペースに永田を案内し、温かいお茶を淹れる。

 つい背筋が伸び、言葉がぎこちなくなるのは、“過去を知る人”ゆえの緊張だ。


⸻


◆ 午前10時30分/問い


「この工場、ずいぶん広いな。どうだ、こっちの生活は」


「最初は大変でしたけど……今はもう、だいぶ慣れました」


「そうか。いやね、実はまた異動の話が出ててね。今春からまた体制が変わるかもって話で。八木原の名前も、ちらっと挙がってたよ」


 永田は湯呑みを手に、柔らかい口調で切り出した。


 八木原は、一瞬だけ言葉に詰まった。


「でも、今はここでもう少しやっていきたいです」


「理由、聞いてもいい?」


「……明確な理由ってわけじゃないんですけど」


 言葉を選びながら、それでも真っ直ぐに続けた。


「ここに来て、自分の“できること”がやっと見えてきたというか。誰かの役に立ててる実感があって。それが……うれしいんです」


 自分でも驚くほど、自然に口から出たその言葉に、八木原は内心で驚いていた。

 でも、だからこそわかった。この1年で、“仕事”への向き合い方が確かに変わっていた。


⸻


◆ 午前11時過ぎ/小さな贈り物


「そっか。それなら、無理には言わない。

 ただ、お前が“戻りたい”と思ったときは、いつでも声をかけてくれよ」


 そう言って永田は席を立った。


 別れ際、ふと彼がポケットから小さな紙袋を差し出した。


「お年賀代わり。東京土産だ。“ひよこ”じゃ芸がないから、“芋ようかん”にしといた」


「……ありがとうございます」


 東京駅で買ったその和菓子は、なぜか懐かしくて、少しだけ胸が熱くなった。


⸻


◆ 昼休み/ちょっと特別なうどん


 永田が帰ったあと、八木原はひとりで『たまや』に向かった。

 いつもの「冷ぶっかけ」に、今日はちょっとだけ奮発して「とり天」を追加。


(いまの俺は、もう“本社に戻りたい人間”じゃないんだな)


 そう思えたことが、なによりも大きな変化だった。


⸻


◆ 夜/寮の部屋で、思い返す


・昔の誰かに会うと、自分の変化がよくわかる

・場所を変えたからこそ、見えたものがある

・いま、自分で“ここにいたい”と思えていること。それが答えだ


 画面のフォルダには、去年の自分が作った稚拙なファイルが残っていた。

 でも、それを笑えるくらいには、今の自分は少しだけ前に進んでいた。


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