Part1:スイートパニック
「きーくん、これ、どうかな?」
食堂に行けば、エプロンを身に着けた白夜がいて、朝黄を見つけるとぱあっと表情を明るくした。駆け寄ってくる彼女が微笑ましくて、自然と笑みが零れる。
白夜は離れに軟禁されていた時にも本から多くの知識を持っていたが、実際に触れるのは初めてのことばかりで最近は本当に生き生きしている。
どこか静かで物憂げだった彼女の瞳がきらきらと沢山のものを映して笑うのが、朝黄の表情を柔らかにする。
今日はどうやらお菓子作りに挑戦していたようだ。ただ、なぜかキッチン台に広がる器具と材料から何を作ったのか全く想像できない。
お菓子作りに日本酒とグリンピース、タジン鍋と穴開きおたまは果たして必要だっただろうか。それ以前にいまミキサーにかけられている青黒いどろっとした液体はなんなのだろう。
「きーくん」
「?」
「少し失敗しちゃったんだけど、やっぱり作ったからにはあげたくて」
「んー?」
「きーくん、洋酒入りにパウンドケーキ好きだったでしょう?」
珍しく少し恥じらうように見上げてくる白夜は後ろ手に隠していた物をそっと朝黄の目の前に差し出す。ん、と笑顔のまま傾げた首がそのまま固まる。
「食べて、くれる……?」
可愛らしく照れている白夜と、その手に乗ってぷすぷすぶくぶくと音を立てている黒い塊を見て、笑顔をそのままに朝黄は気が遠くなった。
好意を持っている相手からの初めての手作り菓子は非常に嬉しい。照れている白夜が新鮮で愛らしいのも良い。ただ、この酸っぱいような甘ったるいような匂いと破壊力のある黒々とした見た目からして食せば間違いなく切ないことになる。
「きーくん?」
それでも、不安げに名前を呼ばれれば、笑い返すのが男の役割。
「ありがとー。頂くねー」
皿を受け取ると、心底嬉しそうに笑う白夜に自然と口元が綻んだ。




