090。
「僕が言いたかったことはこれぐらいだよ。さぁ、レッド。今度は君の番だ」
ほら、と向けられた両手のひらに戸惑う。
けれど、朝黄の足元で呻く緑野の姿に次第に頭が熱を持ち始める。
ちりちりと思考を焦がし始めた熱は自分ではもう止めようがなかった。
気づけば、そっくりの双眸を強く睨みつけていた。
「俺はすっかり忘れてたよ。白夜のことも朝黄のこともあの日のことも全部。それがいま悔しくって仕方が無い」
自分の声がいつもより幾分低いことに気がついて、さらに熱が加速する。
「思い出させてくれたことには感謝してる。でも、どうしてこのアパートの皆を巻き込んだんだよ。これは俺と朝黄の問題だろ」
「そだね、僕とレッドの復讐と仇討ち。でもこういう時は周りにあるものをうまく利用しなきゃだめでしょ。レッドの家がまだ滅んでないってことは初めは呪いを所有してたレッドも倒さないといけないってことだし、そりゃ長い目で計画立てて確実にってなるじゃん?」
朝黄の言葉にああそうだ、なんて頭の片隅が無感情に頷く。
まだ俺の家は滅んでいない。
本当なら俺が20歳までに白夜を殺して、家は安泰なはずだったんだ。
俺が白夜を殺すことを躊躇って、その挙句他の人間に白夜は殺された。
白夜も守れなければ、家も守れない。
俺が白夜を殺していれば、それでも白夜の死は無意味にはならなかったし、家だって守れたのに。
「なんだ、」
すとんと胸に落ちた言葉は、なんて呆気ない。
呻く緑野、泣いている桃音、痛みに顔を歪める青葉を順に見て、俺を助力すると言った黒雪を思い出して、最後に自分と同じ顔をした朝黄を瞳に写して、
「俺がだめだっただけの話だ」
俺の中で何かが音を立てて砕け散った。
それは、白く笑う彼女の姿をしていた。
そうして、もうもとに戻らないことだけがわかる確かな喪失が俺の思考を黒く塗りつぶした。
The ball is with you(さぁ、君の番だ。




