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かりそめアパート。  作者: シュレディンガーの羊
なくして
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73/105

072。




それは深くて遠い、深淵を覗くようなそんな何処からも遠い記憶。




「しぃ、来たよ」


そっとそう言って、俺は離れの扉を開けて顔を覗かせた。

ひんやりとした空気が肌を撫でて、少しどきりとする。


「あっくん?」


鈴を転がしたような澄んだ声に、俺はわっと笑顔になって部屋に上がり込む。

白いワンピースを広げて座る少女を見つけて、俺はぱたぱたと駆け寄る。


「しぃ、しぃ、今日は何して遊ぶ?」

「なにがいいかな? でも、あっくん、宿題は終わったの?」


少女は脇に置いてあった本を閉じると、こてん、と首を傾げた。


「え、あ、うん! 終わったよ!」


わたわたと慌てて頷けば、少女は俺を上目遣いで見上げる。

それから俺が目を泳がせるまで見つめ続けるとふわりと笑った。


「なら、しぃと一緒にやろう。一緒にやれば早く終わるよ」




しぃ、と自分を称する少女は俺の家の離れに住んでいた。

それこそ俺が物心つく頃から既にそこに住んでいて、俺の遊び相手だった。

本当は離れには近づいてはいけないし、入っても行けなかった。でも、俺はいつもこっそり忍び込んでは、しぃと遊んだ。

小学生の俺としぃは背丈もろくに変わらなく、しぃは学校には通っていなかったけれど、俺より頭が良かった。

しぃは優しくて和やかで、けれど芯のある少女だった。

俺は小学校にいる誰と比べても、絶対にしぃが一番好きだった。




けれど小学校の俺は馬鹿で、どうして彼女が学校にも通わずこの離れにいるのか知らなかった。

その頃の俺は何も知らずに、微笑むしぃの隣でただ息をするように笑っていた。



in the middle of nowhere(何処からも遠いところに  

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