第32話「美人魔族を救うため迷惑配信者が動きます」
## 第32話「美人魔族を救うため迷惑配信者が動きます」
### 【あらすじ】
騎士団に捕らえられたクレハは、敵意がないと認められながらも、王国へ報告されたうえで処分を待つことになった。エリオットはシルヴィアから、彼女が大陸を追放される可能性を告げられる。
クレハを再び孤独にしないと誓うエリオットだったが、魔族に対する王国の偏見を覆す方法は見つからない。そんな中、魔族発見の噂が王都へ漏れ、恐怖と拒絶の声が広がり始める。
さらにBCDが、クレハと生活していた事実を明かす緊急配信を無断で開始した。エリオットは彼らを止めず、世間の反応を確かめる最初の一手として利用すると決める。
### 【本文】
「俺たちゃな……泣く子も黙る、あの恐ろしい魔族と同じ屋根の下で生活してたんだ」
「いやあ……最初に見た時はびっくりしやしたぜ。あんまりにも美しくて! ダッハッハ!」
「そっち!? いや、僕は普通に気絶しそうになりましたけど!?」
「…………見事に手入れされた刀。武の心を感じた」
バッド・クレイジー・ドッグスによる緊急配信。
そこでは、バルガス、ニック、カーネル、シグが、それぞれの言葉でクレハへの思いを語っていた。
『思ってたのとだいぶ違う』
『マジで言ってんの?』
『魔族に洗脳されてるんじゃ』
『いや、こいつら洗脳されるほどの脳みそないだろ』
コメントは凄まじい勢いで流れていく。その大多数は、魔族という存在への嫌悪や恐怖に満ちていた。
「お~いおいおい……お前ら、ビビりすぎだっつうの」
そんな世論に、バルガスは臆することなく噛みついた。
「そもそもお前ら、本物の魔族見たことないだろ?」
『あるわけないだろ』
『何言ってんだこいつ』
『俺は見たぞ。子どもの頃、絵本で』
「あ、それなら僕も読んだことあります。角が生えてて、恐ろしい牙が生えてて……人間族を食べちゃうんですよね!」
「ダッハー! こりゃお笑いだ! いや、俺はむしろ食べられたいくらいだ! 別の意味でな!」
「ニックさん!?」
「…………低俗」
『ニック絶好調だな』
『そんなに美人なのか?』
『最低すぎる』
彼らの配信は、魔族への恐怖を消せてはいない。
しかし同時に、それまで伝承の中にしかいなかった魔族への関心を、急速に高めていた。
別の部屋で配信を追っていたエリオットも、その空気の変化を感じ取っていた。
「ちょっと! 何やってんのよ! バカどもが勝手にクレハのことを配信してるわよ!」
BCDの配信に気づいたリゼットが、勢いよく部屋へ飛び込んでくる。
「――って、呑気なものね。二人で仲良く配信見てるじゃない」
エリオットとエマが並んでライブクリスタルを眺めているのを見て、リゼットは呆れたように言った。
「まあ……勝手にクレハさんのことを配信するのはいただけませんが、存外、いいタイミングだったのかもしれません」
「いいの? これで王国中に彼女のことが知れ渡るけど」
「コメントを見る限り、魔族が見つかったことは、その前から知られていたようです。騎士団の誰かが漏らしたか、あるいは――」
エリオットは、クレハの気配に気づいていたギルド職員のクラウディアを思い出す。
(ギルドが独自に動いた可能性もある。ここのダンジョンが正式に稼働すれば、ギルドの収入は増える。そのためにクレハさんの存在をどう見ているかは分からないが……)
「じゃあ、止めないの? あのバカたち」
「はい。今のところ、その必要はないと思っています」
「そう……まあ、私からしたら、エマちゃんをたぶらかすキス魔がどうなろうと知ったこっちゃないけどね」
「その割には、クレハさんのことを黙っていてくれましたよね?」
「なっ……!? それとこれとは違う話でしょ!」
「私、別にたぶらかされてませんよ……?」
BCDが面白おかしく語るクレハの姿に毒気を抜かれ、ようやく三人の緊張が少しだけ和らいだ。
「……でだ。本題はここからだ」
配信の中で、バルガスが声の調子を落とした。
「今、その魔族の姉ちゃんが騎士団に捕まってる」
『当然だろ』
『むしろ安心した』
『う~ん、何もしてないのに捕らえる必要ある?』
『BCDにいじられるくらいなら、大丈夫なんじゃね?』
ついに配信は、クレハが捕縛されているという本題へ移る。
「俺たちゃなぁ……人間族のはぐれ者として、彼女に対する不当な扱いに異を唱えてえんだ」
『大丈夫だ。お前たちは魔族ほど怖くない』
『自分たちを魔族と同列だと思ってんのか』
『おこがましすぎる』
「うるせえ! 黙ってろってんだ!」
『怒った』
『さすがすぎる』
『BCD本領発揮してきたな。最近は格好よすぎた』
「俺たちを領民……いや、“宣伝大使”として受け入れてくれた領主、偉大なるノクスヴェルト家のお坊ちゃんが、その魔族を領民として受け入れてんだ。俺たちも、その助けがしてえ」
『ノクスヴェルトって……あの?』
『どういうこと?』
『噂だが、エマちゃんの配信にも一枚噛んでるらしいぞ』
『だから死の大地なのか』
『たしか、ノクスヴェルト家が昔手を出して失敗してたよな』
『こいつらが領民で、しかも宣伝大使って……』
『その領主、無能すぎない?』
「おーい! 今、無能っつった奴! ギルドに問い合わせんぞ?」
『キレた』
『お前ら、ギルドに顔出せんの?』
『問い合わせされる方が何か言ってる』
「お、お頭ぁ……熱くなりすぎですぜ」
「そ、その辺にしておいた方が――」
「…………冷静に」
『仲間にたしなめられてる』
『でも、こいつがここまで他人の肩を持つの、珍しいよな』
『確かに。いつもなら魔族を晒し上げてそう』
『本当に魔族って、そんなに危険じゃないのか?』
『こいつらとつるむくらいだから、大したことないのかも』
エリオットは、いつの間にか配信へ見入っていた。
これまで迷惑系として散々な扱いを受けてきた――その原因は本人たちにあるため擁護できないが――彼らが初めて誰かのために行った配信は、確かに人々の心を掴み始めていた。
冷やかしや罵倒は多い。それでも、その中で魔族に対する印象が少しずつ変わっていく。
「ねえ……あいつら、本当にバカすぎない?」
「そうですね。愛すべきバカというか、何というか」
「でも……みんな、クレハさんのために頑張ってくれてるんですよね」
三人は、そのまま配信を見守った。
数時間に及んだ緊急配信は、翌朝になっても王都の話題の中心にあり続けた。
◇◇◇◇◇◇
その頃、死の大地のダンジョンでは、誰にも知られぬ異変が起きていた。
食堂のために継続して持ち出された、魔物の餌であり魔力資源でもあるダンジョン芋。
エマの救出や配信、食材探索によって低階層で繰り返された戦闘。
そして昨夜、内部へ放たれた聖剣の力。
外部から加えられた幾つもの刺激によって、ダンジョン内の均衡は崩れ始めていた。
芋が減り、魔物の分布が変わった低階層。その暗闇で、残された魔物たちが新たな魔力を求めて動き出す。
向かう先は、深層ではない。
死の大地のダンジョンは、外部からの変化へ“適応”するように――出口へ向けて魔物を集め始めていた。




