052。
「馬鹿が」
緑野から降ってきた声は苛立ちと呆れでできていた。
「お前の秘密も教えねぇのに、俺たちにだけ教えろって? それはお門違いじゃねぇのか」
「そ、れはこれからおいおい考える!」
「はぁ?」
「しょうがないだろ、俺だって俺の秘密がわかんないんだから……」
「は……?」
気まずくなって、ぼそぼそとそう言えばさらに緑野が呆れの声を出す。
馬鹿を見るような視線に耐え切れなくなって、ムキになって叫ぶ。
「俺だって知らない! 俺だって俺の秘密を知りたいさ!」
「どういうことだ、それは」
「俺の、記憶は綻びがあるみたいなんだ。時々、懐かしいのに知らない夢を見る」
うつむいて、言葉をこぼす。
桃音は一体、俺の何を知っているのか。
初めに秘密があると言われた時、ひどく恐ろしかったのだけは覚えている。
未完成のまま生きてきたということを、自分の記憶への違和感を、まるで思い出すように自覚した。
俺はあの時、自分も知らない自分の秘密を知ることが恐ろしかった。
でも今日、目が覚めてひとつだけ決めたんだ。
「俺は緑野たちのことも、俺のことも知りたい。それでここで、このアパートで、みんなと暮らしていく、そう決めたんだ」
ずっと持っていた鉢植えを緑野にそう言って押し付ける。
受け取った緑野はなんとも言えない顔をして、
「……欲張りだな、てめぇは」
少しだけ口元を緩めた。
in the rough(未完成のままの




