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「年末調整と忘年会、管理課の師走は忙しい」

第二十話

 12月。

 丸亀にも本格的な冬が訪れ、工場の朝礼場には吐く息が白く浮かぶようになった。

 管理課にとって、この季節は静かに、しかし確実に忙しい。


「年末調整、まだ提出してない人が15人……!?」


 朝のメールチェックを終えた八木原は、思わずつぶやいた。

 去年も似たような騒ぎがあったことを思い出し、内心「風物詩か」と自嘲する。


 佐伯さんがとなりで苦笑しながらファイルを開く。


「この季節になると、保険料控除証明書が“なくしました”って人、急に増えますよね」


「あと、配偶者の所得の記入欄、みんなだいたい空欄です」


「もうそれ、年末調整あるあるで一本書けるかも」


 バタバタと書類の確認をしながらも、会話にはどこか笑いがある。

 管理課の年末は、慌ただしくもどこかあたたかい。


⸻


 午後、藤巻課長が“いかにも軽やか”な口調で八木原に声をかけた。


「忘年会、幹事やってもらえる? あ、店の予約も。あと司会も」


「え、ええ……?」


「頼れる若手、ここにありってやつだな」


 八木原は思わず天井を見上げたが、断る理由もない。

 資料仕事の合間に検索エンジンを開いて、「丸亀 忘年会 飲み放題 鍋付き」などと打ち込む。


「鍋がいいなー」とつぶやく佐伯さんの声に、なんとなく「じゃあそれで」と決めてしまうあたり、もう“支社暮らし”に染まってきた自分がいた。


⸻


 数日後、ついに忘年会当日がやってきた。

 会場は丸亀駅から徒歩5分、小さな木造の居酒屋『花ほたる』。

 入り口には提灯が揺れていて、ちょっと昭和っぽい雰囲気が八木原は気に入った。


「かんぱーい!」


 管理課の少人数な宴は、静かだけれど和やかに始まった。

 鍋からは湯気が立ち、鍋奉行・佐伯さんの厳しい指導が飛び交う。


「しいたけは煮えすぎる前に取ってください!」


「……すみません」


「八木原くん、最初ここ来たとき、ずっと無言だったよね」


「そうですね……何話していいかもわからなかったです」


「でも、いまや“なんでも屋さん”ですよ。管理課の窓口って感じ」


 そんな会話に、八木原はちょっと照れながらも笑った。

 この1年で築かれた関係性が、そこにちゃんとあった。


⸻


 忘年会の帰り道。

 駅前通りにはイルミネーションが点っていて、飲み帰りのサラリーマンがぽつぽつ歩いている。

 夜風は冷たいが、鍋の温もりがまだ体に残っていた。


 八木原はふと、スマホのカレンダーを見た。

 今年最初のページには「異動」「転属」「引継ぎ」――そんな言葉が並んでいた。

 不安と焦りのなか、走りながら過ごした日々だった。


 でもいま、その下に「忘年会 幹事」なんて予定がある。

 ここでの自分が、ちゃんと“存在してる”証拠だった。


⸻


 寮の自室に戻ると、パソコンの画面には、送信済みの年末調整データのフォルダ。

 件数はぴったり、予定通り終わっていた。


 肩をほぐし、深呼吸。

 そして、毛布をかぶってつぶやいた。


「……まあ、来年もやれる気がするな」


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