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薄命物語  作者: 真田 幸一
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第9話 回帰

事件のことが走馬灯のように見えてきた。

時空を乗り越えて、少し違う世界、パラレルワールドに向かっている。

歴史は、大きな樹のようなもので、枝分かれを無数に繰り返している。

ある程度の分かれ道なら、結局同じ運命を辿るから、運命の樹は枝分かれをせずにそのまま枝を伸ばす。

一人に一つずつ運命の樹があるのか、全ての人で一つの運命の樹を共有しているのか……それは分からない。


「私、死んじゃったんだ……」

この空間に来るのは久しぶりだ。

以前に来たのは、甲本栞が小学生の時に交通事故に会って死んだときだった。

「時空は川のように流れて、いや、道管と師官かな?」

逆に流れているところもあるみたいだ。

そして今、自分は、大学時代に向かって進んでいる。

同じ死因が訪れなくなることが決定した頃に戻るから、多分大学時代に目覚めるだろう。

しばらくすると、暗い洞窟に一筋の光が差したような場所が現れた。

そこが、戻る時で、枝分かれが始まる時間だった。

戻って数日か、数時間で、運命ーー歴史軸ーーが変わっていることが確認できるはず。

私は、眩しい光に目を閉じた。

洞窟を抜けたと思った瞬間、私は見慣れた天井を見ていた。

「間違いない。大学時代だ。さくら荘の204号室」

注意しないといけないのは、同じ死因が訪れなくなるからといって、長く生きられるようになった訳ではないということ。

「前は乗用車に跳ねられて死んだけれど、その前はトラックに跳ねられて死んだからなぁ」

その時、玄関の方で物音がした。

泥棒?

いや、真田幸一君かな?

彼も戻ってきているのかな?

これがどのおまじないの効果なのかは分からないから、なんとも言えないけれど、できたら前の記憶を共有していてほしい。

その方が、呪いの話をしやすいから。

携帯電話を見て、現在時刻を見た。

2011年7月15日23時だった。

恐る恐るドアを開けて、玄関の方を見た。

「あ、栞、悪い起こしたか?」

やっぱり幸一君だった。

私は安堵したが、すぐに幸一君の記憶の確認をする。

確か明日(7月16日)はデートの予定だったはず。

「あ、幸一君、明日のデートどこ行くんだっけ?」


「白山商店街、エッフェル塔、吉田の里歴史公園、駅前の喫茶店だろう? もう忘れた?」

「あ、うん、あはは、そうだったね」

幸一君は、事件の記憶を持っていない。

これからどうしようかな?

私はドアを閉めて、布団に戻った。

考えても仕方がない。

いつものように、私は振る舞えばいいんだ。

すぐになれるはず。



朝食は……

冷蔵庫に張ってあるホワイトボードには、『ハンバーグ、サラダにパン』と書かれている。

冷蔵庫には夕食に食べたらしいハンバーグの残りにポテトサラダがボウルに入っていた。

朝食の準備をしていると、玄関近くにある幸一君の部屋の扉が開いた。

「栞……」

「おはよう、幸一君」

多分これで合っているはず。

まだ『幸一さん』とは呼んでいなかったはず。

「ほ、本当に栞なのか?」

「どうしたの?」

幸一君はまるで不思議な夢を見ていたかのような目で私を見ている。

「栞、おまえは生きているのか?」

どうやら、記憶の引き継ぎが起こっているようだ。

一応、精神的には、事件は前世で起こったこととなり、幸一君には長い夢から目覚めたのと同じように感じられるようだ。

「幸一君、もしかして、私が事件にあった夢を見たの?」

「ああ。どうして分かるんだ?」


「あのね、よく聞いて。私達は戻ってきたの」

「戻ってきた?」

よく分からないようだ。

「私、甲本栞は何度も死んでいるの」

「……」

「その度、少し違う世界に来ているの。前世の記憶を引き継いで」

「少し違う……」

何かいい例がないか考えたけれど、思い付かず、とりあえず、テレビを着けた。

MHK(みんなの放送協会)

の8時のニュースを見た。

『5つ目の事件はN県で起こりました』

宮原町の地図が画面に映っている。

「この事件覚えてるよね」

忘れもしない。

7つ目の事件の被害者が甲本栞、前世の私なのだから。

「5人組の犯人は全員、この空き家で女子高生に性的暴行をしたあと、背中に数字の5を刻み込み、殺害しようとナイフで左胸を刺しました」

何度見ても、嫌な気分になるニュースだ。

「犯人は、偶然空き家から車を出したところに居合わせたパトカーに追われ、さらにこちらの七宮署の方から来たパトカーにも追われ、飯原方面に逃走。

橋を渡る直前の急カーブを回りきれずに橋から転落し、全員死亡しました』

犯人が死んだ……

「同じ死因は起こらない世界……まさか犯人が死亡しているなんて思わなかった」

『たった今入った情報によりますと、被害者の女子高生の手術が終了し、一命を取り留めたようです』

『宮原町飯原病院前に来ています。先程手術が終了しました。少女は病室に移されました。血液を提供した大学生も、病室に移されました。手術を担当した医師によりますと、大学生の青年は気を失うまで血液を抜いたようです。』

院長の男性医師のインタビューが始まった。

『午前中の手術で輸血用の血液、A型とO型の血液が足りなくなり、急遽被害者の少女の知人の大学生に血液を1400cc程提供していただきました』

『1400ccと言いますと、どれくらいでしょうか?』

『気分が悪くなり、意識を失うこともありますし、一度に無くなると、死亡することもある量で、命懸けです。本人の了解を得て行いました』

『現在青年は病室で安静にしているもよいでし。以上中継でした』


青年……

「あいつは助けられたんだな」

「あいつって?」

「多分、吉田幸一だよ。夢で、前世で栞が事件にあった時に、吉田幸一と田中刑事に会ったんだ」

「ふむふむ……」

「田中刑事というのは、この連続殺人事件の捜査を担当している警察庁の刑事さんで、吉田幸一は知っているよな?」

「……えっと、中学の時の幸一君にそっくりな人だよね」

「ああ、因みに中学時代はあいつも栞のこと好きだったんだよ」

「そうなんだ。全く気付かなかったよ」

「ついでに、スキー場で助けを呼びに行ったのもあいつだ」

「……」

「あいつは、俺たちの命の恩人ってわけだ」

「お礼言ってなかったな。知らなかったから……」

何の話をしていたんだっけ……?

「あ、それでね。ここが以前の世界とは違うことは理解してもらえたかな?」

「同じ死因が起こらない世界か……ということは、栞は今何度目の人生なんだ?」

来た……

「甲本栞としては、5回目の人生だよ。

前は鈴代文華で、一番初めが蔵元菊」

「山崎圭一もサスケも前世の記憶なのか」

「うん。そこまで分かっているなら話は早いよ」

栞は冷蔵庫からお茶を取り出して、コップに注いでくれた。

そういえば、喉が渇いていたな。

「サスケさんの記憶はどこまである?」

幸一は目を閉じた。

「菊が、心と体に呪いを刻まれたところまでだな。後はぼやけて見えなかった」

「結局、呪いを解くことは出来なかったの。でね、転生の巫女という人が昔いたらしいの」

神社にいる巫女さんかな?

「その人のおまじないのお陰で、私達はわた巡り会ったんだけど」

「なるほど。その人に頼めば解呪してもらえるのか」

「うん。そうなんだけどね。今どこにいるのか分からないんだ」

……はい?

「私は呪いのせいで30才までしか生きられないから、それまでに何とかしないといけない」

「あと、9年か……短いな」

「ダメだったら、また来世になっちゃうよ」

「現世で何とかしないとな。折角俺が記憶を取り戻しているんだから」

「うん、そうだね」

調べようにも、日本は広い。

38万平方キロメートルもあるのだ。

ついでに、地球と月の距離は約38万キロメートルだ。

光の速度は毎秒30万キロメートル、地球7周半だ。


「どこかで、最愛の赤い糸のおまじないや、呪いを解く儀式とかしているところはないかな?」

「特に噂にも都市伝説にもなっていないな」

「都市じゃないかも知れないよ」

どこか山の麓の町や村か……

「でも場所が分かっても、お金がないと……」

「お金なら、心配いらないよ」

「え?」

「実は、ロト8を吉田幸一と協力して1000口買って200万円当てたんだ」

「そうなんだ。いつの間に……」

「大学1年の夏休みに、あいつがN県から帰ってきた時にな」

ロト8とは、クジラ銀行がやっている57個の数字から8つの数字を選ぶというもので、1等は4億、2等は2億、3等が1億、4等が1000万、5等が100万、6等が1万、7等が2000円、8等が1000円というものである。

これで5等、つまり5つ数字が当たったのである。

「俺達二人はバイトしたお金1万円を注ぎ込んだから差し引き約100万円だ」

前もって1万円以上は山分けにしていたが、二人とも約100万円当たったから、気分を害することなく山分けが行われた(吉田の方が2000円多かった)。

「使っても良いの?」

「ああ、恋人だろう? 前世からの仲だろう?」

「うん、ありがとう」

「というか、前世で婚約していたはずだが……」

そういえば、7件目の事件が起こる1週間前に婚約指輪(30万円)を貰っていた。

「あの婚約指輪を買ったのも宝くじのお陰なんだね」

「まあ、この世界ではまだ渡していないみたいだな」

「もしかして、もう買っているの?」

「部屋にあるよ」


ダイヤモンドの指輪は机の引き出しの奥にあった。

「改めて……栞、結婚してほしい」

「うん。勿論良いよ」

デート中に渡すべきものだ。

「どうしようか?」

「とりあえず、どこか行こうよ」



当初の予定通りデートをすることにした。

「挨拶にはいつ行けば良いのかな?」

「前と同じように夏休みで良いんじゃないかな?」

「そっか。お父さんが迎えに来るんだった」


これはデート中の会話なのだろうか?

「白石商店街の近くにある『銀座』っていうカレー屋さんに行こうよ」



カレー屋『銀座』は裏通りにあり、神社の向かい側、プラモ屋の隣にあった。

平日は会社員が多いのだが、休日だからカップルが多い。

十個のルーから二つを選びライスのお代わりは無料というコースで、一人二千円である。

少し高級感を味わうことができる。

栞は、フルーツ、ビーフを、俺はヨーグルト、ジャワを選んだ。

交換をして、4つの味を楽しんだ。

その後、少し歩いて、和菓子喫茶に行った。

コーヒー、紅茶、緑茶、抹茶などの飲み物の他に、羊羹や丸ボーロ、饅頭などの和菓子がメニューにある。

佐賀はシュガーロードで有名で、和菓子や洋菓子の店が多い。

長崎街道沿いの裏通りに創業が江戸時代のお菓子屋がある。

元々和菓子専門店だったが戦後から洋菓子も作られるようになった。(主人談)

お菓子屋で、『抹茶ロール』を買って、さくら荘に戻った。

嬉野紅茶を淹れて、栞と抹茶ロールを食べた。

抹茶ロールを口に入れると、ほんのりと抹茶の香がした気がした。

甘過ぎず、渋くない逸品だ。

嬉野紅茶を飲んで、皿洗いをしている栞を見る。

「夕食は何にしようか?」

「幸一君、明日は何か予定とかなかった? 携帯電話のスケジュールとかに書いてない?」

そういえば、この時の俺は、数日後の予定を携帯電話にメモしていたはずだ。

「よく覚えていたな」

俺のことをいつも見ているんだな。

嬉しくなる。

「あ、明日は家族と親戚の家に行くことになっている」


「そっか。甘酒お願い」

以前、お土産に甘酒を買ったな。

「朱乙女に行けるか分からないよ」

朱乙女とは、酒蔵の名前だ。

日本酒以外にワインもある。

あと美味しい水も。

味見はタダでできる、運転手以外は。

『飲んだら運転しない、させない。

運転するなら飲まない、飲ませない。』

というようなステッカーをよく見る。

飲酒運転の事故が多いからな、F県は。

「そういえば、まだ写真撮ってなかったみたいだな」

「ん? あ、ツーショットかな? こっちにあるよ」

「あ、そうか。赤外線で貰うんだったな」

「うん。まだ渡していないんだ」

「吉田幸一に送ろうか?」

「うん」

写真を受け取って何をするかって?

勿論自慢だ。吉田幸一とどっちが早く婚約できるか勝負していたからな。

同年度なら引き分けになるルールだ。

件名は、

『件名』

にして、本文は

『俺達は婚約した。』

で写真を添付して吉田幸一に送った。

「あいつ、モテないから羨ましがるだろうな……」

「仲良くしないとだめだよ」

「大丈夫、あいつは今、人助けをした後で良い気分なはずだ」



佐賀駅の近くの喫茶店『The 4th Place』で栞と夕食を食べることにした。

店名は、自分の家、仕事場(学校)、恋人の家か親戚の家、そして第4の居場所として気軽に店に寄ってほしいという思いを込めている、という貼り紙が壁に貼ってある。

さて、メニューを見ると、オムライスカレー、オムレツカレー……と、多くの喫茶店やレストランにもありそうなメニューばかりだったが……

『シシリアンライス』は佐賀の名物料理だから、佐賀にしかないだろう。

まぁ、それはさておき、俺はオムレツカレーを、栞はオムライスカレーを注文した。

どう違うのか、気になった。

「私達って、気が合うよね」

「そうだな」

いつもそうだったな。

「デート中に言うのも変な話だけど、期末試験は大丈夫かな?」

そう言われれば、大学3年は俺にとっては、8年振りか……

栞の30歳の誕生日に、俺はこの時代に戻ったのだから……

「覚えていないな」

「そうだよね。私も全然覚えていないんだ。幸一君が30歳になるまで、私は前の世界にいたから」

「ずっと見てたの?」

「うん。お父さんとお葬式を挙げてくれて、墓参りしてくれたよね」

夢ではない、しかしこの歴史軸では現実ではない……いや、現実にしたくない不確定の未来だ。

「でも、同じことはもう起こらないんだよ」

犯人はもういないからな。

でも、墓参りは勘弁してくれ。

「うん。勿論だよ」


喫茶店を出た俺は、佐賀駅に向かった。

改札口で栞と別れて、俺は博多行き特急『かもめ』に乗った。

夕暮れ時の佐賀の街を後にした。

青いエッフェル塔、吉野ヶ里歴史公園、

新鳥栖駅……

そういえば、九州新幹線長崎ルートは新鳥栖駅から在来線に降りてくるんだったな、フリーゲージトレインが。

吉田幸一は色々詳しいからな、特に地理と鉄道に関しては……

それに比べて俺は、何が優れているんだろうか……



次回予告


「期末試験が苦しい。だが、何とか合格した」


「お盆頃に、幸一君の御両親に挨拶に行くことになりました」

「そこで、俺達は吉田幸一と再会する」


次回 薄命物語 第10話 「最愛の二人」


「そちらは妹さんですか?」





中書き


次回作の最愛物語が先に完成してしまったので、そちらのある部分とリンクするようにしました。


『今の歴史軸』は『最初の歴史軸』とは異なるので、初期のキャラクター設定とは、少し異なるところがあります。


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