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異世界配信革命〜追放された無能ポーターをバズらせる転生イベント屋、死の大地でダンジョン配信と領地経営を始めます〜  作者: プロテイン長田
第6章「追放者たちの居場所」

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第37話「追放者たちが領地を守るために共闘します」

## 第37話「追放者たちが領地を守るために共闘します」


### 【あらすじ】


 王国に敵意がないことを証明するため、クレハは人間族への加害と領地からの逃亡を禁じる契約を結んだ。違反すれば命を失う、圧倒的に不利な条件だった。


 契約を終えたクレハは、エマから魔力を補給すると、彼女を抱えてダンジョンへ急行する。


 一方、エリオットたちは増え続ける魔物に包囲されていた。武器も体力も尽きかける中、エリオットはエマが持たせてくれた最後の魔力回復薬を飲み干し、震える足で戦場に立ち続けた。


### 【本文】


(駄目だ……これ以上はもたない)


 死の大地のダンジョン、第一階層。


 エリオットは風魔術で魔物を押し返しながら、荒い呼吸を繰り返した。


 もう、どれほど倒したのか分からない。


 名門ノクスヴェルト家に転生してから、前世の知識と経験を活かすため、あらゆる教育を受けてきた。


 すべては、最強のイベント屋になるため。


 実家を追放された今も、積み重ねてきたものは失われていない。死の大地で配信を行えるほど、エリオットは十歳という年齢に見合わない力を持っていた。


 それでも――押し返せない。


 通路の奥から現れる魔物は途切れず、倒した端から新たな影が押し寄せてくる。エリオットたちの背後にある出口にも、回り込んだ魔物が集まり始めていた。


(…………これ以上は、俺のポリシーに反する)


 配信に関わる全員の安全を保証する。


 エマと配信を始めて以来、徹底して守ってきた原則だった。


 だが、先ほどのエマの伝令は、死の大地を単独で走らせる危険な賭けだった。そして今も、リゼットやBCDを限界まで戦わせている。


(潮時……か。前世では、最後までケツを拭けなかった。今回は、せめて最後まで自分で――)


 エリオットは戦場を見渡した。


 短剣を振るうリゼット。傷だらけになりながら前線を支えるバルガス。怯えながらも逃げずに戦うニック。刃こぼれした刀を握るシグ。残り少ない魔力で攻撃を続けるカーネル。


 彼らを生還させる。


 今の自分にできる、最後の仕事だった。


「みなさん! 僕の近くに集まってください!」


 号令と同時に、足元から風を放つ。迫っていた魔物がよろめいた隙に、五人がエリオットの周囲へ集まった。


「どうした、エリオットの旦那!」


「何かいい作戦でも――」


「撤退します」


「…………は?」


 バルガスたちの動きが止まる。


「撤退……? それじゃあ、領地は――」


 誰もが心の底では分かっていた。


 防衛戦の限界は、もう目の前まで来ている。


「だ、旦那ぁ。撤退っつっても……」


 ニックが出口を見る。


 そこには、牙を鳴らしながら迫る魔物の群れ。逃げ道はすでに塞がれていた。


「僕が退路を開きます」


「な……アンタ、そんなことして、魔力は大丈夫なの?」


 リゼットが顔を歪める。


 エマが残した魔力回復薬は、とうに尽きている。


「大丈夫です。あと一回くらいは」


「な、何が大丈夫なのよ! アンタが倒れたら、エマに合わせる顔がないじゃない!」


「僕はここに残って、みなさんが領地から撤退する時間を稼ぎます」


「勝手言ってんじゃないわよ!」


 リゼットは出口ではなく、ダンジョンの奥へ向き直った。


「嬢ちゃんの言うとおりだぜ」


 バルガスも隣に並ぶ。


「旦那への恩返しが、まだ済んでねえですぜ」


「そ、そうです! 僕だって残りますからね! 本当は怖いですけど――」


「――恩は返す」


 ニック、カーネル、シグも続く。


 エリオットは言葉を失い、その背中を見つめた。


 もはや誰も、配信中であることなど忘れていた。


「なあ、旦那がどうして一人で抱え込もうとするのか知らねえが……俺たちゃ、旦那の領地の領民だぜ?」


 バルガスが大剣を肩に担ぎ、一歩前へ出た。


「俺たちが、旦那の撤退を助ける」


 その時だった。


「悪いが……領主殿を助けるのは、私の仕事だ」


 凛とした声が、魔物の咆哮の間に聞こえた。


 直後、空気を切り裂く音が走る。


「な、なんだ!?」


 一行を囲んでいた魔物の動きが、一斉に止まった。


 いや――止まったのではない。


 その首や胴に黒い線が走り、次の瞬間、まとめて崩れ落ちた。


 倒れた魔物が、次々と魔水晶へ変わっていく。その光の向こうから、二人の人影が現れた。


「エリオットさん! お待たせしました!」


(この声は――エマさん!?)


 エリオットたちの危機を覆す、唯一の希望。


 その姿を見て安堵しかけたエリオットは、すぐに首を傾げた。


「って――なんですか、その体勢」


 エマは、クレハにお姫様抱っこされていた。


「……あ」


 自分が抱えられていることを思い出したように、エマの顔が赤くなる。


「ま、また――この魔族は……!」


 リゼットの声が低くなる。


「おお! 魔族の姉ちゃん! こりゃ百人力だぜ!」


 対照的に、BCDの四人は歓声を上げた。


「こ、これ! 領地から持ってきました!」


 地面へ降ろされたエマが魔導袋をひっくり返す。


 大量の魔力回復薬が、硬い音を立てて床を転がった。


(…………エマさん。本当に、あなたは――)


「エリオットさん! 早く!」


「……はい!」


 エリオットは薬を拾い、中身を一息に飲み干す。


 焼けつくような感覚とともに、枯渇していた魔力が満ちていく。


 顔を上げると、クレハを含む全員が彼を守るように陣取っていた。


「では、始めようか。領主殿」


「ええ。僕たちの領地を守りましょう!」


 ――最後の戦いが始まった。


◇◇◇◇◇◇


 先陣を切ったのはクレハだった。


 愛刀を横薙ぎに振るうと、刃から放たれた黒い斬撃が通路を駆ける。先頭の魔物だけではない。その背後に密集していた群れまで切り裂き、一度に魔水晶へ変えた。


「な、なんて威力……」


 リゼットが息を呑む。


 だが、すぐにクレハへ鋭い視線を向けた。


「か、勘違いしないで。アンタのこと、まだ信用したわけじゃないから」


「それで構わない。背中は預けよう」


「……その態度が気に入らないのよ!」


 文句を言いながらも、リゼットはクレハの死角へ飛び込んだ。黒い斬撃を逃れた魔物の急所へ刀を突き立てる。


 警戒しているからこそ、その力量が分かる。


 クレハの闇魔術は強大でありながら、味方を一人も巻き込まない。魔物の動きと仲間の位置を、一瞬で見極めていた。


「少年、右を頼む!」


「分かりました!」


 エリオットは両手を前に広げた。


 生み出した風が渦を巻き、右側の通路へ雪崩れ込む魔物を押し留める。そこへ圧縮した風の刃を何本も放ち、次々と切り裂いた。


 闇と風。


 二つの魔術が、押され続けていた戦線を一気に前へ進めていく。


『クレハ、やっぱり魔族だな。強すぎる』

『本当に味方を守りながら戦ってるぞ』

『やっぱりこの力、王国にとって脅威じゃないのか?』

『でも、逃げずに領地を守ってる』

『命まで賭けて戻ってきたんだろ?』


 コメントの空気も、少しずつ変わり始めていた。


 クレハは言葉で善性を訴えない。


 人間を庇い、領地を守る姿そのものが、何より雄弁な証明になっていた。


「お頭ぁ! 後ろです!」


「任せろぉ!」


 ニックの声に、バルガスが大剣を振り抜く。


 しかし、勢い余って体が一回転し、隣のニックまで巻き込みかけた。


「お頭ぁ!?」


「避けろニック!」


「攻撃した後で言うんですかい!?」


 ニックが転がったその頭上を魔物の爪が通過する。


 空振りした魔物へ、カーネルの炎が直撃した。


「大丈夫ですか!」


「アッツ!! おいカーネル! 俺! 俺いるから!」


 燃え上がった魔物へ、シグが踏み込む。


「――斬る」


 刃こぼれした刀を一閃。魔物の足を断ち、倒れたところをバルガスが大剣で仕留めた。


 彼らのスタイルは洗練とは程遠い。


 怒鳴り合い、転び、互いを巻き込みかけながら、それでも四人は一歩も退かなかった。


「エマさん! 回復薬を!」


「はい! 次はカーネルさん、その次はリゼットちゃんの分を!」


 エマは戦場を走り回り、残った本数と全員の消耗を見極めて薬を届ける。


 誰か一人の力だけではない。


 追放された領主。追放されたポーター。居場所を失ったアサシン。王国に恐れられる魔族。そして、悪名を背負った迷惑配信者たち。


 この領地へ流れ着いた全員が、互いの足りないものを補って戦っていた。


「クレハさん! 道を開けます! 一掃しますよ!」


 エリオットが両腕を振り下ろす。


 暴風が魔物の群れを左右へ押し分け、奥まで続く一本の道を作った。


「承知した!」


 クレハがその中央を駆ける。


 愛刀へ闇が集まり、刃を覆う黒い光が巨大に膨れ上がった。


「――ここは、私たちの居場所だ!」


 振り下ろされた斬撃が、ダンジョンを揺らした。


 黒い奔流が通路の奥へ突き抜け、集結していた魔物をまとめて呑み込む。爆ぜた闇とエリオットの風が絡み合い、洞窟を震わせる轟音となった。


 土煙が晴れていく。


 そこに残っていたのは、足元を埋め尽くすほどの魔水晶だけだった。


「…………魔物の波が……止まった?」


 エマが呟く。


 耳を澄ませても、奥から新たな足音は聞こえない。


 地上を目指していた魔物の動きは、確かに止まっていた。


『勝ったのか!?』

『スタンピードを止めた!』

『クレハが人間を助けたぞ』

『全員で守ったんだ』

『すげえ……』


 歓喜するコメントが流れていく。


 BCDが声を上げ、エマは胸を撫で下ろした。リゼットも警戒を解かないまま、クレハの実力を認めるように小さく息を吐く。


 だが、エリオットだけは暗い通路の奥を見つめていた。


(…………とりあえずは、なんとかなった……のか)


 目の前の危機は去った。


 それでも、なぜ魔物が一階層へ集まり、地上を目指していたのか。その原因は、何一つ分かっていない。


 静まり返ったダンジョンの奥から、冷たい風が吹き抜ける。


 戦いは終わった。


 だが、この異変の原因がわからないままでは、またいつこの脅威が領地を襲うか、わからなかった。



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