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異世界配信革命〜追放された無能ポーターをバズらせる転生イベント屋、死の大地でダンジョン配信と領地経営を始めます〜  作者: プロテイン長田
第6章「追放者たちの居場所」

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第38話「追放者たちの功績が王国の記録に残ります」

## 第38話「追放者たちの功績が王国の記録に残ります」


### 【あらすじ】


 魔力と物資が尽き、エリオットは自らを残して仲間を撤退させようとした。しかし、リゼットとBCDは彼を置いて逃げることを拒む。


 そこへ、エマを抱えたクレハが到着した。エマが届けた回復薬で力を取り戻したエリオットは、クレハと共に反撃へ転じる。全員が役割を果たした総力戦の末、地上を目指していた魔物の波は止まった。


 領地を目前の危機から救った一行。だが、ダンジョンの異変が起きた原因は、依然として分からないままだった。


### 【本文】


 この世界の配信は、録画することができない。


 クレハは命を差し出してまで戦った。自分たちの居場所を、ひいては王国の領土を守るために。


 しかし、その姿を後から見せることはできない。


 ダンジョンから領地へ戻る間、エリオットはそのことばかり考えていた。


(……できることは、やったはずだ)


 彼女が人間族を害さず、仲間を守るために戦ったことは、大勢の目に届いた。それでも、この王国で魔族がどういう存在なのかを、エリオットは知っている。


『クレハがいなかったら全滅してたな』

『あの力が人間に向いたらどうなるんだ?』

『何を見てたんだ? 魔族は人間に攻撃を向けなかっただろ』

『騎士団はどう判断するんだろう』


 配信停止後の帰路、配信についたコメントを、必死に追う。


 領地に帰れば、騎士団との話し合いが待っている。


 守り抜いた場所に、明日もいられるのか。


 まだ、それは決まっていなかった。


◇◇◇◇◇◇


「まず、無事に戻られたことを嬉しく思う。領主殿」


 領地では、すでに議論の卓が整えられていた。


 円卓には騎士団長シルヴィア、ギルド職員のクラウディア、エリオット。それぞれの背後に関係者が並び、エリオットの後ろにはクレハも立っている。


 配信は終了していた。


 ここからは、視聴者へ向けた言葉ではなく、互いに腹を割った話し合いになる。


「……ご心配をおかけしました」


「心配、か……そうだな」


 シルヴィアは大きく息を吐いた。


「だが、無理にでも止めなかった私にも責任はある。しかるべき処罰は受けるつもりだ」


「そんな……これは我々が勝手に――」


「そうもいかん。本来は領主殿の安全を確保し、この場を引き払うべきだった。後ろの彼らを拘束し、勝手な行動を禁じる権限もあった」


 バルガスたちが頭をかき、互いの顔を見合わせる。


「では、なぜそうしなかったのか」


 シルヴィアは卓へ手を置いた。


「私はこの領地に、未来を見た」


 部屋が静まった。


「死の大地は王国で最も危険であり、何も生まない土地だった。領土でありながら、手をつけられず放置されていた」


 彼女の視線が、エリオットへ向く。


「それを領主殿が変えた。名産品を生み、領民を集め、危険なダンジョンの異変を鎮めた」


「…………」


「君たちならできると信じていた……などと言うつもりはない。出会ったのは、つい最近だ。だが、それでも私に可能性を感じさせたのは――」


 シルヴィアは席を立ち、クレハを見た。


「魔族である彼女の献身だ。聞かせてくれ。ここで何があったのか」


 騎士団長として望ましくない判断をしたことまで、彼女は認めた。功績だけを取り上げて、自分を正当化しようとはしない。


 エリオットは振り返った。


「クレハさん……いいですか?」


 静かな頷きを受け、シルヴィアへ向き直る。


「クレハさんは、魔王国領を追放された、元魔王候補の娘だそうです」


 再び、沈黙が落ちた。


「新魔王の座を争う戦いに敗れ、一家で追放されました。生きてこの場所に流れ着いたのは、クレハさんだけで――」


「待て待て、先へ進むな。その女性は……魔王候補の娘!?」


 シルヴィアの声が裏返った。


 魔王とは、かつて王国侵攻を命じた存在だ。賢者と勇者、英雄の活躍で退けられ、失脚した。だが確かな伝承として残っているのは、そこまでだ。


「では、魔王国領には新たな魔王が誕生したのか?」


「どうなんですか? クレハさん」


「それは分からん。先代の失脚後、魔王国領は長く戦乱の中にあった。我々が追放された後、誰かが統一を成し遂げたかどうかまでは知らない」


 シルヴィアが勢いよくギルド陣営を見る。クラウディアは背後の神官を振り返り、その頷きを確認してから顔を戻した。


「嘘は言っていない……ようだな。それで?」


「いろいろあって、領民として迎えました。ダンジョン探索に芋の管理、スライムの面倒も見てくれています」


「ああ、裏庭の……っていや、待て!」


 シルヴィアが卓を叩いた。


「どうして魔族を迎え入れるという判断をした!」


「ご覧の土地ですから、藁にもすがる思いで」


「すがっているのは藁ではないぞ。少なくとも」


「そうですね。大きな船に乗せてもらった気分でした。アハハ」


「笑い事ではない!」


 ギルド職員と神官は、そんなやり取りの間も、エリオットの言葉に虚偽がないか確かめていた。


 だが、エリオットは嘘をついていない。


 配信に活かせそうな人材に手を差し伸べた。ただそれだけの話。魔族の危険性も王国での扱いも、後から考えればよいと思っていた。


 そして今、その後回しにした問題と向き合っている。


「なんと言うべきか……領主殿の豪胆さが、我々にもあればよかったのだが」


「豪胆だなんて、そんな」


「たぶん褒められてないです!」


 背後のエマの囁きには、聞こえないふりをした。


「……事情聴取は、この辺で終わろう。虚偽の申告もないようだ」


 シルヴィアは座り直し、声を落とす。


「クレハ殿の扱いについては、後日、王国評議会から騎士団を通して連絡が来る」


 エリオットは膝の上で手を握った。


「そして、ダンジョンへ向かわせるために結んだ契約は、この場で破棄する」


「えっ……いいんですか?」


 指示を受けた神官が、契約の魔術具を卓へ運んできた。


「経緯はさておき、ノクスヴェルト家が領地のダンジョンを発見し、その暴走を止めた。今回の件はその一点に尽きる」


 シルヴィアは言葉を区切った。


「鎮圧に当たったのは騎士団でもギルドでもない。領主殿と、その領民だ」


「まあ、それは……そう、なんですかね?」


「功績は、配信を見た騎士たちに記録させてある。騎士団の公文書としてな」


 エリオットは顔を上げた。


 録画ではない。


 誰が、どこで、何をしたのか。騎士団が見届けた事実を、正式な文書として残していたのだ。


「王国は領土からの税で運営される。発展できなかった土地に可能性が生まれたという報告は、王国にとっても利益がある」


(……考えたことがなかった。だが、それなら――)


「騎士団はクレハ殿を、その功績の担い手として記録した。暫定的に、この領地の領民であると認めて、な」


 シルヴィアの合図で、神官が術を施す。


 クレハの手首に光が浮かび、紋様がほどけるように消えていった。


 エリオットは、言葉を失った。


 配信が終われば消えてしまうと思っていたものが、残る。


 自分が用意した演出でも、視聴者へ訴えた言葉でもない。クレハが実際に戦った、その事実が彼女の居場所を支えている。


「繰り返すが、正式な裁定は王国評議会が行う。最終判断が下ったわけではない。いいな?」


「……はい。分かりました」


 噛み締めるように答えると、背後でクレハが静かに頭を下げた。


「ギルドからは、何かあるか?」


「あっ、はい!」


 クラウディアが慌てて立ち上がった。


「ダンジョンはしばらく様子を見つつ、一階層に限定した探索をクエストとして提供する予定です」


 危険性は、すでに王国中へ知れ渡った。無茶な攻略を試みる者は減るだろうと、彼女は続ける。


「ただし、所有権が渡るのは最後のセーフゾーンまで転移門を設置した者です。それまではギルド管轄となりますので、ご理解ください」


「はい、それは構いませんが――」


 そこで、エリオットの目が動いた。


 探索をクエストにする。冒険者が集まる。まだ誰も、ダンジョンの権利を得ていない。


 頭の中で、何かがつながった。


「話は以上ですか!?」


「は、はい。以上ですね」


「では、僕はこれで!」


 椅子を引くなり、エリオットは風のように部屋を飛び出した。


「……なんなんだ?」


 シルヴィアが呆然と呟く。その時、クラウディアが思い出したように手を叩いた。


「あ、そうでした! エマさん。それから、BCDの皆さんも」


「はい?」


「エマさんは先ほど、登録者が正式に十万人を超えました。シルバーランク認定です!」


「…………え?」


「あと、BCDの皆さんも」


「おーい! 俺らはついでかよ!?」


「ひどいですぜ!」


「これまで僕たちがかけてきた迷惑を考えれば、妥当な扱いなのでは……」


「……名誉」


 四人の声を聞き流し、職員は笑顔で続けた。


「追ってギルドから銀のプレートを差し上げます。ぜひ飾ってくださいね!」


「ちょ、ちょっと待ってください! 十万人!? なんで!?」


「王国中が注目する配信でしたからねえ」


 エマは目を回した。


 人気パーティーを追放された自分の配信を、十万人が登録している。


 数字を理解するより先に、体が動いた。


「エ、エリオットさーん! 大変ですー!!」


 彼女まで部屋を飛び出していく。


「……騒がしい領地だな。我々は王都へ戻る。ギルドの建設用に、騎士を何人か残そう」


「助かります! これで私も、晴れてギルド長ですね」


 シルヴィアたちに続き、ギルドの一団も部屋を後にした。


 残ったクレハは、自分の手首を一度見下ろしてから顔を上げる。


「我々は、皆のために芋料理でも作るか」


「ああ! でけえ仕事の後には、飯を食わなくちゃな!」


「私は……いや、いいわ。私も手伝う」


 リゼットも加わり、最後の一団が席を離れた。


 こうして、一連の事件はひとまず幕を閉じた。


 クレハへの正式な裁定。ダンジョン暴走の原因。残された問題は、まだある。


 それでも、追放者たちの居場所は残った。


 廊下からは、エマの叫び声と、夕食を相談する賑やかな声が聞こえていた。


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