054。
「巨人ってあの巨人?」
心の準備はしていたはずだったが、それでも戸惑わずにいられなかった。
そもそも、黒雪が狼人間だということも確証を持っているわけではないのだから、普通は信じないだろう。
それでも、俺はこのアパートが普通でないことを当たり前に受け入れてしまった。
緑野は俺を振り返って、静かに言葉を繋ぐ。
「お前が想像してるもんがどんなもんかは知らねぇけど、俺のこの図体のでかさに影響が出てるってことは言えるな」
「でも、巨人って言っても人間の規格内だよな」
「四分の一の血だからな。だから見た目は常人に近い、問題は中身だ」
中身、という言葉に思わず口から出そうになった台詞を飲み込む。
無意識に吐きそうになった無責任な言葉の羅列。
緑野もおそらく俺が言いかけたことがわかったのだろう。
俺から逸らされた瞳が草花に向けられる。
「俺は常人より力が強い。実際に子供のころは、周りを危ない目に合わせたことも多い。ふざけてやったことはことごとく裏目に出た。俺の冗談で人が死にかけるんだからな。中身は、とても常人じゃねぇよ」
咲いていた花を緑野が手折った。
赤く咲いた大輪の花がころん、と生首のように手のひらに転がる。
「植物は練習台だった。人は与えられないから、それより脆い植物で力の加減を覚えろと言われたんだ。それから数え切れない花を死なせて気がついた。植物は人より強いし、長生きすんだよ」
握りこまれた花は下に向かって開かれた手のひらから赤くこぼれ落ちる。
「しかも、ローシェルトバークスは棘があるしよ。だから気に入った。強そうじゃねぇか」
「……それは、また別問題だろ」
独白に遣る瀬無い気持ちで口を挟めば、緑野は別問題じゃねぇよ、と肩をすくめた。
get in right(気に入られる




