↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界配信革命〜追放された無能ポーターをバズらせる転生イベント屋、死の大地でダンジョン配信と領地経営を始めます〜  作者: プロテイン長田
第6章「追放者たちの居場所」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/39

第35話「美人魔族が領地のために命を差し出します」

## 第35話「美人魔族が領地のために命を差し出します」


### 【あらすじ】


 ダンジョンに押し寄せる魔物の数は、エリオットたちの予想を遥かに上回っていた。このまま戦い続ければ、先に力尽きるのはこちら側。そう判断したエリオットは、応援を呼ぶためエマを領地へ送り出す。


 エマは死の大地をたった一人で走り抜け、騎士団長シルヴィアのもとへ辿り着いた。


 エマは、騎士団に拘束されているクレハを解放し、自分たちと一緒に戦わせてほしいと訴えた。魔族への恐怖と偏見が残る王国中の視聴者も、その行方を見守っていた。


### 【本文】


「すまないが、この判断は変わらん。魔族を解き放つわけにはいかない」


「そんな……! どうして分かってくれないんですか!」


 地下室前の冷たい廊下に、エマの声が響いた。


 騎士団長シルヴィアの意思は堅い。


 クレハに人間を害する意図がないことは、彼女にも伝わっている。それでも、王国を守る騎士団長という立場が、個人的な感情だけでクレハを解放することを許さなかった。


 エマの隣では、追従してきたカメラが二人の姿を映し続けている。


『ここまで走ってきたのに……』

『騎士団長、冷たすぎないか?』

『相手は魔族だぞ。慎重になるのは当然だろ』

『この場で討伐するべきだ』

『クレハは領地のために戦おうとしてるんだろ?』

『逃げたら誰が責任を取るんだ』


 視聴者の間でも、激しい議論が巻き起こっていた。


 魔族だからという理由だけで拘束することへ怒る者。王国にとって危険な存在は討伐すべきだと主張する者。


 賛否は入り乱れ、収まる気配がない。


「お願いします! このままでは、エリオットさんたちが――」


 エマが再び騎士団長に詰め寄ろうとしたその時――


『みなさん、聞こえていますか?』


 エマの言葉を遮るように、騎士たちが見ていた配信から声がした。


 咆哮と激しい戦闘音に混じっていても、聞き間違えるはずがない。


「エ……エリオットさん!?」


 配信に映っていたのは、カメラの前に立つエリオットだった。


 偶然映り込んだのではない。


 彼は押し寄せる魔物と戦いながら、意図的にカメラの視界へ入っている。


 彼の放つ魔術で風が渦巻き、獣型の魔物を押し戻す。背後ではリゼットとBCDが戦い続け、通路の奥からは新たな群れが迫っていた。


『僕の名前は、エリオット。エリオット・ノクスヴェルトです。今回は、皆さんにお知らせしたいことがあって配信に映っています』


 魔物の爪が、エリオットの側面から迫る。


 彼は風の膜で軌道を逸らし、そのままの流れで魔物を吹き飛ばす。


『…………レイド・スターズを追放されたエマさんの配信を、企画・演出していたのは僕です』


 その告白を境に、コメントの流れが一変する。


『演出って、あのカメラが切り替わるやつ?』

『エマの戦い自体がやらせだったってことか?』

『この状況も演出?』

『さすがに騎士団長まで巻き込むのは無理だろ』

『やっぱり、こいつがノクスヴェルト家の子供領主か』


 エマの伝令とクレハの処遇に集まっていた関心が、一斉にエリオットへ向けられた。


『ですが――この状況は、完全に僕の演出……予定していたシナリオから大きく逸脱しています』


 エリオットは、荒い呼吸を押し殺しながら続ける。


『これは、ひとえに僕が領主として不甲斐ないせいです。エマさんの配信を成長させることばかり考え、後先を考えなかった結果です』


「エリオットさん……」


「領主殿、これは一体……」


 シルヴィアもまた、険しい顔で配信を見つめている。


『レイド・スターズの件もそうです。僕の演出でダンジョンの危険度を誤認させ、王国一の人気グループに迷惑をかけてしまいました。BCDの皆さんも……巻き込むような形になってしまって――』


 すべてが真実ではない。


 レイド・スターズは自らの意思でダンジョンへ入り、BCDも命令されて動くような者たちではなかった。


 それでもエリオットは、自分一人へ責任が集まる言い方を選んだ。


 エマとクレハを守り、この状況で他者にヘイトが移らないようにする一世一代の賭け。


 だが、いつもの配信とは違う。


 カンペを出す相手も、コメントから視聴者の反応を見ることもできない。


 今、大衆が怒っているのか。同情しているのか。その割合がどうであるのか。


 次にどんな言葉を選ぶべきなのか。


 エリオットには何も分からない。


 できるのは、頭の中にある思いを伝えることだけだった。


『ですから、この状況――すべての責任は僕にあります。領主として、自分の領地を守るために、今、戦っています』


 突進してきた魔物を風で受け止める。


 靴底が岩肌を滑り、小さな体が後方へ押された。それでもエリオットは喋り続ける。


『本家から任された、この領地。そこに集まった領民たち――その中には、皆さんもご存じのとおり、魔族のクレハさんもいます』


 一度言葉を切り、息を吸う。


『彼女の居場所は、今、ここにしかありません。だから――』


 エリオットの周囲へ、これまでとは比べものにならない魔力が集まり始めた。


 空気が震える。


 足元の砂埃が渦を巻き、魔物たちの毛が風に逆立つ。近くで戦っていたバルガスたちまで、慌てて身を低くした。


『僕は、この領地を守りたい!』


 直後、圧縮された風が炸裂した。


 轟音とともに通路を吹き抜け、押し寄せていた魔物の群れをまとめて奥へ押し返す。追従しきれなかったカメラが激しく揺れ、配信の視界が一瞬、土煙に覆われた。


「騎士団長! このままじゃ、エリオットさんが危険です!」


 エマは配信へ詰め寄った。


「あの人、いつも魔力を使いすぎて――また倒れちゃいます!」


 画面が揺れを収める。


 そこには、すこしよろめきながらも立ち続けるエリオットの姿があった。


『クレハさんは、共にこの領地を作ってきた仲間です。人間族に恨みも、敵意もありません。それは、間違いようのない事実です』


「騎士団長殿」


 黙って聞いていたクレハが、とうとう一歩前へ出た。


 騎士たちが槍を構える。だが、クレハは抵抗する素振りを見せず、真っ直ぐシルヴィアを見つめた。


「行かせてくれ。頼む。私は彼を救わねばならない」


「…………」


 シルヴィアの表情に、僅かな迷いが浮かぶ。


 王国騎士団長として、何を選ぶべきなのか。


 魔族侵攻以来、王国内で魔族が発見された前例はない。本来なら、即時討伐という判断を下してもおかしくなかった。


 しかし、今、目の前にいるクレハは逃亡を願っていない。


 自分を受け入れた領地と、そこで戦う仲間を救いたいと願っている。


『行かせてやってくれ!』

『いいわけないだろ。自由になったら何をするか分からん』

『あの子供領主の自業自得だ』

『でも、このまま全員死ぬのを見てるのか?』

『騎士団長が責任を取れる話じゃないだろ』


 エリオットの告白を聞いても、なおコメントは賛否に割れていた。


 クレハの善性を信じるだけでは、騎士団長の責任を取り除けない。


 事態が再び膠着しかけた、その時。


「……一つ、提案がある」


 クレハが静かに告げた。


「なんのつもりだ」


 シルヴィアが警戒を強める。


 クレハはその場でそっと膝を折り、騎士団長の前へ跪いた。


「契約をしてくれ」


「…………言っている意味が分からんな」


「クレハさん……?」


 エマにも、彼女が何を始めようとしているのか分からなかった。


 クレハは顔を上げる。


 その瞳に、迷いはない。


「王国に対して契約を結ぶ。私が人間へ害をなした時は――この命を差し出す」


 廊下が静まり返った。


 騎士たちも、エマも、配信を見ていた者たちさえ、言葉を失う。


「これで、どうだろうか」


「…………自分が何を言っているのか、分かっているのか」


 シルヴィアの目が鋭くなる。


 それは、単なる口約束ではない。


 クレハは自由を得るためではなく、この領地の一員として戦うために、自らの命を担保にしようとしていた。


「ああ。承知の上だ」


 エリオットが領地のすべてを背負ったように。


 クレハもまた、自分のすべてを賭けて、領地防衛へ乗り出そうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。