第7話「追放仲間と死の大地へ向かうことにします」
## 第7話「追放仲間と死の大地へ向かうことにします」
### 【あらすじ】
一年ぶりに実家へ戻ったエリオットを待っていたのは、配信魔導具へ仕送りを注ぎ込み、ヴェロニカを酒場で辱めたことへの追及だった。
それでも新たなカメラのために金を求めるエリオットへ、父エルドリックは王国東端の領地を与える。
領民も収入もなく、魔物だけが棲む“死の大地”。
王都に残り配信活動を禁じられるか、領地へ向かうかを迫られたエリオットは、追放同然の条件を受け入れた。
### 【本文】
馬車が、王都から伸びる街道を進んでいた。
車輪が小石を踏むたび、座席が小さく揺れる。
窓の外に広がるのは、どこまでも続く田園風景。
王都の城壁は、すでに見えなくなっていた。
「エマさん」
「はい?」
向かいの席では、エマが流れていく景色を眺めている。
「どうして、ついてきたんですか?」
「…………」
エマが瞬きをした。
しばらく考える。
「……どうしてでしょう?」
「いや、僕に聞かないでくださいよ」
「う、うーん……なんというか……流れで?」
「行き先、死の大地なんですが」
「そう言われると、私、結構とんでもないことしてますね」
今さら気づいたらしい。
エマは馬車の中を見回した。
自分の荷物。
腰には、上位クラスの収納魔道具。
間違いなく、数日で帰る人間の装備ではなかった。
「王都へ戻るなら、次の街で馬車を手配しますよ」
「えっ」
「僕の事情に、エマさんが巻き込まれる必要はありませんから」
エリオットは、窓の外を見る。
「領地へ行けと言われたのは、僕だけです」
「…………」
エマは、そんなエリオットの横顔を見つめた。
「エリオットさんは、私のこと、調べてくれてたんですよね」
「将来有望な出演者の事前調査です」
「私がどうして王都に来たのか。どうして配信を続けたいのか。それを知った上で、私を選んでくれた……と私は思っているんですが――」
「能力と知名度を評価しただけですよ」
「じゃあ聞きますけど、その配信用の魔導具、いつ完成したんですか?」
思いがけず飛んできた鋭い質問に、エリオットは黙った。
「あの使いこなしよう、最近完成したものじゃないですよね?」
「…………」
「私が追放されるの、待ってたんですよね?」
「……僕の目的を達成するには、あなたが最適だったんです。かといって、レイド・スターズから引き抜けるわけないでしょう」
「はいはい。そういうことにしておきます」
エマは小さく笑った。
「レイド・スターズを追放された時、私、本当に何も考えられなくなりました」
「居場所を失って」
「故郷へ、どんな顔をして帰ればいいのかも分からなかった」
「そんな私に、エリオットさんは言ってくれたじゃないですか」
――僕なら、あなたをナンバーワン配信者にできます。
「まだ、ナンバーワンになってませんから」
「…………」
「約束、守ってもらわないと困ります」
エマは、真っ直ぐにエリオットを見る。
「それに、レイド・スターズに負けない配信をするなら、私にはエリオットさんの力が必要です」
エリオットは何も答えなかった。
ただ、わずかに目を見開いてエマを見つめる。
「だから、ついてきました」
「流れで?」
「……まあ、はい。“最初は”流れで」
「“最初は”?」
「今は、自分で決めました!」
「……それなら、良かったです」
「なんですか、その満足そうな顔」
「良い台詞が聞けたので」
「配信してませんよね!?」
エマが慌てて馬車の中を見回す。
大型の配信魔導具は荷台に積まれている。
「僕に関する言及は配信に乗せませんよ?」
(エリオットさんの魔術、配信映えしそうなんだけどな)
エマは、エリオットが頑なに自分の存在を配信から排除しようとする姿勢に引っかかった。だが、小さく笑う彼の表情を見て、詮索をやめた。
エリオットとエマ。
――頼れる仲間。
そんな言葉が、互いの頭に浮かんでいた。
◇◇◇◇◇◇
前世。
集大成となる音楽フェスの開催を目前にして、資金提供元の会社が逃げた。
入金されるはずだった金は、いつまで経っても振り込まれなかった。
連絡もつかない。
会場費。
機材費。
出演料。
警備、設営、運営スタッフの人件費。
イベントは、夢や情熱だけでは開催できない。
金がなければ、何も動かせなかった。
『どうしますか?』
何度も、そう聞かれた。
『中止にしますか?』
そのたびに、男は同じ言葉を返した。
「どうにかします」
新しい出資者を探した。
協賛企業へ頭を下げた。
予算を組み直し、発注先と交渉し、自分の金までつぎ込んだ。
誰かに任せる余裕はないと思った。
自分で電話をかけた。
自分で資料を作った。
自分であらゆる場所へ足を運んだ。
その結果、イベントは開催できた。
そして、男は死んだ。
◇◇◇◇◇◇
馬車の揺れで、エリオットは我に返る。
前世と同じように、今回も金がない。
新しいカメラを買えば、父から渡された当面の資金は減る。
これから領地を運営するにも、金はいくらあっても足りないだろう。
状況だけなら、あの時とよく似ている。
だが――
「エリオットさん?」
「……あ、すみません。何ですか?」
「急に黙るから、どうしたのかと思って」
「少し、昔のことを思い出していました」
「昔って……エリオットさん、十歳ですよね?」
「いろいろあったんですよ」
「十年で?」
「貴族の十年は長いんですよ」
「そういうものでしょうか……」
今回も、金はない。
しかし、今は頼れる仲間がいる。
「エマさん」
「はい?」
「改めて、よろしくお願いします」
「……はい。こちらこそ!」
馬車は、東へ進み続ける。
ただし、死の大地で行う“次の企画”については、まだエマに知らせていなかった。
知らせれば、今すぐ馬車を降りようとするに決まっているから……。




