第27話 私と旦那様の結婚初夜のやり直し
王宮から帰ったあと私はセドリック様にアマンダ様に謝られたことをお伝えしたのですが、セドリック様からは話はそれだけだったのかと追究されてしまいました。
話の内容が気になるというセドリック様のお気持ちはわかります。反対の立場だったなら、私も間違いなく気になりますから。
アマンダ様のお気持ちを勝手にセドリック様にお伝えしても良いのかと一瞬迷いましたが、アマンダ様もセドリック様に言わないで欲しいならば口止めをしたと思いますし、きっと本当にお気持ちを知られたくない相手は、セドリック様ではなく王太子殿下のはずです。
それに私はすでにセドリック様はアマンダ様のお気持ちを知っているはずだと確信していましたので、結局はお伝えすることにしました。
すると、やはりセドリック様はアマンダ様の想いを「知っていた」とおっしゃいました。
「知っていたよ。妃殿下の――アマンダの気持ちが、殿下にあることは」
そうだとは思っていました。けれど、その事実に驚きもあります。
「いつから知っていたのですか?」
「……王宮でアマンダと会ったときだよ」
セドリック様が少々言いにくそうに答えてくださいました。まだあの時のことを気になさっているようです。
「直接想いを聞いたわけではなかったけれど、殿下に対するアマンダの言動を見ていればわかる」
「……言ってくだされば良かったのに」
そうすれば、もう少し心が軽くなったかもしれません。アマンダ様がすでに別の方を好きだというのなら、もうセドリック様との恋の再燃を心配しなくとも済んだのですから。
むくれる私に、セドリック様が申し訳なさそうに眉を下げ、微笑みました。
「ごめん、コーデリア。本人から聞いたわけでもないし、確証のないことを君に言うわけにはいかないと思って」
セドリック様らしいですね。けれど確かに確証もなしにセドリック様からそんなことを言われていたら、私を誤魔化すために言ったのだとその時の私ならば思ってしまったかもしれません。
「……アマンダ様。これから殿下と上手くやっていけるのでしょうか」
私などが心配することではないのかもしれません。けれどあのアマンダ様の様子を思い出せば、心配するなと言う方が無理な話です。
「アマンダが自分で選んだ道だ。それに……想いもわかる」
「アマンダ様の想い、ですか?」
首をかしげる私に、セドリック様がじっと私の瞳を見つめながらおっしゃいました。
「どれほど険しい道でも、離れたくない。傍にいるためなら、何だってする。私たちの時には、なかった想いだ」
――不思議です。
私たちと、またセドリック様はおっしゃったのに、もうその言葉に胸が痛みません。
セドリック様が私の手を取り、その手をご自分の口元まで持っていきました。
「コーデリア。アマンダ――いいや、妃殿下と殿下のことは二人の問題だ。私はもう妃殿下には関わらない。殿下にも、君に関わらせない。これからは私たちのことだけ考えてくれ」
そう言ってセドリック様は私の指先に口付けを落としました。
「あの、でも……さすがに王太子殿下と妃殿下に関わらないわけにはいかないのでは?」
それともセドリック様ならそれを何とか出来てしまうのでしょうか? ですが、もし出来たとしてもそれが最善とは思えません。
王家と親戚関係にある公爵家の次期当主とその夫人が王太子殿下とその妃殿下に一切関わらないなど、不穏そのものです。それこそ、あらぬ疑いをかけられてしまいます。いえ、その場合周囲にいらぬ心配をかけてしまいます。
私としてもアマンダ様のお気持ちがすでにセドリック様にはないことも確認できましたし、今後離縁させられる心配もなくなったので、あのお二人――特にアマンダ様に対して今後一切関わりたくないという想いは抱いていません。それは社交を抜きにしてもです。
「それに……やっぱりお二人のことが心配です。殿下はアマンダ様のお気持ちを誤解しています。せめてその誤解だけでも解ければ……」
なんとかならないものかと思案していると、セドリック様の小さな溜息が私の耳に届きました。
「……仕方ないね、君は優しいから。けれどやはりあの二人には必要以上に近づかない方がいい。そうでなければ殿下がいつまで経っても君を諦めない。そしてそんな殿下を傍で見ている妃殿下も辛いだろう」
セドリック様の言葉に、私はぽかんと口を開けてセドリック様を見つめてしまいました。
「セドリック様……セドリック様は本気で王太子殿下が私を愛していると思っておられるのですか?」
「思っているよ。殿下は君を愛している」
セドリック様のお顔は真剣です。とても嘘や冗談をおっしゃっているお顔ではありません。
けれど……。
「……信じられません」
「コーデリア」
聞き分けのない子を諭すように、少しだけ強い口調でセドリック様が私の名を呼びました。
「……信じられません」
だってあの王太子殿下です。太陽の化身の王太子殿下です。それに私を愛しているような素振りなんて、今まで一度もありませんでした。ちょっとだけ意地悪はされましたけどね。
「君は……」
セドリック様の呆れたような呟きが、さらに私の反発心を煽ります。私はセドリック様を軽く睨みました。
「……まあ、殿下の時だけすんなり信じられても面白くはないからね。信じて貰えない辛さを、少しは殿下も味わえばいいさ」
それはセドリック様自身のことをおっしゃっているのでしょうか。あるいはアマンダ様のことでしょうか。何にせよ、隠されていたセドリック様の一部は意外にも結構腹黒いのかもしれません。
「それよりも……コーデリア。これで離縁の心配はなくなった。今日こそ私は、君に妻としての務めを果たして貰えるのかな?」
セドリック様が上目遣いに私を見つめてきます。翡翠色の瞳の奥底に、ゆらゆらと燃える炎を宿しながら。
その瞳を見た私の心は、一瞬で羞恥に支配されました。このような瞳でセドリック様に見つめられることに、まだ慣れていないのです。
……けれど、そうでしたね。いつ離縁されるかわからないという理由で、今日までセドリック様を突っぱねてきていたのでした。
仕方ありません。覚悟を決めましょう。
私はセドリック様の翡翠色の瞳を見つめ、頷きました。するとセドリック様が嬉しそうに微笑みながら私の頬に手を伸ばし、そして驚くべきことをおっしゃったのです。
「これで君も毎日小細工をしなくても済むようになるね」
私は一瞬、セドリック様のおっしゃった言葉の意味を掴みそこねました。私の密やかな習慣を、よもやセドリック様に把握されているとは思いもしなかったのです。
もしや使用人から報告が上がっていたのでしょうか?
「……知っていたのですか?」
私の問い掛けに、セドリック様はしかし、無言で微笑むばかりです。
私はしばし茫然とセドリック様のお顔を見つめてしまったのですが、そんな私にセドリック様からの口付けが降ってきました。
口付けを許すようになってからはとんと忘れていた小細工ではありますが、セドリック様のおっしゃる通り、今日からは必要ありません。
「白い結婚」は、もう私たちには必要ないのです。
今日が私たちの初夜のやり直し、そしてあらたな新婚生活のはじまりですからね。
本編はこれにて終了です。最後までお付き合いくださりありがとうございました。




